次期国王
運命の歯車は軋み、狂いだした。
国王がコルトの破廉恥ぶりを見逃してやっていたのは、
ひとえにカイルがいたからだった。
カイルが次期国王になりさえすれば、万事問題なかった。エミールもカイルを
補佐するだろう。どうしてもコルトが邪魔になればどこかの領地に幽閉して
酒と女だけ与えておけばいい。国王はそう考えていたからこそ、
コルトが私生児を6人も作っても処分はしなかったのだ。
だが、次期国王はこれでコルトになった。
エミールは即座にコルトを支えると明言した。
自分を次期国王に推す声が出るのは確実だったからだ。
エミールはうぬぼれてはいなかったが、
状況が全く見えない馬鹿でもなかった。
王位継承の争いに巻き込まれるわけにはいかない。
マーガレットを守らねばならなかったからだ。
エミールは今までより一層、村や町の視察に出るようになった。
そして全てコルトに報告するようになった。コルトは報告に全く興味が
なさそうだったが、とにかくエミールはコルトを立てることに注力した。
『自分は王にならない』
エミールはそれを態度で示した。
順当にいけばコルトが王位に就く。
もし、コルトが自分をうとましく思うなら
地方領主のもとへ行き、隠居生活でもいいとエミールは考えていた。
だが、エミールは見誤っていた。コルトの愚かさと、
そして、貴族社会の愚かさを。
その年の年末近く。ついにその日はやってきた。
(C)雨男 2021/11/07 ALL RIGHTS RESERVED




