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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ
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必ずやって来る


 帰りはギブルスの店には寄らずに町を出る。



もう、依頼をする前と違って、誰が注目しているかわからない。





「どう? 幸太郎サン。ボクの役目はしっかり果たせたかな?」





「上出来だよ、エンリイ。お見事。


それにC級のギルドカードの信用は大したものだな。


騎士爵か、男爵並みってのも頷ける」





「3人で練習したかいがあったわね」





モコが笑った。昨日の夜から、3人でギルドでのやり取りを想定して



練習を繰り返していたのだ。





「ご主人様、これでロイコークどもは


『堀は無くなった』ってことですよね?」





「うん。カーレの冒険者ギルドだけなら、もたもたと話が進まない


可能性があるけど、ユタのギルドで『受理』されちゃったからね。


おまけに依頼人がファルネーゼ様で、B級冒険者の


ジャンジャックとグレゴリオ殿の証言付き。


話の信ぴょう性はロイコークたちには覆しようがないさ。


おまけに金貨が合計で300枚・・・。


目をギラギラさせてる奴は大勢いるだろう」





モコとエンリイは感心する。『よくも、ここまで計算できるものだ』と。



2人はアルカ大森林での『ロイコーク対策会議』を思い出す。








「なるほど、小僧、いい案じゃ。


ロイコークたちの首に賞金を懸けるというのは」





バーバ・ヤーガがうなずく。





「いくら奴らの能力が飛びぬけていても、大勢から四六時中狙われては


たまったものではなかろうて」





「いいえ、バーバ・ヤーガさん。賞金を懸けるのは、


奴らを追い込むための網のようなものなんです。


『堀を埋める』って感じでしょうか」





「な、なんじゃと? それはどういう・・・」





ギブルスとイネスが『なるほど』とハモって笑った。





「ええい! お前たちばかりわかった気になりおって! 


あたしにもわかるように説明せんか」





ギブルスとイネスが顔を見合わせた後、イネスが説明を始めた。





「あのねバーバ・ヤーガ。幸太郎様は自分でロイコークたちを


殺すつもりなのよ。順番に流れを説明するわね。


まず、ユタとカーレの冒険者ギルドでロイコークたちに賞金をかける。


カーレの冒険者ギルドでは受理されない可能性の方が高いわ。


一応、組合員なのですから。


ところが、同時にユタの冒険者ギルドに


ファルネーゼ様の名前で依頼を出す・・・するとどうなるか?


クロブー長老ら、北部評議会からユタの新領主へ、


そして冒険者ギルドへと、極めて信用度の高いルートで話が伝わるの。


そこへ、自分たちの組合員であるB級冒険者の


ジャンジャックさんとグレゴリオさんの証言が加わるわ。


『命を狙われた。ダンジョン破壊の邪魔をされた』って。


ユタの冒険者ギルドは怒るでしょう。


冒険者ギルドは基本的に何事にも中立よね。冒険者同士も、


『加勢もしないが、邪魔もしない』という暗黙のルールがあるわ。


そうでなければ成り立たない仕事ですもの。


次にユタの冒険者ギルドから、カーレの冒険者ギルドへ念話が入る。


こうなると、もうカーレの冒険者ギルドも賞金の話を無視できないわ。


『話の信ぴょう性』はユタの冒険者ギルドが証明してくれたわけだしね。


おまけに内容としてはカーレの冒険者ギルドがユタの冒険者ギルドへ


ケンカを売ったも同然・・・。


カーレの冒険者ギルドも、ロイコークたちを庇いきれなくなるわ。


むしろ、彼らの首を差し出して事態を収めたいとすら思うでしょう」





ギブルスが後を継いだ。





「冒険者ギルドという後ろ盾が無くなったロイコークたちはどうするか?


奴らは『B級冒険者の信用に寄生する』ことを繰り返しておった。


つまり、奴ら自身は特にこれと言った、強い後ろ盾をもっておらん。


人を見下す行動ばかりじゃから、友達もいないじゃろう。


残るのは何か? そう、『聖堂騎士団』だけじゃな。


ギルドが敵になったら、教会へ駆け込むしかない。


一応奴らは『聖騎士』の身分があるらしいからのう。


まあ、奴らは『誤解だ!』と言って、言い訳を繰り返すじゃろうな。


どんな言い訳をするかは知らん。別に興味も無いわい。


じゃが、最終的には『聖騎士の名誉にかけて、誤解を解いてくる』


と言って、町を出る。


そしてアルカ大森林へ行くと見せかけて・・・モーラルカ小国群へ


逃げ出すじゃろうのう。『寄り道』をしてからな。ひっひっひ」





もう一度、イネスが続きを引き受ける。





「もちろん、損得の計算で言えば、


そのまま一目散に逃げだすのが正解ね。とにかく一直線に。


でもね、バーバ・ヤーガ。彼らにそれは『できない』の。


バスキーさんが聞いた通りならば、彼らは幸太郎様を『弟分』と呼び、


勝手に『裏切者』扱いしているわ。


その『裏切者』が、自分たちをこんな窮地に追い込んだと知ったら


・・・絶対に許しておけないわね?


あらゆる利害損得をかなぐり捨てて、幸太郎様を殺しに必ずやってくる。


それが『一番気分がいい』からよ。


彼らにとって幸太郎様を殺すことは、この世のあらゆる事より


『やりたくて仕方ない』と感じてしまうの。


この『奇妙な価値感』が、ロイコークたちに賞金がかけられることで、


心の中に植え付けられてしまうのよ。


でも、彼らは自分が操られているとは最後まで気が付かないでしょう。


まずは『依頼人の誤解も解いておく』とか言って、


幸太郎様の居場所を探り、例えば幸太郎様が


ピートス川の川辺にいる、と聞けば、


モーラルカ小国群と逆方向でも追いかけてくるわ。


幸太郎様が罠を、準備万端用意している場所に、ね」





ギブルスが笑いながら、さらにもう一度、後を繋ぐ。





「ひっひっひ、ロイコークたちは、その奇妙な自尊心と性格ゆえに


絶対に逃げられないのじゃよ。


自分で他の選択肢を潰し、自分から喜んで罠へ飛び込んで来る。


自慢の能力で幸太郎を殺すことが、何より『痛快』なのじゃよ。


幸太郎が冒険者ギルドへ賞金首の依頼を出した瞬間から、


奴らの行動は操られるわけじゃ。死ぬ所までな」





最後は幸太郎が付け加えた。





「いや、もちろん、冒険者が彼らを討ち取ってくれたら、


それはそれで助かりますけどね」





「・・・まったく・・・とんでもないことを考える小僧じゃわ・・・」





バーバ・ヤーガはあきれた。ドライアードたちもあきれている。



もちろん、モコ、エンリイ、ファルネーゼ、



バスキーやポメラ、クロブー長老やジャンジャックとグレゴリオ、



ガーラたち護衛のメンバーも同様だ。





『この3人、すごいな・・・』全員が舌を巻いた。





そして、さらに幸太郎が『ロイコークの殺し方』を話すと、



全員がもう一度あきれた。



バーバ・ヤーガが溜息をつきながら言った。





「まったく、本当にとんでもない小僧じゃわ・・・。


じゃが、確かにあたしらの出番は無い


・・・というか、むしろ邪魔じゃの」










(C)雨男 2023/08/30 ALL RIGHTS RESERVED






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