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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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ミーティング


 一夜明けて、翌日。



幸太郎、モコ、エンリイ、エーリッタとユーライカ。



そしてクラリッサとアーデルハイドが連れ立って門を目指し



歩いている。全員、昨日のうちに『明日は休みにする』と



ギルドに報告してあった。美女を6人も連れて歩くと、



滅茶苦茶目立つが、もう、どうしようもない。





門を出る時、外出許可証を門番にもらう。発行料は『新人』は銀貨2枚。



E級とD級は銀貨1枚。C級のエンリイはタダである。





「あ、クラリッサたちもお金は出さなくていいよ。


全部こっちで払うからさ」





「いいのかい?」





クラリッサはきょとんとしている。





「いーのいーの。幸太郎さんに任せとけば」





エーリッタが笑ってクラリッサのたくましい背を押した。








幸太郎たちは海へ・・・は、行かない。今日は海から離れて、



薬草採集に行った森の方へ。目当ての場所はさほど遠くない。



先日、幸太郎はデイブとデボラと共に薬草採集をした。その時に、



周囲を低い丘で囲まれた、小さな盆地を見つけたのだ。





簡単に言えばニコラと戦った場所と同じような条件となっている所。





ただ、あちらに比べれば、一番低い中央の部分は10メートル四方程度で、



はるかに小さい。人目に付かないように戦闘ができる場所ではない。



しかし、ニコラと戦った場所は、すっかり有名になってしまった。



誰が見に来るかわからないので、あの場所は、もう2度と使えないのだ。





いつもの海岸でもいいが、あの場所は街道を通る人から丸見え。



万一にも誰か興味を持った人が近寄って来ないように、



今日は場所を森の方へ変えていた。そしてもう1つこの場所で



なくてはならない理由がある。








「さて、今日は集まってくれてありがとう。ご飯はこちらで


用意するから心配しないでくれ。まあ、とりあえず、


みんな座って座って」





幸太郎たちは車座になって座った。幸太郎は声が漏れないように



『密室』も展開。



全員座ったところで、幸太郎はクラリッサとアーデルハイドに説明を始める。





・・・はずだった。





いきなり、その場が凍り付いた。エーリッタのセリフが原因だ。





「幸太郎さんが『黒フードのネクロマンサー』だったなんて、


ビックリしたでしょ?」





「「えっ・・・?」」





クラリッサとアーデルハイドが目を見開いて驚いた。



それはそうだろう。この2人は幸太郎が『荒野の聖者』であることしか



聞いていないのだ。・・・まだ。





エーリッタは、すでにクラリッサとアーデルハイドが、ある程度の



情報を知らされていると勘違いしていたのだ。





モコとエンリイが、ものすごい勢いで立ち上がり、小太刀を抜き、



棍を構えた。2人の顔は厳しく、完全に戦闘モードに入っていた。





「ま、待て、2人とも、落ち着いて」





幸太郎がモコとエンリイを止めた。だが、2人の戦闘モードは



解除されない。





「・・・ご主人様は黙ってて下さい」





「幸太郎サンは黙ってて」





この状況は、ほんの僅かなすれ違いが原因。もちろん、幸太郎は



クラリッサとアーデルハイドに全部打ち明けるつもりだった。



それをエーリッタが先にバラしたに過ぎない。





しかし、モコとエンリイには『笑い事』ではないのだ。





幸太郎が自らバラすのはいい。それはどんな結果になろうと、



幸太郎本人の責任だし、幸太郎がある程度予想した結末でもある。



簡単に言えば、『計算に入っている』ということだ。





しかし、今、エーリッタがバラしたのは『口を滑らせた』という事になる。



幸太郎が『どこまで事情を話すか』は、あくまで幸太郎の



判断でなくてはいけない。計算に入っているのか、いないのか、



それを幸太郎は明言していないのだ。



『順番が逆になっただけで、別に問題ない』とは言えないのである。



何しろ『黒フードのネクロマンサー』、『荒野の聖者』、



『ナイトメアハンター』・・・そして、何よりも



『異世界人』・・・これだけの秘密を幸太郎は背負っている。



モコとエンリイは幸太郎を守るため、自分たちを守るため、



幸太郎の関係者を守るため、相手が誰であろうと殺す覚悟を持っていた。



予定外の人に情報が漏れて『まーいーや』とは言えないのだ。



そう、例えその結果幸太郎に嫌われることになろうとも。





ここで一番問題なのは、『幸太郎は女に弱い』ということ。



幸太郎自身は、別にフェミニストでもなく、相手に敵意があるなら、



女であっても躊躇なく殺す。『女は絶対に殴らない』などという、



美しい信念は持ち合わせていない。



しかし、モコとエンリイにはわかっている。



もし、相手が敵意を持っていなかった場合、



『幸太郎に女は殺せない』ということを。



例え『殺さないと絶対にマズイ』という状況に陥ったとしても、



幸太郎に女を殺すという選択肢は取れないだろう。





この場合に当てはめるなら、こういう事だ。








『幸太郎がクラリッサとアーデルハイドに対して、


黒フードのネクロマンサーだと「バラす予定が無かった」としても、


彼女たちを庇うために必ず「最初から予定があった」と嘘をつく』








だから、モコとエンリイは武器を取っているのだ。



女を殺せない幸太郎の代わりに、クラリッサとアーデルハイドの



反応次第では『やりたくは無いが、自分たちが殺すしかない』と。





幸太郎はモコとエンリイの、本物の『殺気』に息をのんだ。





(クラリッサとアーデルハイドを、場合によっては殺す気か)





もちろん、幸太郎にはモコとエンリイの気持ちはわかっている。



『幸太郎のため』だということは、痛い程理解できた。



『そこまで自分のことを思ってくれているのか』と、心底感謝した。



例え幸太郎が『隷属の首輪』を使って命令しても、



モコとエンリイは首輪が締まりながらも



クラリッサとアーデルハイドを殺すだろう。





失言だったエーリッタは、事態を収めようと慌てて口を開いたが、



その口をユーライカが抑えた。すでに臨戦態勢に入っている



モコとエンリイを下手に刺激すると、それが戦闘開始の



きっかけになりかねない。



それほどモコとエンリイは緊迫しているのだ。



幸太郎が『やめろ』と命令しても、逆に『隷属の首輪』が締まり始めたことが



戦闘開始のゴングとなるだろう。『サイコソード』と『如意棒』を



使われたら『陽光の癒し』でも生き返らせることは不可能だ。





(ここは俺が止めなくては・・・)





幸太郎が息を吸い込み、慎重に慎重に、言葉を選んだ時、



クラリッサとアーデルハイドが意外な行動に出た。





クラリッサとアーデルハイドが、ラウンドシールドを幸太郎の



足元へ、ポイっと投げた。いや、それだけではない。



座ったまま、靴を脱ぎ、それも幸太郎の足元へ投げる。



次はベルトを外し、さらに武器もポイっと投げた。彼女たちの



武器は重いので、『ゴトン』と音を立てる。



さらに、革の鎧も外して投げた。





そしてついに2人ともシャツまで脱いで幸太郎の方へ投げたのだ。



もちろん、下着が丸見え。





幸太郎は慌てて、座ったまま後ろを向いた。





「わ、わかった。わかりました。あなた方のことは


信用いたします。ですから、服を着て下さい!」





幸太郎はそう言ったが、モコとエンリイがピシャリと止める。





「ご主人様は黙ってて下さい」





「幸太郎サンは黙ってて」





「はい・・・」





幸太郎は後ろを向いたまま、背中を丸めた。なぜなら、



クラリッサとアーデルハイドが『まだ脱いでいる』からだ。



次々と脱ぎ、幸太郎の後ろへ投げる。そして、ついに



全てを脱ぎ、幸太郎の方へ投げて、一糸まとわぬ姿になったのだ。





クラリッサとアーデルハイドは全裸のまま立ち上がり、



手をつなぐと、残った手を左右に広げた。



鍛え抜かれた見事な筋肉。美しい裸身であった。





クラリッサとアーデルハイドは、微笑んでモコとエンリイを見る。



当たり前だが、彼女たちは『色仕掛け』をしているわけではない。



そんなもの同性のモコとエンリイに効くはずもない。



彼女たちは全身全霊で訴えているのだ。





『信用できないなら、今すぐ斬れ。一切、抵抗はしない』と。








モコとエンリイ・・・それに対するクラリッサとアーデルハイドは



お互いの目を見ながら、およそ10秒ほど、動かなかった。





そして、モコとエンリイはチラッとお互いの目線を合わせる。





「・・・呼吸には一切の乱れはないわね・・・」





「筋肉にも、不自然な緊張は出てないね・・・」





「靴も脱いだということは、逃げる意思も無し・・・」





「鎧どころか、素っ裸じゃ無防備もいいとこ・・・」





モコとエンリイは『ふうっ』と息をついて、臨戦態勢を解いた。





「わかったわ。あなたたちの誠意、確かに見届けたわ」





「ボクも2人を信用するよ」





クラリッサとアーデルハイドも微笑みを返した。





「あたいはコウタロウに命を救われた身だからね。


この命は好きに使ってくれていいさ。死ねって言うなら


死んでもいい。本当なら、昨日のあの時とっくに死んでる」





「わ、私も、クララと一緒なら、後悔はないもの。


唯一、嫌なのは、クララに、置いて行かれること、だけだもん」





モコは小太刀を鞘に戻し、エンリイも棍を短くした。



そこで、幸太郎が消え入りそうな声で懇願する。





「で、では・・・お話が、まとまったようですので、


服を着ていただいて、よろしいでしょうか・・・?」





背中を丸めて、小さくなっている幸太郎は、



裸のクラリッサとアーデルハイドの方を見ることができなかった。










(C)雨男 2024/09/08 ALL RIGHTS RESERVED






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