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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとダンジョン破壊 3
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冒険者ランクの話 5


 『アムンゼン&スコット商会』は成長を続け、



最盛期には30名を超える冒険者がいたという。



そのころ初めて商人ギルドに倣って『冒険者ギルド』という



名前で呼ばれるようになった。このころはただの愛称ではあったが。



しかし、この商会は時間的にはわずか10年ほどで消えてしまった。





アムンゼンとスコットが年齢を理由に引退したからだ。



この2人のカリスマで成り立っていた商会は、



紆余曲折はあったものの、最終的にはベイリー伯爵も同意して解散。





しかし、歴史を振り返ってみれば、この解散こそが



冒険者ギルドを生み出す結果になったのだ。





商会に所属していたアムンゼンとスコットの弟子である冒険者は、



ゼイルガン王国の各地へ散っていった。



そして、それが各地に『民営』の



冒険者ギルドを生み出していったのだ。



それはゼイルガン王国以外にも波及して、



他の国々にも続々と冒険者ギルドが誕生してゆく。





イーナバース地方の各国に冒険者ギルドができたことで、



ついに正式に『冒険者派遣業の商会』は



『冒険者ギルド』と呼ばれるようになる。



愛称だったものが、国に認められる公式名称として



使われるようになったのだ。





これがおよそ700年前あたりのこと。



以後、各地の冒険者ギルドは『出来ては消え、出来ては消え』を



繰り返しながら、名前だけは続いてゆく。








そして、それから約100年ほどたったある日。



『あの事件』が発生する。



これはイーナバース自由国連合の誕生につながる事件でもある。








その事件とはダンジョンの『暴走』・・・



それも歴史上最大と思われる『大暴走』だった。





この頃になると、冒険者は魔物の討伐依頼や、商人の護衛任務など、



現在の冒険者ギルドに近い仕事が主流になっていた。



『探検』より『駆除』の方が多いのは当然といえば、



当然かもしれない。





その結果、本来『依頼の難易度』だったランクが転じて、



『冒険者の強さ』を表す指標になっていたのだ。





人類史上、初めて強さを表すランクの出現・・・。



このせいで奇妙な現象が発生した。



貴族が目を付けたのだ。『見栄』を張りたいがために。





それまでA級、B級、C級だったランク。



その一番上位のA級に貴族の子弟がうじゃうじゃ出現したのだ。



もちろん、イカサマと買収の結果である。





「まあ・・・私はA級の資格を持ってますのでね・・・」





「○○家の子として、このくらいの肩書は当然ですよ・・・」





こんな会話が若い貴族たちの間で飛び交った。



そして、それがさらに馬鹿馬鹿しい話へと拡大していったのだ。



なんと『S級』『SS級』・・・そしてついに、



『SSS級』まで出現。





意味? そんなもんあるか。





完全に『名ばかり』の無意味なランクが、A級の上に作られた。



貴族の要望だ。



A級はまだ普通の冒険者がいるが、



S級以上はどんどん貴族の子弟ばかりになっていく。



一般の冒険者にとって『名ばかり』のランクなど



興味がないからだ。銅貨1枚にもなりはしない。



そして、そんな状態の中、『大暴走』が起きた。








現在のモーラルカ小国群と呼ばれる地域。



その頃はまだ、細かく分裂していなかった。



今でこそ20を超える小国が、常にどこかで戦争をしている地域だが、



当時は7つしか王国はなかった。



ゼイルガン王国の隣国に『ランバーナ王国』という国があり、



そこで事件が発生する。





ランバーナ王国の南端に『ピグモン辺境伯』の領地があり、



そこからゼイルガン王国の『シモンズ辺境伯』へ早馬が駆け込んできた。



しかも内容は『救援を求む』





他国の貴族への救援要請など前代未聞である。



ピグモン辺境伯とシモンズ辺境伯は代々、何度も戦ったことがある、



いわば『仇敵』だ。



しかし、使者の持ち込んだ手紙を見れば納得はいった。








『昨日、ランバーナ王国の首都付近のダンジョンが暴走した。


しかも、あふれ出した魔物の数は1万とも、2万ともわからぬ大群だ。


多すぎて全容は不明。すでに首都・バルージンは陥落。


魔物で埋め尽くされた模様。あふれ出した魔物は


町や村を次々に食い潰して南下中。こちらは城塞都市ミルドンに


可能な限り人々を収容し、立てこもる予定だ。


今からではもはや打つ手は無い。すでにランバーナ王国は滅んだ。


我々はゼイルガン王国に降伏、服従する。


もし、そちらが魔物の迎撃に成功したら救援を送ってほしい。


このピグモンの首が欲しいなら、喜んで差し出す。


もう、国同士の争いなどという小さな問題ではないのだ。


どうか急ぎ、魔物の迎撃対策をゼイルガン王国全体でとって欲しい。


おそらく明後日にはゼイルガンの国境まで到達するであろう』








この手紙を読んだ『ヴィーザ・シモンズ辺境伯』は、



南で領地を接する『タイガー・グラード・ガンドルフ公爵』へ



伝書鳩を、急ぎ送った。



ヴィーザ辺境伯は黒狼族の出身で、武勇の誉も高い。



直ちに軍を編成し、都市の周囲にある堀の内側で迎撃態勢を整えた。





しかし・・・。ヴィーザ軍の総数は900。



あふれ出した魔物の数は、仮に1万として、



半数が南下と考えても5000はいる。



実際はもっと散らばるかもしれないが、もし総数が2万だったなら



南下するのは1万近くになるだろう。





だが、領主として引くわけにはいかない。



戦列にはヴィーザの妻と、まだ13歳の一人息子まで加わった。



貴族の誇りをかけて、黒狼族の誇りをかけて、



領民を見捨てるわけにはいかないのだ。










(C)雨男 2022/11/11 ALL RIGHTS RESERVED






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