様子を見よう 19
「おや? 『やめろ』とおっしゃいますか。
いや~~~、ニコラさんが何やら『大ピンチ』みたいでしたので、
私まで攻撃するのは、さすがに大人げないように思いまして。
私としてはニコラさんへの『いたわり』と『配慮』のつもりだったのですが、
お気に召しませんでしたか。これは失敬」
しかし、幸太郎は止まる気配もなく、ずっとニヤニヤ笑いながら
地面を滑っている。
「だから、やめろって言ってるだろ! そのニヤついた笑いもだ!!
それとピンチじゃない! 僕は不死身だっ!」
ニコラは幸太郎へ怒鳴る。だが、幸太郎はあさっての方向を向いて
『べーっ』と舌を出す。
「やれやれ、なんと申しますか・・・。いや、その、何か
『弱い者いじめ』してるみたいで、何とも気まずいのですよ。
大人が子供相手に本気になるのも、みっともない・・・
そう思いませんか?
ねぇ、ニコラさん、相談ですが、私たちもう帰っていいですか?」
「・・・・・・・・・は?」
ニコラの額に青筋が浮いた。
「だって私が一切攻撃に参加してないのに、ニコラさんは
手も足も出ないじゃないですか? あ、出るのは触手だけでしたね、
すいません。はっきり言えば、私、退屈なんですよ。
私はさっきから、なーーーんにもすることが無くって・・・。
つまんないです。だって結局ニコラさんて『死なない』だけじゃ
ないですかぁ・・・」
「こっ、この僕が、弱いとでも・・・」
ニコラはもう怒りで顔が真っ赤だ。
「いえいえ、ニコラさんは『弱い者には』徹底的に強いですよね」
「僕は弱くなんかないぞ!」
「あ、そりゃどーも、ずびばぜんね・・・っと」
幸太郎は思い切り猿のような変顔で謝った。
ここまで見たモコとエンリイ、エーリッタとユーライカは
幸太郎の変顔で思わず吹き出して笑った。
「町へ帰りましょうよ。ね? ニコラさんの宿はわかってますから、
毎日憂さ晴らしに行きますね。毎日、私たちが満足するまで
殴ってあげますから。ニコラさんは殴られたら、その都度
『ありがとうございます』って言って下さいね。
いいでしょう? どうせニコラさんって『死なない』ことしか
取り柄が無いんだし。ああ、宿の主人も今日から私たちの
手下にしますんで。宿の主人にもニコラさんを殴らせましょう。
どっちが上か、その不死身の体によーっく叩き込んでおかないと」
「こっ、・・・殺してやるっ! 絶対に殺してやるからなっ!!」
「ハイハイ落ち着いて。まあ、歯の生え変わる時期ってのは
訳もなく苛立つものですよ、ボウヤ」
幸太郎はニコラを煽りまくる。煽って、煽って、煽り倒す。
ブチ切れたニコラは『全言語翻訳』をもってしても
意味が解らない叫びを上げて、幸太郎へ襲い掛かろうとした。
・・・できなかったが。
結局、『昏き盲目の羊』は移動できず、触手も次々に破壊される。
その間にも、次々に矢が飛んできて、胴体の顔たち、
ニコラの頭や顔、首、胸に突き刺さる。
ニコラがどんなに怒っても、殺そうとしても、今までと
何も変わらない。『完封』されるのだ。
文字通り、手も足も出ない。
そして、ぐーるぐると回り続ける幸太郎はニヤニヤと笑い続けた。
『昏き盲目の羊』は不死身。だが、『変化』はすぐにやってきた。
正直に言えば、幸太郎の予想よりも、ずっと早く。
胴体に浮かんだ『顔』が笑わなくなった。
そして、眉を寄せ、苦悶の表情を浮かべる者が現れたのだ。
その後の変化も早かった。胴体に浮かんだ『顔』は
笑う者はいなくなり、次第に叫び始めた。
『い・・・いやだ・・・』
1つの『顔』が叫び始めると、堰を切ったかのように、
全ての『顔』が同じく『嫌だ』と叫び出した。
ついには『昏き盲目の羊』に取り込まれた騎士や警備隊の男まで
同じく苦悶の表情で『嫌だ』と叫んだ。
真っ赤になって怒っていたニコラの顔が、今度は真っ青になった。
「おい! お前たち、騒ぐな! 僕の命令が聞こえないのか!
騒ぐなと言っているんだ! このバカどもめ!」
幸太郎は『ここだ!』と思った。
「モコ! エンリイ!」
モコとエンリイは『サイコソード』と『如意棒』の
真の力を開放した。
「噛みちぎれ!・・・『サイコソード』!!」
モコは今までよりも圧倒的に早いスピードで動き、
『昏き盲目の羊』の上部3分の1ほどを横一文字に切断した。
たった一刀。まさに一閃。
頂点にいるニコラはビックリした顔で肉塊と共に地面に落ちた。
「吠えろ!・・・『如意棒』!!」
エンリイの『如意棒』が10メートルほどに伸びる。
その『如意棒』をエンリイが思い切りフルスイング!
『昏き盲目の羊』の下部は足の部分を残し、
爆散して吹き飛んだ。コナゴナだ。
胸から上だけのニコラは、肉塊の一部と共に
地面に這いつくばっている。
胴体はほぼ全て消し飛んだ。残っているのはゾンビが
押さえつけている足の部分くらいしかない。
『昏き盲目の羊』は不死身だ。コナゴナになってはいるが、
それでも互いにくっつき、急速な再生を始めている
・・・『はず』だった。
先程と違って、修復、再生が遅い。明らかに再生が鈍い。
モタモタしているのは明らかだ。
「くそっ! 再生を急げ! こいつらを皆殺しに・・・」
ニコラは地面に倒れたまま、そう叫んだ。
そこへ、幸太郎の『性格の悪い』攻撃が襲い掛かった。
「ふふふ・・・」
「あははは」
「クスクス・・・」
「なにあれ? 無様ね」
モコ、エンリイ、エーリッタとユーライカが、
地面を這うニコラを指さして笑い出したのだ。
スケルトンも『けたけた』と笑っている。ゾンビまでもが
『ひひっ、ひひひっ』とニコラをあざ笑った。
もちろん、幸太郎の操作だ。
その場にいる、ニコラ以外の全員がニコラを指さし、
あざ笑ったのだ。
初めて、ニコラの顔に『恐怖』が浮かんだ。そして幸太郎の
予想通り、あっという間にニコラは化けの皮がはがれた。
「う、うわ・・・やめろ、やめろ、
笑うな、笑うんじゃない! やめろおぉっ!!!」
ニコラが苦しそうに叫ぶ。それはニコラだけではない。
『昏き盲目の羊』の胴体に浮かんだ顔たちも、
苦悶の表情で『やめてくれ』と叫びだした。
なおも、幸太郎たちは『嘲笑』を浴びせ続けた。
誰の目にも、その効果がハッキリと見て取れる。
『昏き盲目の羊』の修復が遅々として進まなくなったのだ。
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