朝風呂
修行が終わった翌日。
幸太郎は朝っぱらから風呂を沸かしている。大きな風呂桶も
ずん胴鍋3つで順番にお湯を入れてゆけば、そこそこ簡単にお湯は貯まる。
熱湯を入れて、あとは幸太郎が『飲料水』で調節すればいい。
まずはモコとエンリイ。
昨日までの修行の疲れを解きほぐす。お風呂は時計塔に
支柱を括り付け、シーツの囲いを張ればプライバシーも守れる。
アルカ大森林の家具屋で買った『すのこ』で脱衣場もちゃんと作ってある。
「何回見ても、モコの胸、おっきいね~」
モコとエンリイの入浴シーンではあるが、諸事情により
名馬『ギンシャリボーイ』の放牧地の映像に切り替わっている。
雄大な大自然の中、馬が草をのんびりと食んでいるシーンだ。
「エンリイだって背中からお尻のライン、とっても綺麗よ」
モコとエンリイの入浴シーンではあるが、大人の事情により
『ふんどし一丁のジャンジャックとグレゴリオのマッスルポージング』
に映像が切り替わっている。
幸太郎は見張りと警戒をしながら、雄大な大自然に向かって般若心経を
唱えていた。ハラソウギャテイ、ボジソワカ。
2人がお風呂から出たら、今度は幸太郎の番だ。
実はこの2週間、幸太郎は自身に『洗浄』をかけるだけで、
お風呂には入っていない。念のため外敵に備えていたのである。
しかし、今日はモコとエンリイが見張りをしてくれるので、
遠慮なくお風呂に入れるのだ。
「はぁ~~~、朝風呂はいいねぇ~~~」
嗚呼、日本人。幸太郎はのんびりとした気分で
『いい湯だな ビバノンロック』を歌い出した。
「ここ~は~異世界~川辺の湯~っと。やっぱ、日本人は
お風呂がなきゃあ、始まらねぇ」
上機嫌で幸太郎がお風呂からあがると、モコとエンリイが
口を『への字』にして待っていた。
「私もご主人様と一緒にお風呂で『びばびば』したいです!」
「ボクも! 一緒にお風呂で『びばびば』!」
「え? いや、しかし、男女でお風呂っていうのは・・・」
「では、服を着たままで入ります!」
「それならいいでしょ?」
「服を着たまま? う~ん、日本にも混浴の温泉はあるが、
今は基本、水着で入るもんであって・・・」
幸太郎は『しまった!』と思ったが、手遅れだった。
「水着? その水着って服があればいいんですね?」
「幸太郎サンの故郷の文化、ボクたちにも教えてよ!」
「い、いや、あれは、その、まあ・・・」
幸太郎は、結局モコとエンリイの圧力に負けた。
つまるところ、幸太郎は女に弱いのだ。
「わ、わかったよ、じゃあ、カーレに戻ったらギブルスさんに
水着の作成を依頼してみるよ」
「「やったあ!」」
幸太郎は小さく溜息をついた。
(まあ・・・いいか。昔の半そで、半ズボンみたいな水着を作って
着せとけば問題ないだろう・・・)
幸太郎は1つ見落としている。幸太郎の頭はぽんぽこぷー。
朝風呂、朝ごはん、どちらも終わり、いよいよカーレに向かう。
目的はギルドカードだ。現在地はアルカ大森林のすぐそばだが、
小狼族の村には戻らず、カーレへ直行。
ボートでピートス川を下れば早い。昼前には到着するだろう。
(C)雨男 2023/11/19 ALL RIGHTS RESERVED




