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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 3
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鳩師の護衛 2


「ふーん、君、背が高いね。あ、ボクはエンリイ」





エンリイはさらっと言った。幸太郎とモコは、



『アーデルハイドが気にしているかもしれない』と思い、言わなかったが、



身長が190センチあるエンリイは気にすることなく言った。





「あ、アーデルハイドです。よ、よろしく・・・」





やはりと言うか、自分より背が高いエンリイに対し、



アーデルハイドは明らかに『ほっ』としていた。



間違いなく、自分の身長を気にしている。





「私は幸太郎です。こちらがモコ。本日はお供させて


いただきます」





「は、はいぃ。こちらこそ・・・」





お互い自己紹介する。その後、幸太郎は率直に聞いてみた。





「それで、骨折したという右足首は大丈夫なのですか?」





「は、はい・・・。もう痛くないし、歩けるの、ですが・・・。


じ、実は、問題は、足じゃなくて、肩の方なんですぅ・・・」





「肩が痛むのですか?」





「い、いいえ、そうじゃなくて・・・」





アーデルハイドが言うには、骨折した後、しばらく杖を使って



歩いていたという。そして、杖無しで歩けるようになった後、



なぜか右肩が上がらなくなったというのだ。





(四十肩、五十肩って言うには若すぎる・・・。


これは、多分・・・)





「い、いろいろ、肩に薬を、塗ってみたり、


回復魔法をかけて、もらったり、したのですけど・・・。


こ、効果が無くて・・・」





「じゃあ、私が今、治しますよ。ルイーズさん、ちょっとだけ


会議室をお借りしていいですか?」





幸太郎は『陽光の癒し』を使う気なのだ。ただし、使う箇所が違う。





会議室に入ると幸太郎はアーデルハイドの正面に立った。





「右腕を上げてみて下さい」





アーデルハイドが右腕を上げていくと、水平より少し上で



動かなくなった。確かに、それ以上肩が上がらないようだ。





「わかりました。治すのは肩でなく、腰です」





幸太郎はけろっと言った。その場の全員がキョトンとしている。





「え? ご主人様、上がらないのは肩ですよ?」





「肩は正常だよ。どこもおかしくない。元々、肩ってのは


構造上水平くらいまでしか上がらないんだよ」





「「「???」」」





不思議そうなモコ、エンリイ、アーデルハイド。



幸太郎はゆっくり説明を始めた。





「肩は構造上、水平ぐらいまでしか上がらない。それで正常。


では、どうして腕が垂直まで上がるのか?


それはね、『肩が全部丸ごと』上に動いているからさ。


なぜアーデルハイドさんの『肩が丸ごと』動かなくなったのかというと、


腰が『固まっている』からなんだ。腰が固くなったせいで、


肩のパーツが腰に引っ張られて上に上がらない状態になってる。


まあ、自分の肩に手を当てて腕を動かしてみるとわかるよ。


水平に上がるくらいまでは、肩の筋肉が動いてるだろう?


でも、それ以上、上げようとすると肩自体の筋肉は


ほとんど動いていないんだ。


俺は医者じゃないから、詳しい説明はできないけど、


右足首を骨折したせいで、足首をかばった歩き方が定着したんだと思う。


それで腰が歪んで固まり、肩のパーツの可動域が狭まっているんだろう。


どうも骨折してるのに、かなり無茶をしたらしい。


だから、治すべきは、まず右足首。そして本命は腰だね。


もちろん、アーデルハイドさんは若いから、ほっといても


その内治ったとは思うよ。でも、まあ、これも何かの縁」





幸太郎はアーデルハイドに向き直ると言った。





「今、ここで治しますよ、アーデルハイドさん」





幸太郎はアーデルハイドの足元にかがむと、右足首に



『陽光の癒し』をかけた。



アーデルハイドは自分の大きな胸が邪魔で足元の幸太郎が良く見えない。



ちょっとおろおろしていた。



そして、次に幸太郎は後ろへ回り、腰にも『陽光の癒し』をかける。





「いかがですか?」





アーデルハイドは自分の右肩をそっと動かしてみた。



そして、右腕をグルグル回してみる。





「す・・・すごい、動きます。完全に、治っています・・・」





「そうですか。それは良かった」





「こ、コウタロウさん・・・。あなたは・・・すごい人ですね・・・。


ありがとうございます」





「いいえ、さっきも言いましたが、ほっといても、その内


治っていたでしょう。・・・ああ、だからお礼とか


いりませんよ。そのうち治っていたのを、前倒ししただけですから」





モコとエンリイが鼻息も荒く大威張り。むふーん。





「ところで・・・正直、あなたは今までカーレで見かけなかった方だと


思いますが、他の町から移籍してきたのですか?」





もちろん幸太郎はカーレ冒険者ギルドの、組合員の全てを



見たことは無いし、ロクに憶えてもいない。



幸太郎は他人を憶えるのが苦手だったりする。営業職としては致命的。



しかし、こんなでっかくて、インパクトのある見た目の人なら



『見たことある』程度は記憶に残るはずなのだ。



実際に『奇妙に若そう』なニコラがそうだった。





アーデルハイドは治った肩が嬉しいのか、笑顔で答えた。



緊張も少し解けたらしい。





「は、はい。私と姉はヨッカイドウの北、ロックウォールの


町のギルドに、いました・・・。で、ですが、このカーレで


冒険者が一気に、十数人も死んだり、行方不明になったという、


噂を聞きました・・・。しかも、そ、その人たちは


悪魔崇拝者だった、とか。それで、それで、今なら


カーレの町に行けば、比較的、安全な仕事が、選べるんじゃ


ないかって、思ったんです・・・」





「そうだったんですか」





幸太郎は『冒険者は流れ者』という意味が、よーくわかった。



同時に皮肉なものだと思った。





(その行方不明になった冒険者は、全部、俺たちが殺したんだよな・・・。


アーデルハイドとお姉さんが来たのは俺たちが暴れた結果か。


住み慣れた町を離れて、カーレへ移住・・・。


これが彼女たちに吉と出るか凶とでるのか・・・)





別に幸太郎が何か心配する必要などない。元々、冒険者は



そんなものだ。嫌なら他の仕事につけばいい。



それに、噂を聞いて『いい仕事にありつけそう』と



カーレにやってきた冒険者は、



何もアーデルハイド達だけではないのだ。





「で、でも、やっぱりカーレに来て良かった、です。


肩も治してもらえたし、モコさんも、エンリイさんも、


いい人みたいで、安心しました。受付のルイーズさんから


『お勧め』、そして、『女性にとって安全な人たち』って、


言われてたんですが、本当でした・・・」





安全と言われて、幸太郎は、なぜか、ちょっとだけ傷ついた。



ほろり。





しかし、気を取り直す。何しろ『別に何ひとつ間違っていない』からだ。





「では、そろそろ行きましょうか。


依頼人の方が待っているでしょう」





しかし、アーデルハイドは待ったをかけた。





「あ、あの、敬語は、やめて下さい、コウタロウさん。


歳も近いと思うので、普通に接してくだ・・・欲しいな」





アーデルハイドの態度が少し打ち解けた感じに変わった。



幸太郎、モコ、エンリイは顔を見合わせてうなずいた。





「じゃあ・・・改めて、よろしく。アーデルハイド」








幸太郎、モコ、そしてアーデルハイドの3人でギルドを出る。



エンリイはやっぱり寂しそうだが、『宿で寝てる』と言って、



宿屋へ戻って行った。





3人はグリーン辺境伯の屋敷近く、鳩の飼育小屋を訪ねた。





「おー、来たか。こっちの準備もできたとこだ。


おいらはキャボット。今日はよろしくな」





見ると、背負子に籠が3つ括り付けられている。



その中には1つの籠に1匹ずつ鳩が入っていた。



背負子は元の地球でもアルミ製のものが売っている。



異世界でも構造は同じようだ。





鳩師は背負子を背中に装着すると、元気よく言った。





「さあ、行くか。今日はすぐ近くだよ。畑や牧場の集まってる、


ビエイ・ファームが目的地だ」





美瑛?










(C)雨男 2024/08/07 ALL RIGHTS RESERVED






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