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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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姉妹 3


 ビエイ・ファームは広い。牛や豚、羊、鶏などの牧場以外に、



麦や野菜、綿などを栽培している畑もある。見渡す限りの農園地帯。



・・・と言っても、北海道の農地には遥かに及ばないし、



中世ヨーロッパの農地に比べても、遥かに小さいだろう。



全て丸太の柵で囲う必要があるからだ。人類に天敵の存在する世界。



生産できる食料の量は、そのまま人口の限界を作る。





先日の鳩小屋やギブルスの馬牧場よりも、ずっと南まで歩く。



そこに目的地があった。





ブリンクマンとオットーが布の仕入れについて、農場の人と



少し交渉している。この辺は幸太郎たちは当然蚊帳の外だ。



それに交渉と言っても、そんな深刻な話をしているわけではない。



長年の付き合いがあるのだろう。値段の交渉自体は、



あっさり終わっている。長話になっているのは



魔物が戻ってきたらしいという情報についてだ。



商人が鍛えるべき才覚の1つは『今後』について、どれくらい



先を見通せるか・・・『先読み』だ。この先、商品の値段について、



どんな影響が出るかを予想し、話し合っていた。





幸太郎たちは馬車のそばで、先日の狼戦の話。





「・・・それでね、クララ、私がラウンドシールドを振り回しすぎて、


『あ、しまった、噛まれる!』って時があったんだけど、


狼は飛び掛かってこなくてね。後ろを見たら、コウタロウさんが、


杖で牽制してくれてたの!」





「うんうん」





「隣のミーバイさんは革の鎧をつけてなかったから、


時々、狼の爪で引っかかれてたんだけど、いつの間にか


全て傷が消えてるの! コウタロウさんがちゃんと見てて、


素早く治してたの!」





「そうかそうか」





「それだけじゃなくて、モコさんの動きともピッタリ息があってて!


モコさんが警備の冒険者の援護に行った時は、後ろで、私の援護。


モコさんが元の位置に戻ると、冒険者の回復に素早く走ってたの!


コウタロウさんとモコさんの連携って、ほんとに安心感が


あってね。息ピッタリ! 言わなくても心が通じ合ってるみたい。


あんなに狼がいたのに、私も全然怖くなかったの!」





アーデルハイドは『お姉ちゃん』に笑顔で話している。



内容が幸太郎とモコを褒めることばかりなので、幸太郎とモコは、



なんだか照れ臭かった。そしてニコニコと話を聞くクラリッサは、



おそらくこの話を何度も何度も聞かされているのだろう。



しかし嫌な顔1つせずに話を聞いている。





((いい『お姉ちゃん』なんだなぁ))





幸太郎とモコは、なんだか見ていて胸が温かくなった。








ブリンクマンたちの話が終わったようだ。購入した布を



馬車へ積み込む。これは幸太郎たちも手伝った。



もちろん、これは契約に入っていないのだが、このくらいのサービスは



当たり前だ。依頼者とのコミュニケーションが円滑になる。





すごいのは、やっぱりクラリッサとアーデルハイド。



幸太郎など問題にもならない腕力がある。



幸太郎では少し苦しい荷物も『ひょい』と肩に担ぐのだ。



オットーも『お姉さんたち、すごい力持ちですね』と



目を丸くしていた。





幸太郎は改めて思い出した。





(・・・この4人の中で、一番貧弱なのは、やっぱり俺か・・・。


モコ、クラリッサ、アーデルハイド、全員俺より腕力が上・・・。


俺、一応、男なのに。男なのに・・・)





正直に言えば、幸太郎は地味に傷ついている。



日本にいた時は、自分が非力だなどと思ったことは一度も無い。



水泳部での腕相撲ランキングでも上位だった。



というか、校内の男子全員でも間違いなく上位10%に入るはず。



学校にいる不良と呼ばれる生徒達でも、



うかつに突っかかっていけないレベルだった。



『自分は弱くはない』という自覚を持っていたのだ。



が、どうしようもない。



必死に鍛えれば、モコに近いくらいの腕力は得られるかもしれない。



しかし、クラリッサとアーデルハイドには、



永遠に勝てそうもなかった。骨格からして、何かが違う。



これが『ハーフドワーフ』ということなのだろう。





この異世界では・・・幸太郎はザコなのだ。



実際に、冒険者ギルドで他の冒険者に『たった1発』でのされている。








昼過ぎにはカーレに帰れそうということで、そのままビエイ・ファームを



後にして、真っ直ぐ帰ることになった。





帰りは商品が満載なので、スピードが遅くなる。



クラリッサは出発前に幸太郎とモコにしたレクチャーを



もう一度繰り返した。





「さぁて、出発前にした注意点をおさらいしとこうか?


帰りはどうしても馬車が遅くなるから、盗賊に狙われることが


多いのさ。コウタロウ、モコ、気を付けるんだぜ?


盗賊には馬車の中身が『金目のものかどうか』なんてわからないから、


『襲いやすそう』なヤツを狙ってくるからな」





クラリッサが『お姉さん』として注意点を教えてくれる。





「襲われた場合、相手が獣なら、ロバと人を狙ってくるから、


前方で集まって戦う方がいい。馬車は停止。


野犬でも狼でも熊でも馬車より足が速いから


下手に逃げると、逆に守り切れなくなっちまう」





「なるほど、守るべきものが分散してしまうのですね」





「そーゆーこと。まあ、場合によるけどな。それと、コウタロウ。


何度も言うけど、あたいに敬語はやめろっての。


なんか背中と尻がムズムズするからよ」





「わかりまし・・・わかったよ、クラリッサ」





幸太郎は『クララ』と呼ぶのはやめておいた。おそらく、



『クララ』と呼んでいいのは、今では妹のアーデルハイドだけだろう。





「よし! んで、盗賊が襲ってきた場合は、逆にまず


馬車が走って逃げれるかどうかを考えた方がいい。


あたいたちが敵を食い止めて、馬車を逃がす・・・


これが一番の理想だよ。


ただ、ブリンクマンさんの馬車は、馬じゃなくてロバだから、


力はあってもあんまりスピードは出ない。逃げるのが


難しそうなら、守りに徹するべきだな。盗賊は前後、どちらからも


狙ってくるから、フォーメーションが難しいんだ」





「確かに・・・。ブリンクマンさんとオットー、ロバを守れても、


馬車の後ろから荷物を盗られたら意味が無い・・・」





「そうだ。敵の数にも寄るが、理想を言うなら、馬車の側に


2人。前に出て敵を近づけず迎撃するのが2人・・・こうだな。


相手が弓を持ってる場合でも、牽制になる。


盗賊でも魔法を使える奴もいるしな。


まあ、あくまでも『理想』だよ。


盗賊の人数が多いか少ないかなんて、こっちにはわかんないからねぇ。


そんで、周囲に敵の増援が無いようなら、すぐに前に出た2人の援護だ」





「確かに戦力の分散は良くないな」





「じゃあ、もし盗賊が襲ってきたら、私は前に出るわ。


私は足が速いから敵を引っ搔きまわしたり、救援に戻るのも


簡単だと思う」





モコが胸を叩く。モコも胸がでかい。





「俺は足が遅いから馬車のそばだな。ただ、盗賊が襲ってくるなら、


まずこちらよりも大人数で『勝てる』と思っている時だけだろう。


こっちはブリンクマンさん、オットー君含めて6人。


敵が襲ってくるなら7人以上か」





「へえ、ハイジから聞いた通り、コウタロウは賢いな。


新人とは思えない落ち着きぶりだよ。よし、じゃあここで


お姉さんからアドバイスだ。敵は多くて当たり前、でもな、


全員相手にする必要は無いんだ。最優先で目指すのは


『敵を減らすこと』さ。出会い頭に2,3人倒せば、


まず間違いなく盗賊は逃げてゆく。盗賊なんてのは、


全員、真面目に働く気が無い根性無しばっかだからな。


たいてい『自分だけは死にたくない』って逃げてくもんさ」





「それはありそうね」





そう言ってモコが笑った。確かにそうだろう。あらゆる艱難辛苦を



乗り越えて、絶対に馬車を奪取しようなんて『真面目』な奴は



いないはずだ。他人から奪って、楽したいと思っている奴が



自分が犠牲になってでも戦おうなどとは思うまい。





「という事は、迎撃チーム、防衛チーム、どちらかで合計


2,3人倒せば勝ちは確定だな。確かに盗賊には


軍人みたいな自己犠牲の精神とガッツは無いか」





「そーゆーことよ。まあ、心配すんな。あたいとハイジがいるから、


襲ってきてもすぐに終わるって。あははは」





(心強いな。クラリッサもアーデルハイドも、俺に無いものを


持っている。そして、クラリッサもアーデルハイドも、心から


お互いを信じあってるんだな。仲のいい姉妹だ)





アーデルハイドは姉が話していると、ほとんど、しゃべらない。



にこにこと楽しそうに見ているだけだ。体格などはそっくりだが、



性格的には、お互いを補い合っているらしい。



いや、単純にアーデルハイドは姉が大好きなのだろう。










(C)雨男 2024/08/27 ALL RIGHTS RESERVED






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