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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ
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登録


 昼前にはカーレに到着してしまった。ゴーストエンジンが以前より



速くなっているのは間違いない。



幸太郎とモコは、ガンボア湖の市場で買った中古の革の鎧などに



着替えた。『ジャングルホッパーの鎧』は必要な時だけ



装備すればいい。新人のくせに高価な装備を着けていれば、



狙われる原因にもなりかねない。





登録だけならすぐに終わるというエンリイの言葉に従い、



昼ごはん前に冒険者ギルドへ。受付の女性はロイコークの懸賞金の時に



担当していた人だった。





「あら、エンリイさん。お久しぶりです。今日はどのような


御用でしょうか?」





この女性はエンリイ『だけ』憶えていた。



まあ、C級冒険者だけを憶えているのは当然だ。



幸太郎とモコは『おまけ』にしか見えない。





「今日は、この2人の冒険者登録に来たんだ。初めてだから


カードは無いよ。『新人』からのスタートさ」





「あ、そう言えば以前もエンリイさんと一緒にいましたよ・・・ね?


エンリイさんのパーティーメンバーになるんですね?


では当ギルドに3人で加盟ですか。ありがとうございます」





「ううん、違うよ。加盟はするけどね。こっちの人が幸太郎サン。


うちのパーティーのリーダーはこの人だよ。こっちはモコ。


ボクとモコが幸太郎サンのパーティーに入れてもらうのさ」





「えええ? C級冒険者が『新人』のパーティーに入るのですか?


実績から考えれば、エンリイさんがリーダーのほうが、


いいと思いますけど・・・」








この時、併設されている食堂に男3人のパーティーが座っていた。



そのうちの1人が非常に不愉快そうな表情を浮かべ、



幸太郎たちを見ている。





「・・・ちっ、なんだぁ? 男1人に女2人のパーティーを


組むだと? しかも、あんなひょろっちい男がリーダーだって?


・・・気に入らねえ・・・」





「おいおいアイゴ、昨日酒場のブリジットに手ひどくフラれたからって


他人に八つ当たりするなよ?」





「そうだぜ、お前が昨日ヤケになって飲み過ぎたせいで、


結局今日は仕事を受けられなくなってんだ。


あんまり感情的になるなって」





別に酒場のブリジット嬢は何も悪くない。



酒場でウエイトレスをしていれば、デートの誘いや



愛の告白など日常茶飯事だからだ。



そもそも『酔っ払い』の寝言など本気にする方が間違っている。





「感情的になんかなってねえよ! それにウミケム、ゴンズ、


お前らだって『アレ』が面白れえわけねーんだろ?


あんな剣もロクに振れなさそうな男が、美女2人引き連れて


パーティーを組むだあ? しかもノッポのほうはC級冒険者だと?


強い奴の尻にべったり張り付いて、自分が強くなったように勘違い


起こしてるんじゃねーのか? のぼせ上りやがって、面白くねえ!」





「ま、そりゃあ、確かにな・・・」





「いるよな。強いやつに引っ付いて自分まで強くなったと


思ってるバカはよ」








カウンターで登録の書類を出してもらっている幸太郎たち。



もちろん、モコには食堂でクダ巻いてる男3人の声は全部聞こえた。



しかし、幸太郎がモコを抑えた。『登録済ませたら、



一旦外へ出よう。関わっていたらキリがない』と言って。



モコはとりあえず幸太郎に従った。別にケンカしにギルドへ



来たわけではないからだ。





幸太郎は嘘のプロフィールを記入することになっている。



エンリイと同じジュッカ大森林そばの、山奥の村出身と



いうことにした。この辺りの地理や事情に詳しくないのを



誤魔化すためである。





「えーと、この用紙に記入するのですね? あ、そう言えば


お名前を聞いてませんでしたね。私は幸太郎です」





「私はルイーズです。よろしくお願いします、幸太郎さん」





「それで、実は私は文字が読めるけど書けないのです。


モコに代筆してもらってもいいですか?」





「ええ、構いません。記入するところは、ここと、ここと・・・」





幸太郎は感心した。この世界の女性の識字率の高さに、だ。



幸太郎のいた地球では産業革命のころのヨーロッパでも



女性の識字率は数パーセントしかなかったという。





日本が世界から見れば異常なだけだ。





よく誤解されているが、日本が男尊女卑だったのは、



明治維新から第二次世界大戦までの、ほんの一時期だけ。



他の時代は全て、男尊女卑とは言えなかった。





日本の最高神は女神だ。



日本は女性の『エンペラー』が複数存在した。



日本は世界最古の女性作家が2人もいる。



女性の武将もいた。



豊臣政権は秀吉とねねの『共同経営』だった。



豊臣家を滅ぼした徳川家康は、ねねに1万7000石もの



知行を与えて生活を保障している。あのドケチの家康が。



江戸時代でも寺子屋に通う女子は多かった。男女平均で識字率は



6割を越えていたという。女性が『言葉遊び』をすることに



外国人は驚いたそうだ。



誤解されているが、江戸時代の『三くだり半』は夫婦双方にとって



『再婚許可状』の意味を持ち、どちらかというと



『妻が渋る夫に無理やり書かせて』いたことが多かったという。



夫が妻に突きつけるものではない。未練がましいのは大体男の方だ。





幸太郎は大学時代に『日本は女性の地位が低い』と繰り返す



留学生と同じ講義に入った事がある。





あまりにもしつこいので、幸太郎はカチンときて彼をからかった。





「そっかー。君の国では女性の地位が高いんだね。そう言えば、


君の信じている宗教って・・・えーと、なんだっけ?


もちろん神は女神なんだろ? えっ!? 神は男なの?


うっそぉ、マジで? この時代に男の神なの?


時代遅れなんじゃない? うわ、だっさ」





さらに幸太郎は余計な事を言う。サイコだ。





「じゃあ、もちろん、君の宗教のトップは女性なんだよね?


えええ? 男!? は? 一度も女性がトップだったことって無いの?


一回も? うっわ~信じられないなぁ~~~。それって女性蔑視?


女性の地位が低すぎじゃないの? 日本より2600年くらい


遅れているんじゃない?


是非とも先ずは『お手本』を日本に示してもらいたいなぁ~。


がっかりだよ。くすくす」





ここまで言った時、その留学生は頭から角を生やし、



背中からコウモリのような羽を生やした姿に変身。



奇声を上げながら、およそ地下鉄1駅ぶんくらい、



幸太郎を追い回した。それ以来、幸太郎はこの手の話には



絶対に首を突っ込まないことに決めている。





(真面目に女性の地位向上に努力している人の方が


多いんだろうが・・・ただ『相手を叩くためだけ』の奴も


いるんだな・・・。もう二度とこの件には関わらないでおこう・・・)





幸太郎はひどく後悔した記憶が残っていた。





幸太郎もいわゆるナーロッパ世界の女性の識字率には、



現実っぽくないと思っていた。しかし、実際にこうして



異世界に来てみると、自分の考えが見当違いだったことを知った。





女性と男性の識字率が同じ・・・しかも双方とも非常に高いのは



『魔物』のせいだ。そう、人類に『天敵が存在する』世界。



魔物は老若男女で区別しない。



魔物相手には『生きる』か『死ぬ』しかない。



だから、情報が読み取れない人間は死にやすい。



情報を残せない人間も死にやすい。そこには男女の区別は無意味だ。





この世界は、いい意味でも悪い意味でも男女平等なのだろう。



・・・『死が近い』という残酷な制限のある世界において・・・。










(C)雨男 2023/11/21 ALL RIGHTS RESERVED






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