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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ
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領主からの依頼 54


「事情はギブルスさんからの紹介状でわかりました。


そちらのモコさんに『隷属の首輪』を装着するのですね?


ただし、モコさんは奴隷の身分に落ちるわけではない・・・と」





「はい。モコは決して奴隷などではありません。あくまでも、


『隷属の首輪』の利便性を鑑み・・・」





「いいえ、私はご主人様の奴隷です!」





モコが後ろからキッパリ言った。おろおろする幸太郎を見て、



アーバインが微笑み、『慕われているんですね』と優しく言った。



幸太郎は真っ赤になって言葉が出なくなった。



アーバインは幸太郎に語り掛ける。





「稀なことではありますが、このようなケースは時折あります。


『精神支配系統の魔法を防ぐため』ですね?


私も詳しくは知らないのですが、『隷属の首輪』に仕込まれた


魔法式は強力です。噂では吸血鬼の『魅了の邪眼』すら


跳ね返すとか」





それはダンジョン深層で実際に目の当たりにしている。



モコはブラッドリーの『魅了の邪眼』を受け付けなかったのだ。





「ですから、貴族の方々や、高ランクの冒険者などで、


どうしても失うわけにはいかない人に装着する例はあるのですよ。


もちろん、主人になる人、奴隷になる人、双方の


絶対的な信頼が無いと成り立たないことではありますが」





「私たち以外にも、同じ使用目的の人がいたんですね・・・」





「はい。何せ『隷属の首輪』に使用されている魔法式のいくつかは、


『ストーム・ルーラー』が作ったものだという噂があるくらいです。


首輪を生産しているのは『マジックアカデミー』の奥深くですが、


その生産者も高位付与術師が『オリジナルをコピーしているだけ』・・・、


という噂があるのです。おそらく『隷属の首輪』の


プロテクトを突破できる精神支配魔法は現在の所、存在しないでしょう」





「なんと・・・完全には解明されてない技術が組み込まれて


いるとは・・・」





「複雑な『錠』と『鍵』のようなものです。私たち奴隷商人は


『鍵』となる魔法を習得しますが、『錠』の内部構造は


ハッキリ言って謎ですね」





ここでメイドが『隷属の首輪』をトレーに乗せて運んできた。





「どうやら準備ができたようですね。ああ、そうそう。


ギブルスさんからの紹介状に『便宜を図ってやって欲しい』と


ありました。金貨15枚頂ければ税金がかからないように


いたしますが?」





「そんなことできるのですか?」





「大したことではありません。記録上、3年後に『死亡』したことに


するだけです。それまでは記録上、ちゃんと税金を払っていたと


します。これは領主側と口裏を合わせる必要がありますので、


金貨5枚は『賄賂』ですよ。当然ですが、相手を納得させるだけの


事情も必要ですので、誰でも彼でも税金を逃れられるわけでは


ありません」





(そして、何よりも奴隷商人に信用が無いとできない裏技


なんだろう・・・)





幸太郎はアーバインという男が様々な方面で高い信用を



得ていることを実感した。





ともかく事情を話して、賄賂を出すだけで『免税』になるのは、



幸太郎にとってありがたい。幸太郎はドロボーとダンジョンの



『お宝』のせいで、お金には困っていない。しかし、この異世界での



『各種手続き』のような面倒なものは御免被りたいところだ。





「わかりました。是非お願いします。では・・・これ、


金貨15枚です。お納めください」





幸太郎は『マジックボックス』から金貨15枚を取り出し、



テーブルに置いた。





ここで、モコとエンリイはお互いを見てうなずき、



幸太郎にとって予想外の事を言い出した。





「あ、あのさ、幸太郎サン。ボクも・・・『隷属の首輪』を


着けて欲しいんだけど・・・」





「ご主人様、私からもお願いします。エンリイにも


『隷属の首輪』を着けてあげて下さい」





幸太郎はきょとんとした顔で後ろを振り返った。



そして、しばし、目をパチクリさせた後、『えええ!?』と



裏返った声を上げた。





「落ち着いて下さい、ご主人様。これは例の事件を経験したことで


『必要』だという結論になっただけです」





「うん、実は今朝、モコと話し合ったんだ。『精神支配系統』の


魔法の威力を目の当たりにしたからね。やっぱり、どう考えても、


ボクも『隷属の首輪』を付けなきゃならないよ。必要なんだ」





「い、いや、しかしだな・・・。『隷属の首輪』を付けるってことは・・・」





「ご主人様、落ち着いて現実を見て下さい。


もし、エンリイが精神支配魔法をかけられてしまったら、


どうなると思いますか?」





「!!・・・」





幸太郎は言葉に詰まった。真剣な顔で眉を寄せて考え込む。





「そうです、私たちもご主人様の心配している事と、


同じ結論に至りました」





「もし、ボクが操られてしまったら・・・モコが止めるしかないよね」





「ですが、ご主人様も知っての通り、私とエンリイでは、


エンリイの方が強いです」





幸太郎の額に汗がにじんだ。





「そうか・・・もし、そうなった場合は・・・


『手加減』はできないってことだな・・・」





「はい。私がエンリイを止めようと思ったら、


もう『殺す』つもりで戦うしかないのです。


私がエンリイに倒されたら、ご主人様が


危険にさらされます。つまり、最低でもどちらかが死にます。


最悪の場合は全員が死ぬことになるでしょう」





幸太郎は『黒フードのネクロマンサー』『荒野の聖者』



『ナイトメアハンター』と3つの名前で賞金がかかっている。



人目があるときは本気で戦えないだろう。





また、『破魔の陽光』で精神支配は解けるだろうが、



『いつでもそばにいる』とは限らないのだ。



敵がそれを知っていたら、間違いなく分断を狙ってくる。





「でもさ、ボクが『隷属の首輪』を着けていれば、少なくとも


ボクとモコが戦う状況は発生しないと思うんだ」





幸太郎も事の深刻さが理解できた。幸太郎にしても、



もし敵の立場なら絶対にその『弱点』は狙う。



成功しなくても、狙うフリをすれば、幸太郎たちの行動を



誘導できるはずだ。





幸太郎はアーバインに質問した。





「奴隷商人だったら、首輪の主人を勝手に変更できますよね?」





「それは可能です。そういう魔法を習得しておりますから。


ですが、実戦では不可能ですよ。首輪の主人を『変更』するのは


時間のかかる作業です。壊すのではなく、『解除』という


作業をしますから、最低でも5分近くは必要です」





「なるほど・・・」





幸太郎は改めて『よく出来ている』と感心した。



ちょっとやそっとでは『主人』を解除できないようになっている。



良く練り込まれたシステムだ。





「モコさん、エンリイさんの心配はもっともです。


嫌な言い方をいたしますが、精神支配を受けた人物が


『戦え』と命じられた場合、たいてい悲惨な結末を迎えます」





幸太郎は眉を寄せて暗い顔をした。つまるところ、幸太郎は



モコとエンリイが傷つくのが嫌なのだ。すごく嫌。



ましてモコとエンリイが仲間割れのように戦う所など、



絶対に見たくない。



幸太郎は映画などでも『仲間割れで戦う』シーンは大嫌いだ。



もし、エンリイが操られて幸太郎たちと戦うことに



なったとしたら、幸太郎はその敵を、怒りに任せ何の躊躇もなく



殺すだろう。その敵は幸太郎に捕まる前に、早めに自害するべきだ。



おっさんは自分勝手でわがままなのがデフォルト装備。





「・・・わかりました。アーバインさん、すいませんが、


エンリイの分もお願いできますか?」





幸太郎は追加で金貨15枚をテーブルに置いた。



後ろでエンリイがほくそ笑む。





(やった! これでボクも幸太郎サンのものだ! わーい!)










(C)雨男 2024/03/18 ALL RIGHTS RESERVED






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