全滅が近づいている 3日目終了
幸太郎は『魔石』の話を聞いて、
この世界の照明事情がちょっと理解できた。
(エルロー辺境伯の屋敷でも、基本的にはロウソクを使っていたし、
ジャンジャックもランプを使い、ダークエルフの宿屋でも
貸し出していたのはランプだった・・・。
つまり、『灯火』の魔法は短時間しか効果がないのだろう。
屋内の生活に使う照明は、まず『火』なんだ・・・。
ロウソクの方が安価で長時間使えるってことか。
逆に『灯火』の魔法は火事の心配が無いから、
屋外での使用が基本なんだな。簡単に言うなら
『乾電池が高価な懐中電灯』ってところか。
しかし、大雨でも強風でも安心して使えるだろう『灯火』の恩恵は
素晴らしいものがあるな。魔法ってすごいなぁ・・・。
元の地球の中世じゃこうはいかない。
しかし、逆に、これだと科学があんまり発達しないのも
わかる気がする・・・)
一長一短か。
幸太郎が焚火を2つにして、薪を積み上げる。
部屋の気温を上げるためだ。
寝る時に寒いと風邪をひく。治せるけど。
しかし、ここまでくると心理的な疲労の軽減にも注意するべきだろう。
『治せるからいい』というわけにはいかない。
幸太郎は、すでにモコがダンジョンに息苦しさを
感じていることに気が付いている。
今日で3日目が終了。予定ではあと3日だ。
と言っても、落とし穴のショートカットを使い、
『G』のせいで2日目で地下9階まで急いで攻略。
3日目で地下10階と地下11階まで終わっている。
順調なら明日が地下12階と地下13階、5日目で14階と15階。
地下15階まであるとしても、あと2日で終わるペース。
当初の予定より1日早く終わるかもしれない。
もちろん、仮に地下12階で終わりなら明日で終了する。
しかし、『このダンジョンは地下15階まであるはず』と
幸太郎は確信に近いものを持っていた。
どう考えても、このダンジョンは性格が悪い。
ジャンジャックとグレゴリオも『地下15階まである』、
という想定で行動している。
安易に『地下12階で終わるかも』などと言うと
『ぬか喜び』となって心理的な負担となってしまうだろう。メリットが無い。
ここまでは順調に来ている。
負傷は『カース・ファントム戦』での幸太郎だけ。
だが・・・。
『全滅の占い』が示したものが近づいているはずだ。
幸太郎も、わずかに恐怖を感じ始めていた。このパーティーはやはり強い。
ジャンジャック、グレゴリオ、モコ、エンリイ・・・。
これで倒せない、いや、『逃げられない』というのは、
一体どういうことなのだろう?
手がかりは、幸太郎の防御力を大幅に上げた結果、
わずかに全滅を回避する希望が現れたこと。
(おそらく、だが・・・。ジャンジャックが『離脱』を使う時間を、
俺が稼げるかどうか・・・ということではなかろうか?
俺の防御力、魔法耐性が上がった結果、俺が敵の攻撃に倒されずに
ジャンジャックを『破魔の陽光』か『陽光の癒し』で
フォローできる可能性が発生した・・・この解釈で
間違ってないと思う・・・。
しかし、『離脱』が発動するまで、わずか3秒ほどのはず。
そのわずか3秒を、俺が耐えられずに倒されるって相手か・・・。
その上、『震電』を持つジャンジャックまで倒すか、
行動不能に追い込む力も持っているわけだな。桁違いの敵だな・・・。
どんな奴なんだ・・・?
俺には『太陽神の加護』があるから状態異常を起こす攻撃ではなく、
やはり単純に攻撃力の高い魔法か打撃といったところなんだろう・・・。
全く想像もつかないが、それでも何とかして
情報を持ち帰らなければならない。対策を立てるにしろ、
このダンジョンの破壊を諦めて、次善の手を打つにしろ、
情報が必要だ・・・。情報を持ち帰れない場合は・・・
『神虹』の使用も考えねばならないだろう)
『神虹』を使えば、相打ちに持ち込めるかもしれない。
だが、使用すれば結果に関わらず、ダンジョンは中途半端に崩れて、
幸太郎たちは生き埋めになってしまう。
ダンジョンのような場所では『神虹』を使うのは避けたい。
『神虹』には『次』がないからだ。
使用すれば、幸太郎は少なくとも50分は死んだままに
なってしまう。その間は何もできない。そして、連発もできない。
威力も巨大すぎて気軽に使えない。
『神虹』は、使用できる状況が非常に限られる魔法だと言える。
(ふう・・・。考えても厳しい場面しか思い浮かばないな・・・。
とりあえず、なんとか『離脱』が発動するまで
ジャンジャックを守ることに専念することを考えよう。
現状、それしかなさそうだ・・・)
仲間を死なせたくない。幸太郎はそう思いながら、寝返りを打った。
(C)雨男 2023/01/04 ALL RIGHTS RESERVED




