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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとダンジョン破壊 3
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俺が遅い


「ジャンジャックとグレゴリオ殿が、バンバン敵を倒すから、


さして苦戦してないように見えるが、実はそうじゃない。


俺は間違いなく『苦戦』していた。


・・・やることが多くて、情報を頭で処理しきれなかったんだよ」





「何回か戦っていれば、そのうち慣れるんじゃねーのか?」





「いいや、俺とジャンジャックでは、明らかに戦闘に関して


『時間の流れ』が違う。


今起きていること、次にしなくてはならないこと、


仲間の行動で何が変わったか、自分の行動で何が変わったか、


それらの情報に対する処理速度が全然違うんだ。


わかりやすく言えば、俺は『まごまごしていた』んだよ。


自分がしなくてはならないことが2つ以上あると、


どちらを先にやるべきか迷うんだ」





「え? そんな迷ってるふうには見えなかったぜ?」





「さっきの戦いなら、そんな風に見えたかもしれないな。だが、違う。


問題は正面だけじゃなくて・・・」





「後ろからも挟まれた時? でもすでに囮までだしてもらってるし、


ボクだって・・・」





「違う。まだ足りない。おそらく、あのコピーモンスターの速度だと・・・


交差点を狙われる」





「幸太郎殿、それは十字路とかに敵が殺到するという意味か?」





「そうだ。必ず起きる。今までは敵の移動速度も、


そんなに速くなかったし、モコの索敵で『先回り』することさえできた。


だからせいぜい挟み撃ちというだけで


十字路で囲まれるような状況には絶対にならなかっただろう。


こちらでコントロールできたわけだ。だが、地下11階からは違う」





「しかし・・・俺とゴリオがダンジョン破壊した時は、


そんなに囲まれてピンチになるような事態はなかったと思うぜ? 


どこかの通路へ進むか戻るかで、前後だけにすれば


いいはずじゃねえか」





「もちろん、それで正解だよ、ジャンジャック。


だが、それがピンチに感じられなかったのは


そのダンジョン破壊のメンバーが全員、


実戦経験豊富だったからだろう。


しかし、俺はさっき自分の弱さを思い知った。明らかに俺だけ弱い。


きっと、俺は迷って小さなミスを連発する。確信がある。


だから、勝手なことを言ってすまないが、


俺が戦いについてゆけるスピードになるよう修正させて欲しいんだ。頼む」





幸太郎は頭を下げた。





さっきの戦いはわずか20秒ちょっとくらいだった。



それほどジャンジャックとグレゴリオが強いのだ。



全ての敵をほぼ1撃で倒す。



だから、さして苦戦しているようには見えない。



実際、さっきの戦いにジャンジャック、グレゴリオ、



モコ、エンリイはしっかり対応できていたと言える。





しかし、幸太郎はダメだった。所詮、平和で戦いから遠い日本人。



殺し合いなど日本では経験どころか、見たことも無い。



明らかに自分だけ対応が遅い。





『遅い』





先ほどの戦いは正面からだけだった。



しかし、あのコピーモンスターのスピードなら、



戦っているうちに、他の群れがやってくる可能性は高い。



いや、絶対に来る。





前方、後方、そして左右。4方向からの攻撃を避けるため、



進むか、戻るか、右か左か・・・。



ジャンジャックが指示を出すだろうが、その指示によって



幸太郎のやるべきことの優先順位が変動する。



ゴーストへの命令、邪魔な『魔石』の回収、



殺虫剤でどの敵から倒すか、自分の位置取り、



味方が傷ついた時の回復魔法。そして敵からの攻撃・・・。



間違いなく、幸太郎『だけ』パーティーの仲間と



連携が取れない時がやってくる。



幸太郎はそれを確信した。自分が足手まといになる。





異世界人であるが故の、仕方のないことなのかもしれない。



もちろん、この世界で暮らしていれば、いずれ嫌でも



戦闘に対する速度を体得するだろう。



できない場合は、もちろん『死』だ。





だが、ここで自分のレベルアップなど期待しても意味が無い。



実戦に『次』は無い。



現実で『予測できること』は『対策しておかないと死ぬ』ことだ。





『遅い』





平和な世界なら『今いる場所で花を咲かせよう』と言うのもいいだろう。



じっくり自分の力をつけて成長するのは王道でもあり、



最短距離でもある。だが、ここでは待っている時間が無い。





『俺だけが遅い』





ならばどうするのか?・・・決まっている。



自分を変えるのが間に合わないのならば、



環境と相手の方を変えるしかない。



『変えられるのは自分だけ』? 



それで生き残れるのなら誰も苦労はしない。



幸太郎は『相手を変化させる』ことを『実行』してしまう男だ。



非常に条件も難しいし、長い時間がかかる上に、



全然割に合わないが、相手の記憶を書き換える方法すら知っている。



ともかく仲間に迷惑をかけるわけにはいかないし、



『自分は必死に頑張ってます!』では済まない。



手をこまねいているわけにはいかない。



特に、平和な日本と違って、ここは異世界。死はすぐそばだ。





傷を負っても『陽光の癒し』で完全に治せる・・・



という考えでは、間違いなく近いうちに死ぬ。



先ほど、敵を短時間で撃退できたのは



こちらの戦力が100%だったからだ。



もし、幸太郎、モコ、エンリイのうち誰かが重傷を負ったりすれば、



必ず崩れる。均衡が崩れる。



イレギュラーを想定するなら、『現状、相手を余裕で完封してる』



くらいじゃないと対応しきれないだろう。








「うーん・・・正直、よくわかんねーけど・・・。


まあ、それでどうしたいんだ?」





「具体的にはゴースト、ゾンビ、スケルトンを増やす。


目的は敵をスローペースにすることだ。


前方はゴーストを5体まで増やす。ニードル・クラブの足止めに


アザラシゴーストも、もっと前方に配置する。


増やしたゴーストは基本的に出現した


コピーモンスター全てに襲い掛からせる。


ゴーストは半実体だから、相手が熊だろうがコボルドだろうが、


攻撃の威力自体はほとんど関係ない。


一方的に相手を掴むことができるはずだ。


当然ゴーストも攻撃されて長持ちしないだろうが、


時間稼ぎは充分できるだろう。


前方はジャンジャックとグレゴリオ殿が強いから


あとは狙撃にさえ気を付ければ、俺でもついてゆけると思う」





次に幸太郎はエンリイに向かって話す。





「後方は・・・『時計塔』で封鎖する。


定期的に後方に柵を設置して通れなくするんだ。


1メートル間隔で設置していた時計塔を20センチ間隔まで増やす。


これでニードル・クラブ、ファングベアー、ウィードマン、


グリーンキャタピラーは追って来れなくなる」





「逆に追って来れるのは、半実体の偽ゴースト、


天井を歩けるレッドスパイダーと『G』、


狭くても通れるスタン・スネークかな? あ、コボルドと死体は


柵をよじ登ってくるってこと? でもそれなら狙いたい放題だね」





「だが、弓タイプの死体と魔法タイプの死体は


柵の向こうからでも撃てるだろう。注意して欲しい。


囮と『G』対策としてスケルトンを3体増やす。


ゴーストも5体とする。ここまで増やすと俺の魔力量は、ほぼ使い切る。


だが、構わない。


敵のスピードを、無理やり俺の対応できるレベルまで引きずり落とす」










(C)雨男 2022/12/26 ALL RIGHTS RESERVED






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