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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ
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領主からの依頼 19


 ほぼ、日が沈んだ。夕日の名残は、遠い海の彼方にゆらめく



光のリボンだけ。空の色もオレンジから輝く黒へと変わりつつある。





幸太郎たちがいる森の南西、海岸沿いに歩く人影があった。





『鴉』だ。





たった1人である。誰も伴についてはいない。



この男の自信、実力、そして覚悟がうかがえる。





『鴉』が見張りたちのいる小屋を目指して森に入ると、



奇妙な違和感を感じた。





(・・・何か違和感がある・・・。雰囲気が違うような・・・。


これは、部下・・・ではない・・・? 気の回し過ぎだろうか?)





『鴉』は食料などが入ったカバンを地面に置き、剣を抜いた。



まだ『かすかな違和感』程度だが、油断はしないに越したことは無い。



心配は『空振り』に終わって、初めて笑い話となるからだ。








『鴉』は音を殺して見張りたちの小屋へ近づいた。



そして、自分の違和感が間違いでなかったことを知る。





(誰も見張りに立っていない・・・。下水道の入り口から


目を離すなと言ってあるのに・・・)





当然だが、彼らの一番の心配は『計画がバレること』で、



次の心配は『クリストフが心変わりして逃げ出すこと』だった。



現在、下水道は『人や魔物や獣が入って来ないように』という名目で



あちこちにバリケードを作って通行できないように細工してある。



もちろん、本当の目的はクリストフの安全などではない。



クリストフが逃げ出そうとしたら、必ず海側のろ過池そばの



出入り口を通る以外に道がないように、だ。



入り口の鉄格子の扉もしっかり鍵はかけてあった。



クリストフが逃げようとすれば、必ず見張りは気づくだろう。





もちろん見張りが4人もいる理由は、出入り口に近づく者を追い払い、



殺すためでもある。そして最後はクリストフを



始末する任務も与えられていた。





計画が成功しても、失敗しても、いずれにせよクリストフを



始末する予定。結果がどうなろうと、計画の大部分を知った彼は、



もはや生きてるだけで邪魔なのである。








『鴉』は引き返そうかと思ったが、迷った末、



小屋へ接近することを選んだ。



小屋の中で、かすかにくぐもった声がしたのだ。



『鴉』は『どうやら、部下はまだ生きている』と推測した。





(周囲に人影が無い以上、大勢の兵士が小屋を襲ったわけではないのは


明白だ。と、なれば敵は少数、多くても5人程度のはず。


5人程度なら、俺1人でも勝てる・・・。


例え逃げることになったとしても、十分振り切ることが可能・・・よし)





『鴉』としては、どうしても欲しい情報がある。



『計画がバレた』のか、それとも



『偶然、何かのトラブルに巻き込まれただけ』なのかだ。





もちろん『偶然、トラブルに』など可能性は低い。



釣り具のカムフラージュだって用意してあるからだ。



しかし、自分と同じ無法者なら襲ってくる事もあるかもしれない。





(周囲の枝が折れるといった、争った跡は無い・・・か。


しかし、あいつらが、容易く負けるとも思えんのだがな・・・)





とにかく、計画が続行可能なのか、いったん全て切り捨てて



撤収するべきなのか・・・。



『鴉』はこれを判断する『情報』が欲しい。



もし、まだ自決していない部下がいれば正確な情報が手に入る。








「・・・それで、部下は全員目隠し、猿轡を噛ませて、


転がしてあるだけなんですね」





「『鴉』が1人で行動しているのは、いざという時に


一切合切、全て切り捨てる準備をしているからだ。


例え逃げる事になったとしても、自分1人なら


『イビル・アイズ』を召喚すれば、大抵の奴には勝てる。


自分の『お供』が捕まる心配もなくていい。


最悪の場合でも自分だけ始末すれば、絶対に貴族までは


たどり着かない。フランクさんの推測で、黒幕の目星はついているが、


それだけではただの『言いがかり』だ。逮捕、処刑には至らない。


むしろグリーン辺境伯の立場が悪くなる」





「『鴉』は切り捨てて逃げるほうに重点を置いているわけですね。


『イビル・アイズ』とかいう恐ろしい魔物を召喚できるのに、


なかなか慎重・・・」





「そして頭も良い。だが、頭が良いからこそ、


黒幕の貴族に『何と言って報告すればいいか』を考えてしまうのさ。


『かくかくしかじか、こういった理由で切り捨ててきました』と


報告しないと貴族は納得しない。グリーン辺境伯家を乗っ取るために


危ない橋を渡って来たんだ。『なんとなくヤバそうなんで逃げてきた』


という報告では責任を果たしたことにはならないよ」





「ではこの『部下』という『撒き餌』には100%食いつきますね」





「ああ、絶対に、ね。こちらが少数なのは見ればわかる。


部下が口を割ったとも考えていないだろう。口を割ろうとすれば


自決したはずなんだから。こちらが少々手ごわいとしても、


『イビル・アイズ』を召喚して、2人がかりなら短時間で始末できる。


こう考えれば勝算は十分。必ず小屋の中を確認しようとするだろう。


なまじ強いのが仇となった形だよ。皮肉なもんだ。


だから部下の持つ『情報』をほっぽり出して1人で撤退、


なんとなく計画は中止って選択肢は『有り得ない』ね」





幸太郎とモコが小屋の中に『密室』を展開して雑談をしている。



エンリイはすでにスタンバイ。『鴉』が来るのを待つだけだ。





モコはつくづく思った。





(ご主人様が味方に付いて、グリーン辺境伯は幸運だわ・・・


そして、『鴉』はなんて運が無い・・・)










(C)雨男 2024/01/06 ALL RIGHTS RESERVED






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