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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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姉妹 7


幸太郎はクラリッサとアーデルハイドに念入りに『洗浄』をかけ、



大怪我の痕跡を隠した。



穴の開いた革の鎧も、幸太郎が『マジックボックス』から



新しいものを取り出し、交換する。



準備完了したところで、馬車の後方へ行き、



ブリンクマン親子へ報告した。幸太郎は、なんとかして誤魔化したい。





「お待たせしました。なんとか・・・助けることが出来ましたよ」





「ほっ、本当か!?」





ブリンクマンが目を見開いて驚愕している。それはそうだろう。



誰が見ても『致命傷』にしか見えないものだったから。



いや、紛れもなく致命傷『だった』。





「ええ、ご覧の通りです」





幸太郎が手招きすると、クラリッサとアーデルハイド、モコが



歩いてきた。





「おお! し、信じられん・・・。私はどう見ても


助からないと思っていたが・・・」





「今だから言えますが、結局あれは致命傷ではなかった・・・


というだけのことですよ。見た目はひどい怪我でしたが、


内臓はそこまで大きな損傷は無かったようです。


運が良かったのは否定できませんが」





ブリンクマンとオットーは馬車を降り、クラリッサの背中を見た。



しかし、新しい革の鎧と交換されているため、もう痕跡が無い。





「あ、鎧は穴が空いていたので別のものと交換しました。


まあ、まだ任務中ですからね」





「・・・いったい、君は何をしたのかね?」





「一か八か、彼女の傷の内側にまで傷薬を塗りました。


私の回復魔法は、ちょっと特殊でして。


薬と併用することで効果が跳ね上がるという、私のオリジナル魔法です。


使った薬は、私の『奥の手』・・・オロナ院の軟膏です」





「なにっ!? オロナ院の軟膏と言えば・・・今はもう無い、


ローゼンラント王国の・・・?」





「ご存知でしたか」





「そりゃあ、私とて商人のはしくれだ。専門外のものとて、


有名な貴重品、希少品は知っているとも」





「私も以前、ガンボア湖の市場で、たった1個売りに出されていたものを


入手しただけです。万が一、依頼人が大怪我した時のための


『とっておき』だったんですがね・・・。


まさか同業者に使ってしまうとは。ははは、自分でも驚いています」





「その薬はまだあるのかね? もし残っているのなら・・・」





幸太郎は首を振る。





「いいえ、残念ながら、全部使い切ってしまいました」





そう言って、幸太郎は『マジックボックス』を開き、



高価そうな模様がついた壺を取り出して逆さに振った。



もちろん、これはギブルスの店で買った『空っぽの壺』である。



最初から何も入っていない。ブリンクマンは残念そうな顔をした。





「まあ、我ながら、どうかしていたという気はします。


確かにクラリッサは重傷でしたからね。助けることができず、


高価な薬が全部丸ごと無駄になってしまう可能性の方が


圧倒的に高かったです。でも・・・」





幸太郎はオットーの方をチラッと見てから続きを話した。





「姉が瀕死の重傷になり、その妹が泣くのを見てたら、


やっぱり男としては何かせずにはいられませんでした」





ブリンクマンは幸太郎の言葉を聞いて、『フッ』と笑った。





「・・・確かにな。仮にオットーが同じような重傷を


負ったとしたら・・・私とて採算や助かる可能性の是非など考えずに


同じことをしていただろう・・・。


男ってのは・・・つくづくバカに出来てるようだな」





「同感です。男って生き物は、生まれついてのバカらしいですね」





「そして、死ぬまで男のバカは治らないのだろう」





ブリンクマンは幸太郎に手を差し出し、硬く握手した。



その光景をオットーは目を輝かせて見ている。





そして、幸太郎は言いにくそうに、ブリンクマンにお願いをした。





「と、いうわけでして・・・。今回の一件はナイショにして


欲しいのです。何しろもう奥の手の薬は使い切ってしまいましたので。


もう一度やれと言われても、不可能なのです。


誰かが『俺にも』と頼んできても、どうしようもありません。


同じ事は、もう2度とできません。あれっきりです」





「はっはっは、なるほど。頼ってくる者がいても、薬が無いんじゃ


もう断るより手が無いな。わかったよ、この事は内緒にしようか。


ギルドにも報告はしない。オットーもいいな?」





「はいっ、父さん」





「うむ。秘密を守るのは商人の基本だ。


さて、ではそろそろ出発しようか。結局私たちにも怪我は無く、


積み荷も、馬車も、君たちも無事だったんだ。


上々の結果に終わったな。


さて、では、まずは協力して丸太を動かそうか・・・」





幸太郎は、なんとかブリンクマンを誤魔化すことに成功した。



内心、安堵する。怪我の痕跡を隠し、徹底的に『洗浄』をかけ、



あらかじめ用意していた小道具が功を奏したようだ。



『重傷だったが、実は見た目ほどではなかった』という錯覚を



抱かせることができた。








馬車で、丸太のそばまで移動。近くで見ると、かなり大きい。



馬車での強行突破は絶対に無理な大きさと重量だ。





「よーし、全員で転がして街道の外へ放り出そう」





幸太郎が全員に声をかけたが、クラリッサがそれを止めた。





「いや・・・多分、あたいだけでいけるよ」





「「「「???」」」」





アーデルハイド以外の全員が不思議そうな顔をした。



そして、クラリッサは丸太の所までスタスタ歩くと・・・





『ひょい』





と持ち上げ、肩に担いだ。





「「「「えええええーーーーー!?!?!?」」」」





「わー、クララ完全に治ったのね」





微笑むアーデルハイド。目が飛び出す勢いの、幸太郎たち。



そしてクラリッサは丸太を担いだまま海の方へ歩いていくと、





『ぽい』





と放り投げて捨てた。



幸太郎たちは開いた口が塞がらない。声も出ない。





(どーなってんだあれは??? あの丸太は自動車の


エンジンより遥かに重いだろ! なんで『ひょい』で『ぽい』なんだよ!?)





戻ってきたクラリッサは呆れたように言った。





「ちょっとちょっと、あんたらなんて顔してんのさ・・・。


ハイハイ、まだ仕事は終わってないんだから。


切り替えて、切り替えて。さ、行くよー」








カーレに戻るとブリンクマンは依頼書に『完了』のサインをした。



これをギルドの受付に渡して、任務完了である。





ただ、今回は途中で盗賊が襲ってきたので、その報告も入れる。



幸太郎は嫌だったが、クラリッサが『報告する時に必要』と



言うので、盗賊の生首を持って帰った。首はクラリッサが



バトルアックスで、ゴロゴロ落としてくれた。



それを幸太郎が嫌々『マジックボックス』に入れる。



ロイコークの時も同様の事をやっているが、正直幸太郎は



やりたくない。しかし日本の戦国時代と同じで、生首が無いと、



誰を倒したのかわからないのだ。





意外だったのは、生首の1人が『お尋ね者』だった事。



確かに考えてみれば、手下を数日間、砂浜に配置して、



商人や冒険者、そして見回りの騎士たちの目を欺くなど、



並みの盗賊ではなかった。



丸太を設置する位置。弓と魔法。矢に毒。手順も手堅い。



長時間の待ち伏せなども、獣人やエルフへの対策のはずだ。





(・・・意外と有名人だったのか・・・)





懸賞金は金貨20枚。幸太郎は賞金をクラリッサたちに全部譲った。



『これで新しい鎧と、破れたシャツを買い換えてくれ』と言って。



そして、明日全部説明するということで、明日は一日空けてもらう。



エーリッタとユーライカも交えて話をする必要があるから。



事情はできるだけ正確に理解してもらわないと、どこで



『食い違い』がでるかわからないのだ。








クラリッサとアーデルハイドは幸太郎たちと別れて、



まずは今回の任務の顛末をギルドに報告する。



クラリッサは『あいつら大したもんだぜ』と笑った。



もちろん、致命傷から復活したことは黙っておく。





その後、買い物と食事をして、宿泊している『黄色のコマドリ亭』に



帰ってきたクラリッサとアーデルハイド。その日の夜、



アーデルハイドは姉にお願いをした。





「ねえ、今日は一緒に、寝てもいい?」





クラリッサは微笑み、小さく溜息をついて承諾した。





「いいよ。今日は心配かけちまったからな」





一緒のベッドにアーデルハイドが潜り込む。





「私を、1人にしないでね・・・。約束だよ・・・?」





「ああ、約束する。今度こそ、約束は守るさ」





「絶対だよ・・・?」





「ハイジはまだまだ甘えん坊だな。でも、大きくなったなハイジ。


今ではもう2人で寝ると、ベッドが狭く感じるほどだ」





「狭くないもん」





そう言って、アーデルハイドは姉にぎゅっと抱きついた。



そして、その日、2人は抱き合うようにして眠った。










(C)雨男 2024/09/04 ALL RIGHTS RESERVED






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