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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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鳩師の護衛 3


 ビエイ・ファームは歩いておよそ1時間ほどらしい。





(距離にすると大体5,6キロってところかな?)





幸太郎はぼんやりと、そんな計算をした。カーレの町から



農場地帯が離れているのは、おそらく『臭い』のせいだろう。



ビエイ・ファームは畑だけでなく、牧場も集まっているという。





そして、戦地から、生命線の穀倉地帯を遠ざける目的もあるはず。



この世界は天敵、そして戦争と、人が死にやすい世界だ。








海に近い街道を、幸太郎たちは『てくてく』南下してゆく。



ふと、海の方を見ると、砂浜で貝を集めている人が2人見えた。



潮干狩り。一見平和な光景だが、砂浜に置いてある



彼らの背負い籠には剣が2本立てかけてあるのが目に入る。





「平和な光景・・・ってわけにはいかないんだな・・・」





モコにだけは幸太郎の言ってる意味がわかった。この中で幸太郎が



異世界から来た人間ということを知っているのはモコだけ。



だから、アーデルハイドとキャボットは他の事が思い浮かんだ。





「確かに今のとこ平和には見えるけどな。ピシェール男爵領への


進軍はまもなく始まるだろうさ。ピシェール男爵の4人の


息子たちは降伏しないっぽいと聞くぜ? そりゃ、捕まれば


4人とも処刑されるのは避けられないからなぁ。


抵抗はするだろーよ」





キャボットは町で噂話を仕入れてきたようだ。『真相』を知っている



幸太郎とモコは慎重に話を合わせる必要があった。





「た、確か・・・画家志望の青年が、辺境伯の奥様に


『魅了』をかけて、操ろうと、したんですよね・・・?」





アーデルハイドも噂を町で聞いているようだ。





「ああ、おいらの聞いた話じゃあ、操られた奥様が、グリーン辺境伯と


エメラルド様に毒を飲ませようとしたらしいぜ? 


しかし、エメラルド様が風邪にかかっていたせいで、お二人同時に


毒を飲ませる機会が無かったようだ。それで、手をこまねいているうちに、


操られたことに奥様が気が付いた。怒った奥様は


自らの手で画家志望のクリストフをナイフで殺し、


全てを書き記した遺書を残してから、毒の入ったワインを飲んで


自決なさったそうだ。さすがは奥様だ。


誇り高い貴族の意地ってこったな」





「その遺書で事件の全貌が明らかになったのですね?」





「正確には、ピシェール男爵から聞き出したんだよ。


計画が順調に進んでいると思い込んだピシェール男爵が、


のこのこ辺境伯のお屋敷に乗り込んで来たそうな。


バカな奴だよな。おかげで取っ捕まって『支配』で


洗いざらい吐かされたんだと。奥様の遺書でとっくに反乱が


バレてんのによ。グリーン辺境伯とエメラルド様が生きてると


知った時は、目ん玉見開いてビックリしてたっていうぜ?」





キャボットは大笑いした。幸太郎とモコも合わせて笑った。



もちろん演技だ。知らないふりをしておかなくては。





「でも、ピシェール男爵の息子たちが降伏しないのなら、


戦争は避けられないでしょうね。せめて早く終結すると


いいのですが」





モコが少し悲し気に言った。





「だからこそ、おいらたちの仕事の重要性が増すってことよ。


戦争となれば、情報の迅速なやり取りが明暗を分けるからな。


それに心配も要らねえだろ。ピシェール男爵に味方する


貴族もいねえだろうし、バルド王国が動く気配は無いようだ。


ユタの新領主ファルネーゼ様は穏健派って聞くからな。


孤立無援のピシェール男爵の息子たちは長くは持たねぇよ」





幸太郎、モコ、アーデルハイドは頷いた。








その後、話はニコラたち『悪魔崇拝者』がカーレに



潜んでいた話に移る。そして、そんな雑談をしていると



遠くに『ビエイ・ファーム』が見えてきた。





ビエイ・ファームは見渡す限り・・・と、言うほどでもないが、



とにかく広大な農地と牧場の集まった場所だった。





かなり昔からあるのだろう。中心辺りは防壁と同じような



壁が出来ており、外側の丸太を打ち込んだ杭の柵に



なっている部分は新しい開拓地ということだ。



いちいち防壁を築かなくてはならないので、農地を増やすのも



苦労する。森を焼き払う『焼き畑農業』は、この世界では無理っぽい。





中心部の防壁のような壁の中に、小さな小さな町が出来ている。



万一に備えて人家は密集しているのだろう。人狩りは来ないだろうが、



食料を求めて盗賊が来ることはあるはずだ。そして、畑の作物を



目当てに動物もやってくる。家畜を狙って野犬や狼、熊も



現れる。もちろんファームの警備隊は常駐しているが、



手に負えない場合、救援を求めるために伝書鳩は



欠かすことのできない連絡手段だ。





幸太郎たちは街道から東に逸れ、ビエイ・ファームの検問所をくぐった。








町の端に鳩小屋がいくつかある。『クークー』という長閑な鳩の声が



聞こえてきた。鳩師のキャボットは、その中の『カーレ』という



札のかかった小屋に連れてきた鳩を入れた。





そして、今度は『ビエイ』という札のついた小屋へ入っていった。



鳩小屋には鳩専用の小さな入り口があり、そこには内側にしか



開かない針金でできたトラップが設置されている。



外から帰ってきた鳩が針金のトラップをくぐると、



紐が引っ張られて『チリンチリン』と鈴が鳴る仕組みだ。





幸太郎、モコ、アーデルハイドが外で待っていると、



声をかけてくる男がいた。





「あれ? 幸太郎さんじゃないですかい?」





そこには馬に乗ったミーバイがいた。ギブルスの店の店員だ。





「やあ、ミーバイさん。どうしてここに?」





「ここにはギブルスの旦那の馬牧場があるんですよ。


ユタの北側にもありますがね。・・・ああ、なるほど、


今日は鳩師の護衛ですか」





「ええ、中にいるキャボットさんと鳩たちの護衛です」





「『鳩たちの護衛』ですか。やっぱり幸太郎さんは変わってるなあ」





そういうミーバイとて、『ミニ・ギブルス』みたいで好奇心が強く、



変わり者だ。『昏き盲目の羊』が動いている所を見たかったと、



悔しそうに言うあたり、とても一般人の範疇にない。





「おっと、そうだ。キャボットがいるなら丁度いい。


少し相談しときたいことがあったんだ。幸太郎さん、


せっかくビエイに来たんだし、後で新鮮な牛乳でもどうですか?


キャボット含めて休憩していって下さいよ」





『新鮮な牛乳』という言葉にはアーデルハイドの方が反応した。





「ぜ、ぜひ、お願い、します! 私、牛乳、大好きです!」





(アーデルハイドの胸がアルプス級なのはそのせいか?


いや、エンリイは『身長ばっかり伸びて』と言っていたから、


結局は個人差か・・・)





幸太郎は、そんな失礼な事を考えた。








ミーバイが馬を降りて、鳩小屋の中のキャボットと何か話を始めた。





すると、急にモコが東の方を見て、耳を澄ませた。



モコの顔つきが一気に変わる。





「ご主人様! 何かが襲ってきたようです。


唸り声・・・おそらく、野犬か狼です。遠くて


正確にわかりませんが・・・かなりの数と思われます!」





モコの聴力は人族を遥かに上回る。特殊能力と言っていい。



幸太郎が『ソナー』と呼ぶほど。





そして、やや遅れて『カンカンカン、カンカンカン』という



鉄の板を叩く音が響いた。半鐘の代わりなのだろう。



ビエイ・ファーム全体に危機を知らせている。










(C)雨男 2024/08/10 ALL RIGHTS RESERVED






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