ミーティング 3
幸太郎は別にハーレムを作ろうなどと思ったわけではない。
しかし、幸太郎の思惑とは別に、結果としてそういう構成に
なってしまっただけだ。本当なら、前衛を任せられる『フレンド』は
ゴツいドワーフみたいな男が理想だった。美女ばかりだと
目立って仕方ないし、タンク役を女性に任せるのは、
本音を言えば少々気が引ける。
しかし、能力的に見れば、クラリッサとアーデルハイドには
文句のつけようがない。
昨日、クラリッサが後ろから剣で刺されて瀕死になったが、
もしあれが幸太郎だったら即死していたかもしれない。
それほどクラリッサはタフなのだ。腕力も頑丈さも、幸太郎など
足元にも及ばない。『男が良かった』と言うのなら、
それは彼女たちの努力と経験、実力に対しての侮辱でしかないだろう。
『フレンド』が美女ばかりになってしまったのは、
幸太郎の思惑が全く入っていない。
現状、幸太郎とモコは『新人』であり、任務の『監督官』は
ギルドが選んでいる。幸太郎自身は最後の『フレンド』パーティーを
E級に昇格してから、ゆっくり慎重に探すつもりだった。
しかし、その計画は霧散した。
計画は動き出す前に露と消えたのだ。
もちろん、冒険者ギルドが意図して仕組んだわけでもない。
『草刈り』の時は、監督官は付かないので、関係なし。
『薬草採集』の時のデイブとデボラは『男1、女1』のコンビだった。
つまりギルドの事務員から『同様のパーティー構成』ということで
選ばれていた。すでに、この時『女性を含むパーティーを監督官に
しても大丈夫』とギルドに思われていたわけだ。
『鳩師の護衛』では監督官はアーデルハイド1人。
この依頼は毎日あるし、盗賊に襲われる可能性がほとんどない。
仮に鳩師を襲うと『敵国の仕業か?』と騎士団が
大量にうろつきだす。盗賊としては『狙う意味が無い』相手。
そのため監督官は本調子でないアーデルハイド1人でも
大丈夫と判断されていた。おまけにデイブとデボラの報告から、
『女性が単独で参加しても安心なパーティー』へと
評価が変化していたのだ。
『商人の馬車を護衛』する依頼では、アーデルハイドの姉が、
お礼を兼ねて監督官に参加。護衛4人の中で、男は幸太郎だけの
状態になっているが、ギルドは『問題ない』と判断している。
そもそも幸太郎のパーティーは『幸太郎、モコ、エンリイ』の
男1人に女2人の構成。女性のD級冒険者を、監督官として
参加させやすい状況が最初から出来上がっていた。
もちろん、ギルド側の都合もある。C級冒険者へ昇格するには
『割に合わない仕事』もこなす必要がある。
『やってらんねー』で任務から逃げ出すような奴は、
C級に上げるわけにはいかないのだ。
『新人』の監督官はC級に上がるためには重要な仕事。
評価を稼げる案件。
しかし、当たり前だが、『冒険者』は男の方が多い。
男のほうが戦闘向きにできているせいだ。
その一方、生きるか死ぬかに男女の区別はないので、
女性冒険者もフツーにいる。
フツーにいるが、数はどうしても少数派。その女性冒険者を1人、
例えば『男4人のパーティー』に監督官として、参加させて
いいのかどうか?
・・・だめだろう。
いくら『新人』とはいえ、警察も監視カメラもスマホも無い荒野で、
下品な荒くれ者4人の中に女性1人参加させて無事なわけがない。
そういう意味で、『女性冒険者を監督官にしていい』パーティーは、
ギルドにとっても貴重なのだ。
こういう機会に、できるだけ女性冒険者に
監督官をやれるチャンスを回したい。
結果、女性2人がメンバーである幸太郎のパーティーは、
女性監督官ばっかりと組まされたわけである。
「いや、理屈ではわかってるんだよ、カルタス。
そりゃあ、俺のパーティーは女性冒険者が監督官になっても、
襲われる心配が無いんだろうさ。
しかし、結果としてモコ、エンリイに加えて、美女4人が
『フレンド』ってのは、実際頭の痛い状況ではあるんだ・・・。
滅茶苦茶かわいいモコとエンリイだけでも、
目立って仕方ないってのに、
金髪碧眼の美しいエルフの少女2人、健康的な日焼けがまぶしい
頼れるハーフドワーフの美女2人・・・。
この6人と歩くと、周囲の視線が集まり過ぎるんだよ・・・。
今朝も、門を出るまで、どれだけ周囲から
ジロジロ見られたか・・・。え? 何?」
カルタスが女性陣の方へ『ちょいちょい』と指をさす。
モコとエンリイはうっとりした顔でしっぽふりふり。
エーリッタとユーライカは少し赤くなってドヤ顔。
クラリッサとアーデルハイドは頭をかいて照れている。
「あ・・・。う、いや、こ、これは・・・」
幸太郎も赤くなって、しどろもどろに。
そして幸太郎は、いきなりシャキッと背筋を伸ばすと、
カルタスたちに偉そうな口調で誤魔化しにかかった。
「こ、これからも、卿らの力に期待している!
みんな、よろしく頼むぞ!!」
「はっ! お任せ下さい!」
幸太郎は『冥界門』を閉じ、カルタスたちは冥界に戻った。
幸太郎は『誤魔化しきった』事にして、話を戻す。
「えー、今のが、冥界から来てくれる援軍だよ。
ただ、俺が『冥界門』を開くときは、人目が無いときに限られる。
今日のミーティングの場所を海岸からこっちに変更したのも
このためだよ。
先日、狼の群れがビエイ・ファームを襲った時、俺はやむを得ず、
『冥界門』を開くところだった。そうなったら、俺たちは
カーレを捨てて逃げ出すしかない。
絶対に『黒フードのネクロマンサー』と疑われるからね。
・・・本人で間違いないんだけどさ。
このように、俺は人目のある所では『戦えない』んだ。
このことをクラリッサとアーデルハイドはよく憶えておいてくれ。
攻撃はモコ、エンリイ、エーリッタ、ユーライカ、
クラリッサ、アーデルハイドに頼り切ることになる」
そして、幸太郎は真剣な表情で宣言した。
「だから、もうこれ以上『フレンド』は増やさない。
・・・いや、増やせない。
これ以上『知ってる人』が増えると、
いざという時に全てを捨てて逃げ出せなくなる恐れがある。
それに先ほど体験した通り、『情報の齟齬』も発生しやすくなる。
クラリッサとアーデルハイドの『前衛職』としての力は
文句なしだよ。B級冒険者のグレゴリオ殿を除けば、
これ程のパワーを持つ冒険者は他にいないだろう。
弓を使うエーリッタとユーライカが後衛タイプ。
そしてクラリッサとアーデルハイドが前衛タイプ。
『フレンド』に欲しかった構成が、これで揃ったわけだ。
だから、これ以上、どこかのポジションを増やす必要がもう無い。
クラリッサ、アーデルハイド、巻き込む形になってすまないが、
『フレンド』になってくれてありがとう。俺たちに力を貸して欲しい」
「大丈夫だよ。お姉さんに任せときなって」
「わ、私も、がんばる」
クラリッサとアーデルハイドはアルプス級の胸を叩いて承諾してくれた。
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