反撃 3
幸太郎はジグザグに進むつもりだが、
ナイトメアの『岩弾』のコントロールが良くて、なかなか進めない。
さっきから左右に走ってるだけで、全然接近できてない。
ナイトメアがニヤリと笑った。幸太郎が思うように接近できないのが
はっきりわかったからだ。
だが、これでも幸太郎のシナリオは崩れない。もう修正済みで、
今は都合のいい状況を待っているだけだ。
そして、その待っている状況はすぐにやってきた。
幸太郎がナイトメアに向かって右手の方、要は左手のラウンドシールドが
ナイトメアに向いてる状態で走っている時、背中に『岩弾』が当たった。
アルカ・ヤママユガのマントがまた破れる音がする。
幸太郎は『ここだ』と思った。
「うぐっ!」
幸太郎は叫んだ。そして、右手のショートスピアを落とした。
幸太郎がよろける。
「幸太郎殿!!」
グレゴリオが心配そうに叫んだ。
幸太郎はラウンドシールドで顔を隠しながら、
目でグレゴリオに『来るな』と合図した。
幸太郎がショートスピアを落としたのを見たナイトメアは、
目を細めてニタリと笑った。『いいのが入った』と思ったのだろう。
しかし、これは幸太郎のシナリオの内。
幸太郎は『あえて』ショートスピアを落として見せたのだ。
幸太郎はラウンドシールドと自分の体で右手を隠しながら、
『マジックボックス』を開き、『水鉄砲』を取り出した。
そして、ラウンドシールドの陰からいきなり
ナイトメアの顔を目掛けて『殺虫剤』を発射した。
水鉄砲はエドガン、ヒガンの自信作の上、
バーバ・ヤーガが魔法を付与した、いわば『魔導兵器』だ。
『殺虫剤』は超高速で一直線に飛び、
にやついたナイトメアの顔に直撃した。
『殺虫剤』はナイトメアの目に入り、鼻に入り、口にも入った。
「うっ!? いぎああああああ!!」
ナイトメアは幸太郎に騙されたのだ。
ショートスピアを見せ、走ったことでナイトメアに射程を誤解させた。
ジグザグに走り出し、前に進めなくなったことで
ナイトメアに『ピンチは切り抜けた』と誤解させた。
あえて頭の怪我を治さないことで『魔法の使用回数の上限が近い』、
『岩弾のダメージは無意味でない』と誤解させた。
そして、『岩弾』が背中に当たり、よろめき、
ショートスピアを落としたことで『勝利が近づいた』と誤解させた。
だが、幸太郎の本当の狙いは秘密兵器の『水鉄砲』だ。
遠距離からいきなり撃っても当たらないか、防がれるかもしれない。
しかし、接近し、相手の意識から飛び道具を遠ざけ、『不意打ち』した。
その上、例えナイトメアが水鉄砲を知っていたとしても、
こんなバカげた超高速で飛んでくる水鉄砲など見たことがないだろう。
ナイトメアはせき込み、苦しんだ。目を開けていられないのだろう。
せき込みながら必死に目を拭っている。
再び幸太郎はナイトメア目掛けて走り出した。ここしかない。
勝機は唯一、ここだけなのだ。
ナイトメアは目を押さえ、よく見えないのだろうが、
自分に『洗浄』と回復魔法を複数かけ、
同時に魔法障壁を十数枚展開、『魔法の泡』も7重に発生させた。
そしてよく見えないながらも『岩弾』を幸太郎へ向けて撃つ。
さらに最初に使った『恐怖の放射』も同時に行った。
しかも、狙いは正確ではないが、幸太郎1人に的を絞ったのだ。
『岩弾』はなんとか躱し、盾で防ぐ。
木製のラウンドシールドのどこかが割れた音がする。
しかしナイトメアの放った『恐怖』は幸太郎に直撃した。
無論、人間にこれを躱す方法など存在しないのだ。
幸太郎の視界が歪む。
『状態異常無効』・・・いや、『太陽神の加護』があるにも関わらず、
幸太郎は強い船酔いのような状態になり、耐えきれずに嘔吐した。
体の前面が吐しゃ物まみれになる。
だが、幸太郎は歯を食いしばった。
涙を流し、ゲロまみれという姿。顔も青ざめ、滝のような汗。
なんと醜く、無様な姿だろう。
お世辞にもカッコいいなどと言えない。それでも幸太郎は倒れない。
必死によろつきながらもナイトメアへ走り出した。
(失神してなきゃ上等!!)
幸太郎はこれを『読んでいた』から倒れない。
最初に『恐怖の放射』をナイトメアが行った時、
幸太郎とグレゴリオが失神しなかった。
望む結果にならなかったにも拘わらず、
ナイトメアは『恐怖の放射』を再度使用しなかった。
使えるなら、幸太郎たちが倒れるまで、何度でも撃ち込めばいいのだ。
だが、『使わない』・・・何故か?
幸太郎は『その能力を使うには、何か重い制約、
または代償が必要』と推測したのだ。つまり・・・
『もし、再度使うとすれば、それは追い込まれた時だけ』
である、と。幸太郎の推測は当たった。
幸太郎の賢力がナイトメアを上回ったのだ。
幸太郎は走り出すと同時に自分へ『陽光の癒し』をかける。
さらに『破魔の陽光』も同時に発動。ナイトメアの『魔法の泡』と
魔法障壁は再び消滅した。
だが、同時に『岩弾』で幸太郎もラウンドシールドが破壊された。
流血の中、幸太郎は『マジックボックス』へ水鉄砲を入れると、
同時に取り出したのはスピアだ。
幸太郎は走る勢いをそのまま載せて、
ナイトメアの左目に思い切りスピアを突き刺す!
そしてスピアを両手で、梃子を使ってかき回すように
『グリリ』と一回転させ、左目の眼球ごと乱暴に引き抜いたのだ。
ナイトメアの悲鳴が部屋中に響き渡った。
幸太郎がスピアを引き抜くと、
ナイトメアの左目から大量の血が噴き出し始めた。
すかさず幸太郎は『鑑定』する。
(・・・やった! ナイトメアのHPはゼロになった!
致命傷だ!! 間違いない! 致命傷だ!)
しかし幸太郎は念のためグレゴリオの方へ急いで引き返す。
モコを助ける時に『致命傷だが、まだ絶命していない』相手に
痛い目にあわされた経験が幸太郎を慎重にさせた。
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