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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ
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領主からの依頼 25


「参った・・・。俺は完全に手玉に取られたようだな。


噂以上だ、『黒フードのネクロマンサー』よ」





「周囲が勝手にそう呼んでるだけさ。俺は気に入らないんだがね」





通り名というものは、基本的に他人が勝手に付けるものである。



大抵の場合、本人は気に入らない。が、仕方ない。





「お前が『黒フードのネクロマンサー』と正体を明かした以上、


俺はもうすぐ死ぬんだな」





「当然だろう? 他人を呪い殺そうとしておいて、


よもや『助けて』などと間の抜けた事は言うまいな?」





「そこまで恥知らずではない。こんな仕事をしている以上、


覚悟は常に持っている。もちろん、俺の手下たちもな」





「では、今度はこちらの質問に答えてもらうぞ、『鴉』。


いや、『メレディス・バラクロフ』と呼んだ方がいいか?」





その名を幸太郎が口にしたとたん、『鴉』は絶望の表情を浮かべた。



『鴉』は俯き、絞り出すような声で幸太郎へ懇願した。





「・・・と、『取引』がしたい。俺の知っていることは


なんでも話す・・・協力もしよう。だから、お願いだ。


俺を『鴉』として死なせて欲しい・・・。虫のいい事を言ってるとは


解っている。だが、だが、どうか『取引』に応じて欲しい。


頼む・・・後生だ・・・」





幸太郎は3秒ほど固まった。そして、真剣な顔で言った。





「承知しました。『鴉』さん、その『取引』・・・受けましょう。


あなたの名前が出ないように取り計らいます。私の責任において


お約束いたしましょう。もし、万が一、あなたの名前が


表に出そうなときは、私が止めます。いや、あなたを


グリーン辺境伯に引き渡す前に、あの世へ送って差し上げてもいい」





「ありがとう、ありがとう・・・。無茶を言ってすまんな・・・」





「運命の歯車が、少しずれていたら・・・もっと違った形の


出会いになっていたでしょうに・・・残念です」





幸太郎はモコとエンリイが目をパチクリさせて



自分を見ていることに気が付いた。





「不思議かい?」





「はい・・・。こちらが完全に優位なのに、なぜ取引に応じる


必要があるのですか・・・?」





「幸太郎サンなら意のままにできるでしょ?」





幸太郎は笑って答えた。





「いいんだよ。大人には誰しも秘密の1つや2つあるものさ。


敵とはいえ、これほどの男が頭を下げているんだ。


同じ男として、取引に応じないのは恥ずべきことだと思う。


無下に断るのは『無粋』というものだよ」





それを聞いたモコとエンリイは感動・・・してはいない。2人揃って





((甘いなぁ・・・))





と思っていた。そして同時に





((でも、そういう所が、また好き・・・))





とも思った。確かに平和な日本からやってきた幸太郎は、



この世界では『甘い』のだろう。それはもう仕方ない。



日本人なら、おそらく全員『甘い』と言われてしまうはずだ。



幸太郎はサイコパスで外道な考えをするが、涙もろいし、



できれば相手を傷つけたくもないとも思っている。





男とは、いつもいつも我儘ばかり言ってるバカな生き物なのだ。



そして、それは多分死ぬまで直らない。








『鴉』は知っている事を洗いざらい話した。



部下の口を割ったということは、やろうと思えば自分の口を割るのも



容易いと観念している。



何より本来応じる必要のない『取引』に応じてくれた、



幸太郎の誠意に感謝していたのだ。





モコとエンリイは幸太郎の推測がほぼ正解だったことに、



改めて驚いている。





話の冒頭で、黒幕の貴族の名前が明らかになった。





『コンスタン・ピシェール男爵』





執事のフランクの推測は正鵠を射ていた。



グリーン辺境伯領に隣接している貴族は2家。



南の海岸沿いにあるのが『リヴィングストン侯爵領』



そして、グリーン辺境伯領とリヴィングストン侯爵領に



挟まれるような形で東の山脈側に存在しているのが



『ピシェール男爵領』である。





名目上、ジャンバ王国は『アルカ大森林』まで領有していると



宣言しているため、ピシェール男爵領は東に長細く広大な領地と



なっている。が、実際は魔物がいるので東に行けば、



すぐに誰もいない荒野、草原、林が広がる。



アルカ大森林まで行けば人がいるが、そこまでは無人だ。





幸太郎はこの話を聞いた時、貴族の領地の小ささに驚いた記憶がある。



しかし、魔物という人類の天敵が存在する世界では仕方ないことなのだ。





(元の地球に比べると、この世界の貴族の領地は比べ物に


ならない程小さいんだな・・・。まあ、人間とだけ戦って


領地を守ればいいわけじゃないから、勢力圏は自ずと小さくもなるか)





この世界の貴族は苦労が絶えないな、と幸太郎は同情した。





なお、余談だがジャンバ王国がアルカ大森林を領有宣言しているのは、



別に不思議なことではない。バルド王国がアルカ大森林へ



攻め入った時に『ウチの領土だ!』と軍隊を動かす



大義名分とするために言ってるだけだ。



有り得ない話ではあるが、万が一にもバルド王国と



アルカ大森林が結託することも許すわけにはいかない。





もちろん、ジャンバ王国政府はドライアードに許可など



取っていない。取るつもりもない。



ドライアードたちや、森の評議会も、そのことは全然気にしていない。



いわゆる『政治』というやつだ。ただ、それだけのこと。










(C)雨男 2024/01/18 ALL RIGHTS RESERVED






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