薬を作りたい
薬を作りたいという、幸太郎の用事は後回しになった。
モコとエンリイが『ロイコークたちの最期』、そして
『幸太郎の解説』をマシンガンのように話し続けている。
得意の絶頂だ。
その間にチワがまたも幸太郎をよじ登り、肩車の位置に
収まっている。
(いやいや、モコさん、エンリイさん。
俺、そんなカッコいいポーズは、してなかったはずなんですけど・・・)
2人は止まらない。もちろん、幸太郎の能力など、
全部が全部話しているわけでない。ちゃんとセーブしている。
レオはまだ幸太郎が今一つ気に入らないので、ちょっと離れて
聞いていた。しかし、段々顔が青ざめる。
(姉ちゃんの夫になった奴は・・・イカレてやがるっ!!)
小狼族の村人たちが、結局ほとんど集まって話を聞いている。
さらに、いつの間にかクロブー長老やバーバ・ヤーガまで来ていた。
ドライアードたちが空間転移で拉致してきたのだろう。
およそ2時間も、モコとエンリイはしゃべり続けた。
そして、正午くらいになったので、幸太郎が
『そろそろ薬の話を』と切り上げた。
みんなで昼食をとりながら、幸太郎が薬の話を切り出す。
「・・・と、いうわけでして。私の『陽光の癒し』だけで
治療すると効果が大きすぎるんです。
どれほど重傷だろうと、なんでも完治してしまう。
完治以外の結果にはならないんです。
そこで、『良く効く薬を併用してるから』という言い訳を考えました」
バーバ・ヤーガがパンをかじりながら答えた。
「言われてみれば、確かにのう。小僧の『陽光の癒し』は
なんでもかんでも『完治』させてしまう。
教会の『治癒の奇跡』を使う奴らから比べると、
完全に常識外れじゃ。町のヒーラーや医者などでも、
『大回復魔法』まで使える者も稀・・・。
魔法だけでは目立って仕方がないじゃろう」
「そこで、飲み薬としてヨモギとドクダミの粉末を小麦粉で
固めたものと、モコお薦めの火傷の薬『ガマガマ・フロッグの油』、
あとは蜜蝋を使って『軟膏』を作ろうと思って森へ帰ってきたんです」
ジュリアが胸を叩く。
「ヨモギ、ドクダミは任せるがよい!」
ポメラは少し困った顔をした。
「『ガマガマ・フロッグの油』はホーンズ山脈そばの池まで
捕りに行く必要があるわね。それと、油に『イエローアロエ』の
搾り汁を加えないといけないわ」
バーバ・ヤーガがニヤリと笑った。
「小僧、『軟膏』なら任せよ。かつてローゼンラント王国という国があった。
そこには大地の精霊を祀る『オロナ』という寺院があってのう。
その寺院が作る薬はどれも非常に優秀じゃった。あたしの作る
ポーションやマジックポーションもその寺院から作り方を学んだのじゃよ。
中でも『軟膏』は絶品での。
『オロナ院の軟膏』と言えば、なんにでも効くと言われたものじゃ。
まあ・・・今ではローゼンラント王国も無くなり、製法を知る人も消えた。
ただし、あたしと、エリザベーテの2人を除いて、じゃ。
小僧に作ってやろう。モーリー様、手を貸していただけますか?」
「うむ、もちろんじゃ。何やら腕が鳴るのう、ほっほっほ」
昼食後。ヨモギとドクダミの丸薬は、あっという間に終わった。
ジュリアが手をかざすだけで、ヨモギも、ドクダミも、
もりもり生えてくる。さらにジュリアが指を振ると、
全て空中へ引き抜かれ、乾燥、粉末になった。
大量の粉末を壺に収め、小麦粉で丸薬にするのは
小狼族の村人が請け負ってくれた。
ヨモギ、ドクダミの粉末に小麦粉、それに塩と砂糖を少し入れ、
水を加えて練り合わせる。まあ、内容はほとんど小麦粉だ。
しかし、ヨモギとドクダミの匂いのせいで
『いかにも薬』といった感じになる。これを丸めて固めるのだ。
特に子供たちが面白がって作ってくれた。
大きさがマチマチなのが実にいい。
幸太郎が子供たちを褒めると、大喜びしてくれた。
次は火傷の薬。『イエローアロエ』は南方の植物らしいが、
ドライアードたちには『そんなこと関係ねえ』のだ。
シンリンが空間転移で取ってきて、村に植える。
そして、ジュリアが手をかざすと、やっぱり、もりもり増えてゆく。
モーリーが指を振ると、アロエの皮が剥ける。
シンリンが指を振ると、果肉が集まり、大量の搾り汁がとれた。
ちょっと、手持ちの壺や鍋が足りなくなってきたので、
空間転移であちこちの村で壺や鍋を買い集める。
ついでに蜜蝋も買えるだけ買ってきた。
さらに『修行』の時に備えて、テントなどもついでに購入。
「では、ガマガマ・フロッグの前に、軟膏の材料をお願いします」
バーバ・ヤーガがドライアードたちに頼んだ。
薬草、油、蜜蝋など16種類の材料が必要なのだが、
最も入手困難なのが『ハオマ草』という希少植物。
しかし。
それは『人間には入手が難しい』という意味でしかない。
以前、モーリーの管轄エリアで見かけたという、
バーバ・ヤーガの証言にしたがい、モーリーが探知を開始。
モーリーのアホ毛が『みゅいーん、みゅいーん』と旋回する。
「む! 見つけたぞ!」
モーリーは一瞬で消えて、一瞬で戻ってきた。それを村に植える。
「ほう? なるほど、この『ハオマ草』は生えにくい植物じゃのう」
だが、ドライアードたちには関係ないのだ。3人のドライアードたちが
手をかざすと、やっぱり、もりもり生えてくる。
希少植物だろうが、植生域だろうが、問題にならない。
森の中ではなんでもアリだ。
あっという間に材料が揃ったバーバ・ヤーガは、モーリーと共に
いったん自分の店へ戻った。ドライアードの協力があれば、
すぐに完成するらしい。
(C)雨男 2023/10/19 ALL RIGHTS RESERVED




