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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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鳩師の護衛 7


 モコのサイコソードが狼を切り裂く。さっきまでの小太刀とは



威力が桁違いだ。今は『追い払う』だけで、どんどん狼は深手を負い、



倒れ、逃げていく。





しかし、状況が好転したとまでは言えない。





7名の冒険者たちは、すでに恐怖に呑まれた。モコとミーバイが



カバーしなくてはならない範囲は、先程までとは



比べ物にならない。当然、中央のアーデルハイドも、



その分苦しくなった。時々噛みつかれるようになったのだ。



ただし、アーデルハイドは、その剛力で狼を振り回している。





そして、今度は『拠点防衛』が裏目に出ている。幸太郎たちは



自分たちに有利な場所へ『退却』することができない。



丸太の柵が無い部分を守らねばならないのだ。





せめてもの救いは、狼に魔法や弓が無い事くらいか。








幸太郎は大きく息を吸った。もう仕方ない。自分たちが



ここを放棄すればファームの人々も大勢が死ぬ、家畜や農作物が



食われたら、この周辺の町の人々が飢える。



ファームの警備兵も武器を構えているが、



これほどの狼がいるなら、内側へ侵入された場合



『被害無し』などあり得ないのだ。





「来い! 『冥・・・」





「お待ちくださいっ!!!」





いきなりモコが大声を出して幸太郎を止めた。



さすがに予想外で、幸太郎はビックリして、目をパチクリさせた。





幸太郎がモコを見ると、笑顔になっていた。





「聞こえます!・・・エンリイです!! 応援がきます!」





幸太郎には全く聞こえない。しかし、モコの『ソナー』が



急速に接近してくる味方の声を捉えたようだ。





「味方の増援か! ありがたい! みんな、あと少し耐えてくれ!


カーレからの応援が間に合ったぞ!!」





幸太郎の声に全員の顔が、パッと明るくなる。



心が折れた7人の冒険者たちも、目に涙を浮かべて喜んだ。



死なずに済むかもしれないと思ったのだろう。





「みんな頑張れ! 耐えろ! 耐えろ! 応援の中には


C級冒険者もいるぞ! そうなれば、一気に形勢逆転だ!」





もちろん幸太郎は何人応援が来るのか知らない。



だが、ここで不安材料を並べて何になる?



幸太郎は大声で味方を鼓舞し続けた。





そして、ついに味方が来た。ファームの道を疾走してくる



馬車が一台。幌も何も無い、農業用の馬車。



その荷台にエンリイと武装メイドが数人乗っていた。



御者をしているのはアカジンだ。





エンリイが魔猿族特有の、恐るべき跳躍力を見せた。



馬車の荷台から飛び降り、一直線に丸太の柵が無い部分を目指す。





「幸太郎サン、モコ、無事!?」





「助かったよ、エンリイ!」





「エンリイ! 早速だけど手伝って! 蹴散らすわよ!!」





幸太郎のパーティーの『両翼』が揃った。



しかし、エンリイはモコの『サイコソード』を見て顔が曇る。





「どうやら、ほんとに危機一髪ってとこだったみたいだね」





その通り。モコが『サイコソード』を使わざるを得ない苦境にまで



追い込まれたのだ。幸太郎が死霊術を使えばどうなるかは、



エンリイもよくわかっている。





アカジンも馬車の御者をメイドの1人と交代。



アカジンたちが馬車を降り、幸太郎の所へ走って駆けつけた。





「ご無事で?」





「ありがとうございますアカジンさん! 助かりました」





「いいタイミングで来るじゃねーか、アカジン!」





「なんだ? 心細かったか? ミーバイ」





「ったく、口の減らねえ奴だな! しかし、お前がここへ


来たってことは・・・」





「ああ、伝書鳩に『赤い通信筒』がついていてな。



狼の大群が来てるって知らせがきたんだ。



カーレ騎士団の『軽装即応部隊』も、すぐにやってくるだろう」





戦列にアカジンと武装メイドたちが加わったことで、



戦いは一気に楽になった。こうなるとモコの『サイコソード』が



猛威を振るう。『サイコソード』は普通の武器とは威力が



桁違いだ。凄まじい勢いで狼を殺していった。



小太刀なら『怪我、出血』程度の軽い攻撃でも、



『サイコソード』ならバックリと『切断』できるのだ。





「エンリイ、フォローお願い!」





「はいさ!」





モコはエンリイや武装メイドたちが作ってくれた時間を使って、



『ラピッド・スピード』を発動。そして、狼を切り払いながら



丸太の柵の外へ飛び出した。



モコの背中をエンリイが守り、狼をなぎ倒しつつアーマーウルフへ



一直線に突撃。



アーマーウルフは皮膚が変化した、アルマジロみたいな



プロテクターがある。しかも、そのプロテクターは油で攻撃が



滑るように出来ているのだ。





しかし、そんなものでは『サイコソード』を止められない。





アーマーウルフは、そのプロテクターごと切り裂かれた。



3匹のアーマーウルフが倒れた所で勝負あり。



アーマーウルフはまだ無傷で残っているものもいるが、



野生生物は形勢判断が速い。



これを境に全ての狼が次々に逃げ出し始めた。





ファームの脅威は去った。防衛に成功したのだ。








実は幸太郎たちが鳩小屋から戦場へ向かった時、入れ違いで



丸太の柵の工事を見ていたファームの人が、鳩師たちの所へ



伝書鳩の発進要請に来ていたのだった。





この世界の紙はまだ分厚いが、鳩師には特別製の薄い紙が支給されている。



その小さな紙に状況を書いて『赤い通信筒』に入れる。



その『赤い通信筒』を鳩の足環に装着し、カーレに向けて



飛ばしたのだ。





元の地球の『レース鳩』は分速1100メートルから1500メートルで



飛ぶことが出来る。この世界の鳩も品種改良を重ね、



レース鳩に負けないスピードを獲得していた。





つまり、ビエイ・ファームからカーレには、ものの数分で



到着するのだ。





伝書鳩が『赤い通信筒』を装着している。それを見たカーレの



鳩師たちは一気に『戦闘態勢』に入った。





伝令がグリーン辺境伯の元へ走る。『赤い通信筒』と言えば、



誰もが最優先してくれるのだ。ブランケンハイムの副官が



上からの命令を待たずに『軽装即応部隊』の発進準備を命じた。



選抜メンバー8人が馬に乗った時、ブランケンハイムから



出撃の号令が下る。目指すはビエイ・ファーム。





そして、この時、騎士団よりも先にカーレを飛び出した



馬車があった。それがギブルス商会の馬車だ。



鳩師の伝令はグリーン辺境伯だけでなく、商人ギルドと



冒険者ギルドにも走る。この時ギブルスはユタにいて不在だったが、



全てを任せれていたアカジンが即座に対応、馬車を用意。





鳩師からの伝令が入ったキャサリン支部長は、



ギルドが運営している宿屋の前で大声で叫んだ。





「エンリイちゃん! ビエイ・ファームで


幸太郎ちゃんとモコちゃんが大ピンチよ!


C級冒険者への『特別報酬』案件に指定! 行ってあげて!!」





宿屋の3階の窓が開いた。そして猛然と飛び降りてくるエンリイ!



エンリイは棍を地面に伸ばし、ブレーキ代わりにすると、



ふわりと着地。



そこへアカジンが御者をする馬車が走り込んできた。





「乗って下さい! 飛ばしますよ! 行き先はビエイ・ファーム!」





こうして、爆走するギブルス商会の馬車は、騎士団に先駆けて



ビエイ・ファームの救援に到着。騎士団が到着する前に



モコとエンリイが勝負をつけたのだった。










(C)雨男 2024/08/17 ALL RIGHTS RESERVED






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