ミーティング 4
「それで、『フレンド』になってもらう見返りだけど、
一緒に行動している間は、全て経費はこちらで持つ。
食費や宿泊費、物資、装備、などなど全部こっちでまとめて払うよ」
「ええ・・・? いいのかい? 結構お金がかかるんじゃ・・・?」
「わ、私とクララ、その、わ、わりと、たくさん食べるけど・・・」
「あー、全然問題なし。こっちもエンリイは幸せそうに
沢山食べるよ。お金はエルロー辺境伯の金庫から盗んだものと、
ダンジョン破壊した時のお宝がある。普通に考えて一生かかっても
使いきれないだろうから平気。採算がどうとか、損得がどうとかは
気にしないで欲しい。全部こっちで持つよ。装備の新調も
全額こちら持ちでいいから遠慮なく言って欲しいな。
こちらはそれで十分お釣りがくるメリットがあるからさ」
「ダンジョン破壊だって・・・? それってB級冒険者に
昇格できるほどの偉業じゃないのか?」
「あの時は、俺とモコ、エンリイに加えて、B級冒険者の
ジャンジャックとグレゴリオ殿がいたから・・・。
まあ、その辺の説明はモコとエンリイにまとめてしてもらおう。
さて、なんだかんだ、お昼近くなったし、説明は食事しながら、
ゆっくり進めよう」
幸太郎はまず時計塔を設置して、それに支柱を結び、
シーツでタープの代わりを作った。
そして『マジックボックス』からテーブルと椅子を取り出して並べた。
さらに、調理台として、少し離れた所にテーブルと
魔法のコンロなどを出す。
「ちょ、ちょっと、コウタロウ、あんたの『マジックボックス』って、
どんな広さしてんのさ!?」
「まあまあ、落ち着いて、クラリッサ。まずはお茶を出そう。
モコ、エンリイ、説明をお願いね」
「お任せください。順番に説明します」
「りょーかい。でも、『辺境伯家乗っ取り未遂事件』とか、
『不死身のニコラ』の話は、ちょっと気が重いかも」
エーリッタとユーライカも苦笑いする。
「あー、確かに、どっちもヘビーな話よねー・・・」
「胸糞悪いニコラの話は、食事の後にしよーよ」
「大丈夫よ。私が人狩りから助けてもらった話から、
エルロー辺境伯を倒した話、ダンジョン破壊の話だけでも、
かなり時間はかかるはずよ。それに大神オーガスと
女神リーブラの正体が悪魔だって話とか、ニコラの話に
なるまでに食事は終わってるはずだわ」
モコの話にクラリッサとアーデルハイドが仰天している。
「大神オーガスと女神リーブラが・・・」
「しょ、正体は、悪魔???」
幸太郎はすでに料理を始めていた。会話は女性陣の間で
どんどん進んでいる。もう、後は成り行きに任せておけばいい。
(他人と仲良くなる近道は雑談だよな)
とりあえず、お湯を沸かして紅茶を淹れた。6人分を
テーブルに運び、1人1人の前に並べた。
アーデルハイドが牛乳など、乳製品が好きだというのを思い出した
幸太郎は『ミルクティーもいいかもね』と牛乳と砂糖を出しておく。
次に幸太郎は手っ取り早くソーセージを炒め、それを大皿に取る。
熱々のソーセージにたくさんのチーズをのせて
女性陣のテーブルへ持って行った。
モコには例によって『干し肉』も出す。
これをあっさり噛み切れるのはモコだけだが。
ついでに、口寂しいといけないので、大量のパンとバター、ジャムも
テーブルに出した。
幸太郎は野菜を刻み、油で炒める。並行して野菜たっぷりのスープ。
メインとしてステーキとガンボアトラウトのムニエル。
とにかく、じゃんじゃん焼く。思った通り、エンリイだけでなく、
クラリッサとアーデルハイドもかなりの大食漢だったからだ。
(そのうち、パンなどは補給しなくちゃな・・・)
幸太郎は、そんなことをぼんやりと考えた。
女性陣は食べながら、話に花を咲かせている。
小食のエーリッタとユーライカはすぐに満腹。
モコは(胸が)太るからと、抑えてる。
一切の手加減なしはエンリイ、クラリッサ、アーデルハイドだ。
『うまい!』『おいしい!』とバンバン食べていた。
クラリッサも妹と同じく乳製品が好きらしい。
ソーセージの上でとろけるチーズに舌つづみを打つ。
そして牛乳をぐびぐび。ぷはー。
あとはメロンやリプタの実をデザートに出しておけば安心。
美味しそうに食べる女性は魅力的だ。笑顔がいい。
みんなで飲み食いしながら、事情の説明が続く。
幸太郎は説明をモコとエンリイに任せて、昼寝。
時計塔で簡易ベッドを作り、ごろんと横になる。
いい風だ。穏やかで爽やかな風が心地よい。
「・・・。・・・さま。ご主人様」
モコの声で幸太郎は目が覚めた。例によって、モコは幸太郎の
右手を頭に乗せていた。半分寝ぼけている幸太郎は、
そのままモコの頭をもちゃもちゃと撫でた。
モコのふさふさの尻尾が『もさこら、もさこら』揺れる。
やっぱりかわいい。
幸太郎が首を回してモコの方を見ると、エンリイ、
エーリッタ、ユーライカ、クラリッサ、アーデルハイド全員が
近寄って幸太郎の顔をにこにこと眺めていた。驚いた幸太郎は
起き上がろうと、モコの頭から手を放す。
しかし、モコは両手で『がしっ』と幸太郎の右手を捕まえて
『続けて』と無言の要求。
(こ・・・こんな美女たちに見つめられるなんて、
前世では考えたこともなかったなぁ・・・)
人生とは、わからないものである。一回死んでるけど。
「4時になりました。そろそろ帰りましょう、ご主人様」
満足したのか、ようやくモコが手を放してくれた。
「もう4時か。俺、けっこう寝てたんだな。えーと、
事情の説明は終わったかな?」
「はい。一通り済んでます。情報の共有はできました」
「それは良かった。ありがとう、お疲れ様。
じゃあ、ぼちぼち片付けて帰ろうか」
幸太郎は起き上がると、食器などを『洗浄』で片付け、
テーブルや椅子も『マジックボックス』に吸い込んでいく。
あっという間に片付けは終了。帰途に就いた。
「あたいたちは、今夜は『黄色のコマドリ亭』に泊るけど、
明日はギルド運営の宿屋に引っ越すよ。その方が、お互いの
連絡が取りやすいだろ?」
帰り道、クラリッサが幸太郎にそう言った。
「そうしてもらえると、有難い。もちろん、宿代はこっちで持つから
1部屋取ってくれ」
「あたいたちは、コウタロウの部屋でもいいけど?」
その瞬間、モコとエンリイが『じろっ』とクラリッサを睨んだ。
「ははは、いやいや、冗談だって」
慌ててクラリッサは手を振った。
「寿命の縮むような冗談はやめてくれよ、クラリッサ・・・」
困り顔の幸太郎を見たエーリッタとユーライカは大笑いした。
カーレに戻って、クラリッサとアーデルハイドと別れる。
明日からは同じ宿へ帰ることになるが、今日はもう宿泊費を
支払っているので別々の宿だ。
幸太郎、モコ、エンリイは、冒険者ギルドに寄ることにした。
クラリッサ、アーデルハイド組と『フレンド』になったことを
ギルドへ報告し、個人のファイルに記載してもらうためだ。
エーリッタとユーライカは、そのまま部屋へ戻った。
ルイーズに『モコとエンリイが、すっかりクラリッサたちと
仲良くなっちゃって』と幸太郎が言い訳をする。
ルイーズは『へぇ~、そうなんですか~』とニマニマしながら、
言い訳を聞き流す。
すると、幸太郎たちの後ろから、声をかけてくる男たちがいた。
「こんにちは。初めまして、私はジェムーン。こっちは
ドロフェヴィチとビーレックです。
幸太郎君とモコ君、エンリイ君ですね?
私たちは明日一緒に行動するパーティーです。よろしく」
(C)雨男 2024/09/14 ALL RIGHTS RESERVED