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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーと城塞都市カーレ
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少女だった時代の終わり


 泣き続けるモコにポメラが声をかけた。





「・・・わかってあげなさい・・・。幸太郎さんはモコの身を案じて、


つらい決断をしたのよ・・・」





モコは何か言いかけたが、涙しか出なかった。





つらい沈黙がその場を支配した。ドライアードたちですら、



困惑した表情を浮かべ、言葉が出ない。



何を言っていいのか、わからない。





その状態が何分続いただろう。しびれを切らした者がいた。





『モコおねーちゃん! 行けよ!』





それは幸太郎とモコが救出した子供たちだった。





「行けよ! 幸太郎お兄ちゃん、いっちゃうぞ!」





「そうだ! ついて行かなきゃだめだ!」





「こんなの男らしくないもん!」女だよ





男の子たちがモコの手を引っ張った。女の子たちがモコの背中や腰を押す。





「モコおねーちゃん、行かないと、きっと後悔するよ!」





「幸太郎お兄ちゃん、きっと本当は来て欲しいんだよ!


あたし、わかるもん!」





チワもモコの腰を押す。





「幸太郎お兄ちゃんを1人で行かせちゃだめだよ!


お兄ちゃん、ほんとうはモコお姉ちゃんのこと、大好きなんだよ!」





モコはうろたえた。どうしていいのかわからない。



『でも、でも・・・』と繰り返すだけ。





エンリイがモコの真横まで来て、強く言った。エンリイの目には



決意が宿っている。





「行こう! ボクとモコで幸太郎サンを追いかけよう! 


拒否されたっていいんだ! 2人で勝手にそばにいて、


2人で勝手に同じ町にいて、2人で勝手に幸太郎サンの手助けをしよう!


幸太郎サンが勝手にするなら、ボクたちも勝手にしよう!


モコ、ボクとコンビを組もう! 2人で幸太郎サンを


振り向かせてやるんだ!」





モコはまだ困惑した表情をしている。そこへ今度はモコの正面に



立ちふさがる様に出てきた者がいた。弟のレオだ。



レオは幸太郎が消えた方向を指さして言った。





「姉ちゃん! 行けよ! 行って、あいつをぶん殴ってやれ!


・・・本当は、嫌だけど・・・姉ちゃんは行かなきゃだめだ。


俺・・・あいつ嫌いだ。あ・・・あいつは姉ちゃんを連れて行く


嫌な奴だって、思ってた・・・。今でもそうだけど・・・。


ずっと『1人でどこへでも行っちまえ』って・・・最初から思ってた。


でも・・・でも、本当に1人で行くのを見たら・・・


ムカつくんだよ!! 腹が立つんだよ!! 


姉ちゃんのいったいどこが不満だっていうんだ!!


姉ちゃんを置いていくなんて・・・絶対、絶対、絶対許せねえ!!」





モコは少し俯いた後、顔をあげてうなずいた。もう涙は無い。



モコは決意のこもった目でバスキーとポメラを見た。





「お父さん、お母さん、私・・・やっぱり行ってきます!」





ポメラは微笑んでモコを抱きしめた。





「幸太郎さんはね・・・モコのこと、本当は好きなのよ。


だから、幸太郎さんのしたことは許してあげなさい。


あなたのことを心配しているからこそ、


あなたをここへ置いて行こうとしたの」





「はい・・・。それは私が一番よくわかってます」





「あなたは今日、大人になったわ。あなたの少女だった時代は、


今、終わりを告げたの」





「え? お母さん、私、成人は2年も前に・・・」





「ううん、そうじゃないの。男って生き物はね、


自分勝手で、いっつもわがままばっかり言ってるの。


その男のわがままを笑って許してあげるのが『大人の女』なのよ。


そして・・・その上でなお、凛々しく自分の意見を言えるのが


『いい女』ってものなのよ」





「うん・・・はい!」





モコはバスキーを見た。



しかし、バスキーは無表情でモコから目をそらし、歩き出す。



そして、先程幸太郎が捨てた『隷属の首輪』を拾って戻ってきた。



バスキーは手の中の壊れた首輪を見ながら、ゆっくりと



モコへ向かって話し出した。





「首輪を外せるというのは聞いていたが・・・本当に壊せるんだな・・・。


しかも、こうも簡単にあっさりと・・・。


実際にこの目で見ると驚愕の一言に尽きる・・・。


幸太郎君は・・・本当に不思議な男だな・・・。


年のころはモコと大して変わらないはずなのに・・・。


さっき、歩み去る幸太郎君の背中が・・・泣いていたんだ・・・。


俺は初めて見た、あの年ごろで『背中で泣ける』男を・・・。


ただ者じゃない・・・。


幸太郎君は・・・本当にモコのことが好きだったんだな・・・」





バスキーは小さく溜息をついた。





「実はな、モコ、俺と母さんはとっくに気付いていたんだ。


幸太郎君がモコを置いていくつもりだということを。


モコの背負っている、そのリュック・・・。幸太郎君は一言たりとも


『マジックボックス』に入れようと言わなかっただろう?


だからさっき黙っていたんだよ。


わかっていたからな。決意は固い、と。


それに・・・男が背中で泣いてまで自分を殺しているのに・・・


大人の男がそこまでしているのに、


口出しするのは無粋というものだ・・・」





ここでバスキーは『グシャッ』と首輪を握りつぶした。凄まじい握力。



そして、邪悪な笑みを浮かべて続けた。





「・・・と、さっきまでは思っていたんだがなぁ~~。


やっぱり俺の自慢の娘を泣かせておいて


『はい、さようなら』ってのはメチャ許せんよなぁ~~~あ。


知ってはいたが、いざ実際にそうなったら、やっぱり腹が立つ!


まったく笑える話だ。モコがユタから帰ってきた日は、


母さんと2人であれだけ反対して・・・


モコに首輪を盾に押し切られた話が・・・


今ではすっかり『賛成派』ときたもんだ。


我ながら笑える話だよ。手のひら返しだ。


・・・さあ、行け! 捕まえろ、逃がすな!


食らいついたら放さない白狼族の力と、地の果てまでも追跡する


小狼族の力、幸太郎君に思い知らせてやれ!」





「はいっ!」





モコは笑顔になった。涙はもう過去になった。





「エンリイさん、モコをお願いね。あなたはもう、私の義理の娘も


同然なんだから、何かあったら遠慮なく頼ってね」





「はい! ありがとうございます」





エンリイも笑顔になっている。





「お前たちの足なら数分で幸太郎君に追いつくだろう。


びっくりさせてやれ」





バスキーがニカッと笑う。モコとエンリイは改めて



みんなとの別れの挨拶をした。



さっきと違って、もう悲しくはない。もう悲しくはない!



ここにいる全員が笑顔だ。





「「行ってきます!!」」





モコとエンリイは幸太郎の消えた街道を走り出した。








もう、迷いはない。そんなものいらない。










(C)雨男 2023/07/27 ALL RIGHTS RESERVED






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