伝染るんです
「もちろん魂が砕けるまで地上をさまようのも、本人次第ではあるのよ?
ある意味それは本人が望んだことだから・・・」
「ええ・・・? そんなこと本人が望んだりしますかね・・・?」
「んー・・・例えば、さ。『働きたくない、勉強したくない、食うだけ食って
寝ていたい』っていう人、たまにいるじゃない?
それって動物の死体に沸いているウジと同じでしょ? 見渡す限り食べ物で、
働く必要も無いし、勉強も宿題も無い、服もいらない、
もちろんうるさい事を言う人もいない、食うだけ食って寝るだけの毎日」
「うげ・・・」
「自分が何を食べてるか、とか自分の姿を客観的に見たり気にしなければ、
まさに自分の望みが全て叶った世界なのよ」
「気になるんじゃないですか?」
「ならなくなるのよ。そんな望みが全て実現したら、
もう自分の名前も思い出せなくなるわ。
もう名前なんて必要なくなるから・・・」
「あ・・・。そうか・・・。もう誰かの名前を呼ぶ必要も無いし、
自分の名前が呼ばれることも無い・・・」
「そう。全ての望みが叶っているから。名前という概念自体が
魂から消滅するの。誰からも呼ばれない、誰の名前も呼ばない、
ひたすら自分だけの世界に閉じこもってさまよえば・・・、
魂はそれに合わせたレベルまで崩壊する」
「うわあ・・・私は嫌ですねえ・・・」
「話を戻すけど、本来は基本的に神は直接手を出さないし、出してもいけない。
でもちょっとこれはまずい事態になっているの。
あまりに悲しい、つらいって感情の亡者が増えすぎてね。
他の亡者や生きている人たちにも影響を及ぼし始めているのよ」
「影響がでるんですか?」
「うん。そーねえ・・・。雰囲気が悪くなるっていうか・・・
水面に『つらい』『苦しい』って波紋が起きる感じかしらね・・・?」
「雰囲気が生きている人たちや、他の亡者にも伝染するってことですか?」
「そうそう! あんた意外とやるじゃない!」
おほめにあずかり光栄です。アステラ様・・・。
(C)雨男 2021/10/30 ALL RIGHTS RESERVED