さまよう騎士たち
「これ以後は全く、誰も何も話さなくなりました。
後続の後始末の部隊も全く無言でした。よく訓練されていましたね」
カルタスはよく覚えていた。幸太郎は『よく覚えてましたね』という言葉が
のどまで出かかったが、危うくそれを飲み込んだ。
カルタスの立場で考えれれば、覚えていて当然だったからだ。
自分の一番後悔している事件。もっとも悔しかった事件。
そして、何より、死んでさまよっているカルタスには、
もう他に覚えるような事件は、一切何も起きないからだ。
「後始末の部隊が我々を穴に埋めました。・・・ちょうど、その辺りです。
エミール殿下とマーガレット様の亡骸はどこかに運ばれたようです。
そして、誰かが我々に『浄霊の奇跡』をかけました。
私はそこで意識が無くなり・・・気が付いたら
この姿でここに立ち尽くしていたのです」
「『浄霊の奇跡』は一時的に霊魂を縛る魔法だとアステラ様から聞きました。
『拘束』の魔法の変形だそうです」
「私も合点がゆきました。私たち5人がなぜ『浄霊の奇跡』を
受けたのにさまよっているのか、ずっと不思議でした」
「あちらの4人の騎士は、目覚めた時にはもうあの状態だったのですか?」
「はい。最初は名前を呼ぶと顔をこちらに向けたりしましたが・・・。
・・・今では、もう何の反応もありません。
ずっと同じ行動を繰り返しているだけです。
彼らはまだ戦っている最中なのでしょう」
・・・多分、戦いの記憶を無限に再生し続けているのだろう。
幸太郎は悲しくなった。
(C)雨男 2021/11/07 ALL RIGHTS RESERVED




