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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ 2
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様子を見よう 34


 翌朝。幸太郎の部屋に泊ったジャンジャックとグレゴリオは、



モコ、エンリイ、エーリッタ、ユーライカたちと一緒に



ギルドに併設された食堂で朝食。





B級冒険者2人と一緒にテーブルにつくと、当然目立つ。



ジャンジャックとグレゴリオを知らない冒険者でも、



『あの2人、B級冒険者だぜ』と聞けば、ほぼ全員



目を見開いて注目する。冒険者になって成り上がりを目指す人々の



『夢の到達点』だからだ。





B級のギルドカードの威力は、上級貴族並み。



何処の国の貴族からも一目置かれる。貴族の娘に結婚を



申し込んでも、絶対に嫌な顔はされない。



望みの娘と結婚できなかったとしても、貴族は絶対に



『では、こっちの娘はどうかね』と親戚などの娘を探してきて



婚姻関係を結びたがる。



貴族の娘たちにしても、夫がB級冒険者となれば鼻が高い。



B級冒険者に求婚されたという事実だけでも自慢できる。





そんな2人が幸太郎たちと親しく話をしながら、朝食の



テーブルについている。もちろん、バカスカ食いながら。



昨日、あれだけ飲み食いしたのに、けろりとしている。



まあ、それはエンリイも同じだが。





幸太郎は注目を浴びるのは困るのだが、半ば諦めた。



そもそも、モコとエンリイという飛びぬけた美女が



パーティーメンバーにいるだけで、悪目立ちしているのだから。





そして、ジャンジャック、グレゴリオと親しいという事実は、



大きなメリットもある。少なくとも、これで



幸太郎たちが『数日様子を見よう』とした理由、



自分たちにちょっかいかけて、『上前をはねよう』と



考えるデリウスたちのような者は近づいてこなくなるだろう。



『武力』とは、どんな人間に対しても、最も説得力のある



ファクターだから。





(確かに『魔除け』の効果はあるだろうな)





幸太郎はそんな事を考えた。『虎の威を借る狐』というやつだ。



ただし、幸太郎は狐ではなく、サイコパス。








「じゃあな。色々話が聞けて面白かったぜ。


幸太郎もE級のギルドカード取ったら、ユタへ遊びに来いよ」





「了解だ。その時はお邪魔することにしよう。


バーバ・ヤーガさんに頼まれていることもあるしな」





幸太郎はバーバ・ヤーガからイネスへの『届け物』のことを



言っている。





「我々は当分ユタから動かないから、急ぐことはないさ。


では、幸太郎殿も元気でな。何かあったら、遠慮なく呼んでくれ」





ふと見ると、ギルドの入り口の前にギブルスたちの馬車が



止まっていた。護衛を雇う代わりにジャンジャックとグレゴリオと



一緒にユタまで同行しようというのだ。



確かに『一騎当千』のB級冒険者と同行すれば、



他に護衛などいらないだろう。魔物だろうと盗賊だろうと、



あっという間にミンチだ。





ちゃっかりギブルス。





ジャンジャックとグレゴリオはモコとエンリイ、



エーリッタとユーライカとも握手してカーレの町を後にした。








「さて・・・。今日からはE級目指して地道に仕事をしようか」





「なんか、とんだ『様子見』になりましたね、ご主人様」





「もう、こんなことが起きない事を願うよ」





こうして、『様子を見よう』という軽い気持ちから始まった事件は



終わった。これからは山も無ければ谷も無い、平凡で



退屈で静かな日常が始まる。





・・・はずだ。








幸太郎たちの方は、とりあえず『一件落着』となった。



しかし、この事件は幸太郎には予想がついてて、



あえて、モコとエンリイ、エーリッタとユーライカに



話していない事がある。





その事自体は、幸太郎たちに関係のない事であり、



それについて、幸太郎たちができることは無い。



もちろん、首を突っ込んでいい話でもない。



もし、安易な考えで首を突っ込めば、幸太郎たちと言えど、



辺境伯家を敵に回すことになりかねないのだ。





そのくらい、この事は辛く、苦しく、悲しい、



・・・気の滅入る話、だ。








ニコラのグループにいた騎士は合計で5名。



幸太郎たちと戦った者が2名。縛り首になった者が3名。





彼らの家族が全員自殺した。





どうしようもない。どうにもならない。それだけが唯一の



『救い』だったからだ。





ニコラたちがたまり場にしていた宿屋の主人が



『支配』の魔法で口を割り、知っている全てを吐かされた。



そして、逮捕した者に『魅了』や『支配』をかけ、



次々にニコラの仲間を逮捕してゆく。結局、騎士団の中で



ニコラの仲間だったのは5名だと確定した。





その日のうちに、グリーン辺境伯と騎士団長のブランケンハイムが



逮捕された騎士の家に直接出向き、事情を説明。



逮捕は手違いでないと、逮捕した本人を連れて行き、念を押した。



そして、家族たちに『お前たちに罪はない』と、



グリーン辺境伯自らが優しい言葉をかけたのだ。





家族たちは全員涙を流して喜んだ。おそらく日本人なら



ほとんどの人が『家族は無罪か』と言う意味で喜ぶだろう。





だが、この異世界・・・いや、貴族社会では意味が違う。





『特別に自裁を許す』という意味だ。





忠誠を誓った領主を裏切った騎士の家族は、



祖父、祖母、父親、母親、兄弟、息子、娘・・・。



全員が自らが命を絶った。1人残らず、である。



家族が喜んだのは『騎士の家名の罪は問わない』ということに



対してだ。そして、逆賊の汚名は着せない。処刑するのではなく、



自決することを許可するという温情に対してである。





分かりやすく言い換えるなら、





『お前たちの家名と名誉は守る。反逆の責は問わない。


処刑もしない。墓もちゃんと管理する。


・・・だから安心して死ね』





ということだ。










(C)雨男 2024/07/10 ALL RIGHTS RESERVED






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