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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ
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全力疾走


幸太郎が歩いていると、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。





(・・・ような気がするとは・・・。


そんなに俺はモコもエンリイも好きだったのか・・・。


はぁ・・・我ながら、なんと未練がましい・・・)





基本的に男は女よりも圧倒的に未練がましい生き物である。



幸太郎がくよくよと首を振っていると、



すぐ近くで本当に声が聞こえてきた。





(モコ!? エンリイ!?・・・なんで???)





幸太郎は嬉しさで胸が高鳴った。が、すぐに自戒する。



振り返るとモコとエンリイが走ってくる姿が見えた。手を振っている。



幸太郎はすぐ自分を殺し、冷たい演技を開始した。





「・・・どうした? 何か忘れ物か・・・?」





「ご主人様! 私たち、やっぱり・・・」





幸太郎はすぐにそれを遮る。





「俺はもう、モコの主人ではない。首輪は無いのだから・・・」





しかし、今度はモコがそれを遮る。





「いいえ!! ご主人様は、私のご主人様です!! 


これは私の意志です! 首輪なんか関係ありません!」





「幸太郎サン! ボクたちコンビを組んだんだ! 


これからはモコと2人で勝手に幸太郎サンについていく! 


勝手に幸太郎サンを助けて、勝手に同じ宿に泊まる! 


幸太郎サンが拒否したって・・・ついていくから!」





幸太郎は2人の勢いに圧倒された。言葉が出ない。



言葉が出ないので、幸太郎は軽く手を挙げて『待った』をかけた。





(ま・・・まあ、こ、こんなことだって・・・そりゃ・・・


ある・・・かもとは、思っていたさ・・・。うん、もちろん・・・)





幸太郎の決意がもう揺らぎだしている。なさけねー。



幸太郎は2人の言葉に待ったをかけた後、大きく息を吸い込むと、



カーレ方向へ全力で走り出した。





(こんな可能性も・・・考えていなかったわけじゃない!)








幸太郎は全力疾走した。モコとエンリイを振り切ろうというのだ。



もちろん、モコの足が速いのは知っている。





(しかし! 単純な直線でのスピードなら俺だって! 


こう見えても高校の時の100メートル走は13・8秒! 


速い方だったんだ!


『水泳部の海坊主』と呼ばれた実力を見せてやる!)





微妙にズレた根拠をもとに、幸太郎は走る。



もちろん、陸上競技場のトラックのように整地もされていないし、



そもそも起伏どころか舗装もされていない。



靴だってスニーカーにも劣るだろう。



それでも男と女の身体能力の差を・・・と幸太郎は計算したのだ。








しかし、現実は非情だ。








ついっとモコが幸太郎の前に出た。フツーに前に出た。



そして、モコは幸太郎の前で『バック走』を始めたのだ。



さらに、その豊かな胸の前で両手を組んで、せつせつと語りだした。





「ご主人様が、私たちの身を案じて、このような行動に出たのは


充分承知しています・・・。


正直・・・それは嬉しい事でもあります・・・。でも・・・」





そして、エンリイも幸太郎の横に並んだ。



それも頭の後ろで手を組み、微笑みを浮かべ、



スキップぎみのカニ走りで、だ。



コンパスの差か? コンパスの差なのか?!





幸太郎はまるで自分だけ『ルームランナー』の上で



ジタバタ走ってるような錯覚に陥った。



モコとエンリイは、それほどまでに余裕で幸太郎の



全力疾走についてくるのだ。





(え??? 嘘だろっ??? 速いったって、ここまで???)





モコとエンリイの恐るべき身体能力。何しろ、街道とはいえ、



起伏も小石もある。舗装すらない。



それでも(一応)男の全力疾走に軽々と余裕でついてくる。



モコのバック走にいたっては、まるで『ムーンウォーク』のように滑らかだ。



小石も起伏も全くモコの走りを妨げることはできない。



その上、フツーに喋っているのだ。





幸太郎は30秒ほど走ったところで、走るのは止めた。



幸太郎はゼイゼイと荒い息をして、汗をかいている。



モコとエンリイは・・・涼しい顔だ。体力も違いすぎる。





「あ、あの・・・ご主人様・・・」





幸太郎は再び片手をあげて『待った』をかける。





(ま・・・まあ・・・知ってたさ。うん、速いよな、ああ速い。


計算通りだよ、知ってた知ってた・・・)





幸太郎は自分へ精いっぱいの言い訳をした。



しかし、丸っきり計算違いというわけでもない。



かなりプライドは傷ついたが。





(まあ、こんなケースも、少しは、ちょっとは考えていたからね)





幸太郎は新技を出すことにした。ゴーストを6体召喚する。



そして、ゴースト3体で片足を持ってもらう。



右足に3体。左足にも3体。



これで地上20センチくらいに浮く。そして、今度は文字通り



地面の上を滑りだした。





「ふはははっ、ごほっ、ごほっ、こ、これぞ新技、ハァハァ、


『ゴーストブーツ』なりい!」





幸太郎は汗だくで、息も切れ切れ。まあ、全力疾走すれば誰でもそうだろう。





(これはダンジョンでグレゴリオ殿が『ゴーストで飛べないか?』と


提案したことにヒントを得て作った技! 


すでに馬に乗る時に『ゴーストステップ』をやったことがあるから


可能なことはわかっていたからな! 


飛ぶのは止めた方がいいのは室内実験でわかったが、


こっちは充分『実用』レベルだ!)





幸太郎は夜に樹木の家の中で実験している。



『飛ぶ』のは危険だった。



ゴーストはビールケースくらいの重さを持てるが、



『出力』がまちまちで安定しないのだ。



どうしても前後、左右、上下にグラつく。危険だ。



一方、地面すれすれなら高さが20~5センチくらいで上下するが、



割と安定した。





(おおおおお! 実際に全力で走るのは初めてだが、これ速いぞ!


トップスピードはおそらく100メートル走なら、


12秒・・・いや、11秒台までいってるかもしれない! 


明らかに自分の全力疾走より、圧倒的に速いっ!)










(C)雨男 2023/07/31 ALL RIGHTS RESERVED






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