様子を見よう 31
縛り首になった者たちへ、手を合わせる幸太郎。
だが、その行為を周囲の市民が見て、咎めた。
「オイ! あいつらに手を合わせるなんて、お前たちは
ニコラの一味じゃないのか!?」
「そうだ! まだ仲間が残ってたんだ!!」
これは幸太郎も想定外。だが、日本人の風習をうかつに持ち込んだ
幸太郎が悪い。
「いえ、私はニコラの仲間ではありません。今のは・・・」
しかし、幸太郎が言うより早く、先に割り込む者がいた。
「あん? 俺たちのダチに・・・」
「何か御用ですかな?」
ジャンジャックとグレゴリオがジロリと睨んだ。
そして、さらに割り込む者がいた。
「幸太郎ちゃんたちは、ウチのギルドの組合員よ。
話があるなら、私を通してくれないかしら?」
キャサリン支部長がずいっと前に出る。その上、後方から
女性の声が聞こえた。
「幸太郎たちは、辺境伯家の客人よ。ニコラたちの仲間じゃないのは
私が保証するわ」
いつの間にかシャオレイが姿を見せていた。
幸太郎たちを睨んでいた市民は、
青い顔でオロオロと、うろたえている。
ここでギブルスが微笑んで中に入り、仲裁した。
「ひっひっひ、騒がせてすまんのう。ここはワシの顔に免じて
収めてくれんかの? この幸太郎は、わしの取引相手なんじゃ。
さっき手を合わせておったのは、この大陸の遥か南の風習でな。
『もう、アイツらが、2度とこの世へ戻ってきませんように』と
神に祈っておったのじゃよ。誤解させてスマンが、
単なる『風習』であって、悪気はないんじゃ」
幸太郎たちを取り囲んだ市民は『なんだ、そうだったのか』と
苦笑いしながら離れて行った。
「すいません、仲裁ありがとうございます、ギブルスさん。
そして皆さんも、かばって下さって、ありがとうございます」
幸太郎は頭を下げた。その幸太郎の頭をジャンジャックが
『がしっ』とヘッドロックする。
「いーってことよ。他人行儀はやめろって。
俺たちは対等の『友』だろ?」
キャサリン支部長が分厚い胸板の前で両手を組んで微笑む。
「いいわねぇ・・・。男同士の熱い友情! なんか胸が
キュンキュンするわぁ」
シャオレイがこの光景を見ながら、小さく溜息をついた。
「それにしても・・・凄いメンバーが揃っているわね。
あなたたちB級冒険者のジャンジャックとグレゴリオでしょ?
アルカ大森林のダンジョンを破壊したっていう・・・」
とりあえず、お互いに自己紹介しただけで、シャオレイは去って行った。
さすがに今日は忙しいようだ。『また話を聞かせてね』と
笑ってステージの方へ歩いて行く。
どうやら、警備も兼ねているらしい。
まだステージの上ではオーガス教の司祭が演説をしていた。
自分たちこそ悪魔がご本尊なのだから、皮肉もいいとこである。
『ナイトメアハンターを家族として迎えたい』と
情報提供を呼びかけていた。
もちろん幸太郎は『お断りでゴザル』という所だ。
幸太郎たちは広場から離れることにした。オーガス教と
リーブラ教の『しょーもない』話など聞くだけ時間の無駄だから。
広場を離れる時、ジャンジャックとグレゴリオ、
ギブルス、アカジン、ミーバイ、ガーラ、タマンは、
もう一度『昏き盲目の羊』の死体を、じっと眺めた。
そして、心底悔しそうな声でキレイにハモった。
『動いてるトコを見たかった・・・ッッッ!!』
幸太郎は眉を寄せ、渋い顔をする。
(そんな生易しい相手じゃなかったっつーの・・・)
とにかく、幸太郎たちは広場を後にした。
ちなみに、先程の市民たちが
あっさり引き下がったのには、もう1つ理由がある。
モコとエンリイだ。
この両者は『ギロリ』と殺気を出しながら睨んでいた。
そして、その目が語っていたのだ。
『あなたたち今日が命日ってことで・・・』
『いいんだよね・・・?』
モコとエンリイ、恐るべし。
幸太郎たちはカーレの町の外へ出ることにした。
キャサリン支部長は仕事があるのでギルドへ戻る。
アカジン、ミーバイ、ガーラ、タマンも店に戻った。
砂浜へ行くのは幸太郎、モコ、エンリイ、ジャンジャックとグレゴリオ、
エーリッタとユーライカ、そしてギブルス。
幸太郎たちは海岸でバーベキューをすることにした。
まだ封鎖されているが、門を出るのは簡単だ。
ジャンジャックとグレゴリオがギルドカードを見せるだけでいい。
浜辺に時計塔を設置して、シーツのタープを複数張る。
そして、料理開始。エンリイも大食漢だが、
ジャンジャックとグレゴリオもバカスカ食べる。
ガンガン作らないと、彼らにひもじい思いをさせてしまう。
手早くできる料理として、幸太郎は『焼きうどん』・・・というか、
『炒めうどん』を作る。野菜をバターで大量に炒めて、火が通ったら、
うどんと肉を加えて、さらに炒めるのだ。シンプル。
一応派生型として、マヨネーズをかけた『マヨ炒めうどん』と、
チーズをたくさん乗せて溶かした『チーズ炒めうどん』を
出撃させておく。ダークエルフ自慢のマジックスパイスを
振れば、大体なんでもウマイ。
そして、ソーセージやステーキもどんどん焼く。
寸胴鍋には先日好評だった『クラムチャウダーもどき』と、
『鯛のアラで作ったスープ』を。
もちろん、これだけでは足りないだろうから、
定番のパンにバター、ジャムを山盛り。
そして、幸太郎が全然飲まないので、ちっとも減らない酒を樽で出す。
エーリッタとユーライカは『イケる口』らしく、
酒を大喜びで飲んでいる。幸太郎には、正直何が美味しいのか、
さっぱりわからないが、喜んでくれているから良しとする。
(緑茶こそ至高・・・。緑茶こそキリストの再来なのだ・・・)
幸太郎は変態だ。
酒を飲みながらも、ギブルスは幸太郎の料理を
『きっちり』メモに書き留めていた。
ちゃっかりギブルス。
(C)雨男 2024/07/04 ALL RIGHTS RESERVED




