鳩師の護衛 4
「これも仕事のうちだな。モコ、行くぞ。アーデルハイド、
頼めるか?」
「了解です!」
「は、はい! 私も、いくわ」
『カンカンカン』という警報の音を聞いて、ミーバイが
鳩小屋から飛び出してきた。
「幸太郎さん、お力を貸してください!
キャボット、お前はここで待機していてくれ!
場合によっては伝書鳩の出番だぞ!」
「おうっ、任せろ! 仲間たちと準備しとくぜ」
幸太郎が走り出そうとした瞬間、モコが幸太郎の腕を掴んで止めた。
「ご主人様、ジャングル・ホッパーの鎧を!」
モコの目は真剣だ。幸太郎も頷く。こういう時はモコの指示に
従うべきだ。
中古の革の鎧にかけてある『装着』の魔法を解除する。そして、
幸太郎は『マジックボックス』から『ジャングル・ホッパーの鎧』を
取り出し、身に着けた。モコが再び『装着』を唱えると、
鎧は完璧にフィットする。そして、モコも同様に鎧を換えた。
幸太郎は『マジックボックス』から木の杖を取り出す。
家具屋で作った『見た目だけ』の杖はロイコーク戦で使って以来だ。
だが、どうしても、絶対に必要な装備。
ミーバイは幸太郎たちが準備するのを待っていてくれた。
幸太郎たちの事情はほとんど知っているからだ。
「よっし、行きましょう! ついてきてください。
今、一か所、丸太の柵を修理している所があるんでさ。
多分、狙われているのはそこでしょう!」
ミーバイは馬を木に繋いだまま、走り出した。
馬の方が速いのだが、馬を連れて行くと、馬が野犬や狼に怯えて
暴れる可能性がある。
ミーバイは幸太郎の足の速さに合わせてくれた。
さすがの気遣い。しかし、幸太郎が驚愕したのは、
アーデルハイドも幸太郎より足が速い事だった。
見た目はスピードが出るようには見えないが、大きな
ストライドでかなり速い。やはり命がけの仕事をしていると、
鍛えられるようだ。と、いうか、足が遅いと死にやすいのだろう。
走る幸太郎たちの視界に『現場』が見えてきた。もう幸太郎にも
獣の唸り声が聞こえている。見えている姿から判断すれば、
狼の群れらしい。明らかに野犬よりも一回り体が大きい。
(グレイウルフか、なんか懐かしい気がする・・・)
感傷に浸っている場合ではない。腐りかけた丸太を交換中の
工事現場には、かなりの狼が見える。すでに冒険者数名が
交戦中だ。工事現場の護衛の依頼を受けたのだろう。
柵の内側で武器を構えているファームの警備隊の人々に、
ミーバイが声をかけた。
「援軍を連れてきた! お前たちはこのまま少し下がって
内側で包囲網を固めて待機してくれ!
絶対にファームの中へ入れるなよ? 武器を持たない者は手分けして
家畜たちを畜舎へ避難させるんだ!
狼は俺たちが内側ギリギリに展開して迎撃、追い払う!」
鍬やツルハシを構えたファームの人々から
『頼むぞミーバイ!』という声援が飛ぶ。
どうやら、かなり信頼されているようだ。
丸太が無い部分から外を見ると、恐ろしい光景が目に
飛び込んできた。
「げっ!? 40・・・60匹くらいいるぞ?」
幸太郎が思わず叫んだ。
「おそらく複数の群れが合同で襲ってきていると思われます!」
モコが分析した。
「幸太郎さん、すでに冒険者が2人足をやられて動けないようだ。
頼めますか?」
ミーバイが周囲を見回し、状況を把握した。
「み、見て! あれ、『アーマーウルフ』よ!
多分、群れの中核は、あれだと、思うわ」
アーデルハイドが指さした。確かに真ん中あたりに、
グレイウルフとは違う、さらに一回り大きく、見た目も違う一群がいる。
工事現場の護衛についてた冒険者は3人組のパーティーと
4人組のパーティーだ。合計7人。幸太郎たちが4人なので、
合計11人いる。
倒したグレイウルフはまだ5匹。
残っている狼はまだ60匹近い。アーマーウルフはまだ
1匹も倒していない。
幸太郎はモコの護衛で、大怪我をしている2人を素早く治療した。
あっという間に怪我が治った冒険者2人は
ビックリしているが、悠長にお礼を言ってる場合ではない。
しかも、その時悪いニュースが1つ追加された。
3人組、4人組のパーティーで攻撃魔法を使える者が1人ずついたが、
すでに魔法は撃ち尽くしたという。倒したグレイウルフは
全て魔法の補助のおかげだった。
(まずいな、この冒険者たちはD級かE級のはずだが、
大して強くはないらしい。俺たちが主力となって正面を
受け持たないと狼たちがファームへなだれ込むぞ・・・。
乱戦になって警備隊の囲いを突破されたら、
大きな被害がでるだろう・・・)
モコ、ミーバイ、アーデルハイドも幸太郎と同じ事を
考えたらしい。全員顔を見合わせるとうなずいた。
ミーバイが冒険者たちに叫ぶ。
「おい、俺たちが正面を受け持つから、お前たちは左右に分かれて、
丸太の柵ギリギリで狼の侵入を食い止めろ! 耐えてるだけでいい!」
これはダンジョンでの戦いとは全く違う戦闘である。
まず、広さに制限が無い。数も決まっていない。増援もあり得る。
勝利条件は『拠点防衛』だ。
その代わりダンジョンと違って、全滅させる必要も無い。
狼の数をかなり減らせば、逃げていくはず。
しかし、問題はやはりアーマーウルフだろう。これだけの群れが
強気で襲い掛かってきているのは、アーマーウルフが混じっているせいだ。
幸太郎が見た所、アーマーウルフは6匹。
おそらくアーマーウルフを2,3匹倒せないと、狼の群れは
逃げ出さないはずだ。なんとか、そこまで大量の狼の連携攻撃を
しのぐ必要があった。
(まずい・・・エンリイがいない。パーティーとしては
片翼が無いに等しい・・・)
幸太郎は心細く感じた。モコも同じだ。
そして、ダンジョンでの戦闘との最大の相違点は・・・。
『幸太郎が死霊術もゴッドレインボーも使えない』ことだ。
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