誰かいる
昼食の休憩の後、地下13階へ。
先ほどと同じく敵の出現頻度が多いだけで、特に対策に変更は無し。
だが、やはり全員に緊張感が漂っている。
あとは地下13階、地下14階、地下15階の3つしかないのだ。
文献によれば、出現したダンジョンは
1か月たつと成長を始めるとある。
その日数が正確である保証は無いが、
少なくともまだ成長は始まっていないはず。
ならば、このダンジョンは最深で地下15階まで。
だからこそ、占いの原因はもうすぐ現れることが確定している。
みんな移動中の口数が減ってきた。
百戦錬磨のジャンジャックとグレゴリオすら
何かを感じているのだろう。
そんな中、普通のドアが現れた。
「出たな・・・普通のドア。今までも『山盛りニードル・クラブ』とか
『偽ゴースト祭り・落とし穴を添えて』とか
ロクでもない内容だったが・・・」
「警戒したほうがいいな。モコに中の様子を聞いてもらってから
対策を立てようぜ。多分、例によってボス部屋はこの奥だろう」
ところが、モコの様子を見ると、驚いた表情で固まっている。
「・・・? どうした、モコ?」
モコは驚くべき返答をした。
「な・・・中に、誰か、います」
『!』 幸太郎は素早く『密室』を展開した。
「これは・・・おそらく、本のページを・・・めくる・・・音。
1人・・・です。だ、誰かは、わかり、ません・・・」
『誰かわからない』のは当たり前の話だが、
それほどまでにモコは驚き、混乱しているのだろう。
しかし、あながち無茶苦茶を言ってるわけではない。
地下13階のダンジョン深層に、いったい誰がいるというのだ?
しかも、たった『1人』・・・。
ここまで幸太郎たちは、幸太郎の負傷以外は、
まず無傷と言っていいほど順調に来ている。
しかし、やはりそれはパーティー全員の力の結果だ。
誰1人欠けても、ここまで到達できなかっただろう。
ジャンジャック1人でも、グレゴリオ1人でも、
もちろん幸太郎1人でもここまで来ることは不可能に近い。
「モコ、『ページをめくる音』だな? ・・・ならば、
普通に考えれば、おそらく机があり、椅子に座った
人物がいるということか。床にあぐらをかいてるとは思えない。
本を読むということは知性が高い人物だろう。
こんな所に1人でいて本が1冊だけということもないだろうから、
本棚もあるはずだ。照明もあるのだろう。
そして、知性が高いにも関わらず、こんな場所にいるということは
・・・人間じゃないな。普通の知性を持つ人間が、
こんな夜も昼も無い、太陽の光が無い場所で平気なはずがない。
ダンジョンは水も食料もないから、この人物は
人間と同じものは食べないということだろう。
仮に『マジックボックス』に用意していても、補給できないから
減る一方で、すぐに底をつく。人間なら平静を保てなくなってくる。
この人物は少なくとも、ダークエルフがダンジョン入り口の監視に付く前から
ここにいる計算になるはずだ。
それにも関わらず『本を読む』ほど落ち着いているなら、
この状態で当面、何も困らないという証明だ。
さて、どんな奴だと思う?」
「人間じゃない奴・・・知性が高い・・・
太陽が無くても構わないってんなら・・・
アンデッド系統じゃねえか?」
「ふむ。考えられるのは『吸血鬼』や『不死の王』・・・」
「前に出てきた『コープス・ルーラー』なんかも該当するよね」
「衣擦れの音がわずかに聞こえますから、
ちゃんとした服を着てると思われます」
「『不死の王』か・・・。伝説は俺も聞いたことがあるけど、
『リッチ』と同じ高位魔導士の成れの果てだよな?」
「そうだな。本当に『不死の王』だと滅茶苦茶厄介な相手だが、
逆に可能性としては低いと思うぜ?
こんな出来たてのダンジョンの小さな1つの部屋で、
たった1人、大人しく座っているようなところは想像できねえ。
住居にしたってもっと広い場所を選り取り見取りだろ。
別に日光があっても困るわけじゃねえし。
そもそも伝説級の存在だ。もう100年以上は目撃例はないはずだぜ」
全員が思った。『それもそうだな』
「じゃあ、可能性としては『吸血鬼』あたりってことかな?」
「断定は危険だとは思うが・・・ここは生きてるコカトリスがいたくらい、
有り得ないことが起きてるダンジョンだからな。
幸太郎殿、仮に吸血鬼だったら、どんな対策を立てるつもりだ?」
「そうだな・・・もし、吸血鬼だと仮定するなら、
逃がさず確実に仕留めておきたいから・・・」
幸太郎は、みんなにゴニョゴニョと作戦を話した。
「なんか、えげつない作戦だな・・・。
幸太郎が敵じゃなくて本当に良かったぜ」
「だが、それなら安全に倒せるな。それでいこう」
「ボクは演技に自信が無いから、セリフは言わないことにするよ」
「私はご主人様のシナリオには慣れてます。お任せください」
「まあ、もし吸血鬼だったら、の話だよ。まずは中に入ったらすぐに
鑑定する。本当に吸血鬼なら、俺が『悲鳴』を上げるから、
それを作戦開始の合図にしよう」
幸太郎は準備として、通路の左右を時計塔で念入りに封鎖した。
時計塔の組み合わせで天井まで通れなくする。
ここまで来れるのは偽ゴーストだけだろう。
偽ゴーストなら松明の火で叩けば倒せる。
(さて、中にいるのは吸血鬼なのか、
それとも『全滅』の原因なのか・・・。
まさに、開けてみてのお楽しみ、か)
(C)雨男 2023/01/20 ALL RIGHTS RESERVED




