全滅
『!!』
開かれたナイトメアの目を見た瞬間、
全員が危険を感じ、ただならぬ相手であることを理解した。
そして、全員が即座に行動に移った。
「目覚めよ! 『大鉄人』!!」
「『ラピッド・スピード』ッ!!」
「『分身の術』っ!!」
ジャンジャックは『マジックボックス』からジャベリンを取り出した。
『オーラスマッシュ』を使う気なのだ。
幸太郎はほんの一瞬、『逃げよう』と言うべきか迷ったが、
スケルトンの追加を召喚することにした。
幸太郎はジャンジャックの『オーラスマッシュ』に期待したのだ。
『オーラスマッシュ』の威力は折り紙付きだ。
コープス・ルーラーとの戦いでも火炎魔法を吹き飛ばし、
死体の頭を破裂させ、魔法障壁までもあっけなく叩き割り、
コープス・ルーラーを粉々にし、壁を破壊して突き刺さった。
今、ナイトメアはなんの対応策も出来てない。なんの準備も無い。
『不意打ち』としては最高の形ではないだろうか?
いくら悪魔でも、『オーラスマッシュ』が直撃したら
木っ端微塵になるだろう。そう、鑑定結果でも
ナイトメアのHPはたったの『5』だ。当たればひとたまりもないはず。
だが、幸太郎は見落としている。
ナイトメアのHPは『たったの5』・・・。
半実体でもない。現状、なんの用意もしていない。
しかし、ナイトメアはニタニタと気味の悪い笑みを浮かべたまま。
つまり、後手に回ったとしても、
『攻撃など届くわけがない』と言ってるに等しい。
当たればひとたまりもないだろう。
だが、それは『当たれば』の話だ。
幸太郎も冷静さを欠いていた。
いや、人である以上、無理もない事か。
「おや?『オーラスマッシュ』ですか?」
ナイトメアが『クックック』と笑った。
「くらえっ!」
ジャンジャックが『オーラスマッシュ』を乗せたジャベリンを
ナイトメア目掛けて、渾身の力で放った。
しかし。
『魔法障壁』が展開された。
そう、一瞬で。幸太郎と同じ『無詠唱』だ。
そしてドライアードと同じく魔法の名称さえ口にしていない。
悪魔もその滅茶苦茶な魔力で、魔法を手足を動かすかのごとく扱える。
しかも魔法障壁はボス部屋の天井から床、左右の壁から壁、
部屋いっぱいの巨大なシャッターとなって出現したのだ。
コープス・ルーラーのものとは比較にさえならない。
それが・・・数十枚、も。
少なくとも50枚以上はあるだろう。とても数えきれない。
『オーラスマッシュ』を纏ったジャベリンは
次々に魔法障壁を破壊しながら進む。
だが、それも最初の内だけだ。
あっという間にジャベリンは勢いを失い、
力尽きて、『ガラン』と音を立て床に落ち、転がった。
「おお! すごい! 魔法障壁を9枚も破壊するなんて!
いや、お見事、お見事!」
ナイトメアは子供みたいな小さな手でパチパチと拍手した。
そして再びニタニタと気味の悪い笑みを浮かべて続けた。
「それがカース・ファントムを倒せた理由でしょうか?
・・・いや、違いますね。それではさすがに力不足・・・。
半実体のカース・ファントムを倒すには手数も必要ですからね。
威力は申し分ありませんが、それだけでは・・・。
そっちの大男くんはどうですか?
何か気の利いた攻撃方法は持ってないですか?」
ジャンジャックもグレゴリオも青ざめた顔をしている。
『オーラスマッシュ』を撃たれても、
ナイトメアは死なないどころか、まるで脅威に感じていない。
未だかつて、こんな敵には出会ったことがないのだ。
「ジャンジャック、逃げよう!!」
幸太郎が叫んだ。もう、到底倒せるような相手ではない。そう判断した。
幸太郎も冷静さを欠いているが、
それでも『こいつが全滅の原因』だとは言わない。
相手に情報を与えないに越したことはないのだ。
「わかった! みんな、『逃げるぞ』!」
『逃げるぞ』は『離脱の杖』を使う合図だ。
ジャンジャックが『マジックボックス』のゲートを開き、手を突っ込む。
ジャンジャックが『離脱』と唱え、
魔法が発動するまでに3秒ほどかかる。
その間、3秒は何が何でも耐える必要がある。
だが、何度も練習はしているし、今朝も30分ほどみっちり手順は確認した。
この場合のフォーメーションはジャンジャックを中心に
十字の隊列を組む。グレゴリオがタワーシールドを構えて
ジャンジャックの前に。モコとエンリイはジャンジャックの左右を。
そして幸太郎がジャンジャックの後ろで石化や麻痺、
怪我の治療を担当する。エンリイの分身と、
幸太郎が召還したスケルトンは
グレゴリオの横で『鶴翼の陣』のように展開。
敵を倒すのではなく、純粋に敵の足止めと時間稼ぎだけの隊列だ。
そして、分身とスケルトンはもちろん『置いていく』前提でいる。
どちらも『解除』すれば消える。分身は髪の毛に戻るだけだし、
スケルトンも溶けるように消えて何も残らない。
これで『3秒』の時間が稼げないはずがない。
たった『3秒』が。
・・・そのはずだった。これは誰も予想できなかった。
(C)雨男 2023/04/15 ALL RIGHTS RESERVED




