地下8階のボスは?
新たな布陣で歩き出した幸太郎たち。
幸太郎は『陽光』の特殊効果がどのくらいの距離まで届くのか
検証したことがない。そのため、幸太郎は7歩歩くと
『陽光』を設置するという慎重な対応をした。
(確か・・・人間の歩幅はだいたい70センチ・・・だったはず。
7歩で約5メートル。これくらいならMP回復の効果範囲から
外れることなく、進めるだろうか・・・?)
幸太郎はステータスウインドウを頭の中で展開した。
これでMPが回復しているか客観視できるようになる。
まさにステータスウインドウほどチート級なスキルはないだろう。
そして、Gきぶりに気を取られて忘れていたが、地下8階は本気で暗い。
『陽光』と7本の松明のおかげで、かなりの光量を確保しているが、
曲り道の先など真っ暗だ。
この『5メートル間隔』で『陽光』を設置するのは、
視界確保の意味でもちょうどいいように思えた。
新たな布陣は充分に効果があった。前方はアイアン・ローチの触覚が
松明の炎に触れた瞬間に『ビクッ』と震えて止まる時を狙い、
ジャンジャックが殺虫剤を発射。
落ちてくるアイアン・ローチをゴーストたちで抑え込む。
そこへスケルトンが間髪入れずに炎で首を焼く。
これが完全にパターンとして決まった。
もう床に落ちるや否や『魔石』になる、といった具合なので、
精神ダメージも抑えられた。
後方は、もう一切容赦しない。
モコとエンリイから、だいぶ距離があるうちに落として焼くことにした。
Gキブリは目が悪いので、ゴーストがハッキリとは
視認できないらしい。そして、触覚は『半実体』のゴーストを
すり抜けてしまう。気流感覚毛でもゴーストの接近は感知できない。
もしかすると死霊術のゴーストは、対、巨大Gキブリで最適解かも。
とにかく、ゴーストで寄ってたかって床に引きずり落し、
4体のスケルトンが松明の炎で焼く。かなりスピーディーに
倒せるようになった。モコもエンリイも、恐怖が薄れたのか、
持っているショートスピアが震えなくなってきたようだ。
幸太郎たちはなるべく急いだ。地下8階に居たくないのもあるが、
スケルトンが2時間ほどで消えるからだ。
スケルトンの召喚に必要なMPは9ポイント。
6体のスケルトンを呼ぶにはMPを54ポイント消費する。
幸太郎の全MPの半分近い。
ボス部屋に入る前には、どうしても一度
全てのスケルトンやゴーストを消さなくてはならない。
タイミング次第ではMPの回復を図る必要が出てくるのだ。
マジックポーションという手もあるが、
できればスムーズに、この地下8階を通過してしまいたい。
急いだかいがあった・・・というより、元々アイアン・ローチ自体は
そんなに強くないせいだろう。
1時間半ほど、地下8階をさまよって、両開きの扉を発見した。
「やった! ついに見つけたぜ!!」
ジャンジャックは『ついに』と言った。気持ちは全員が理解できた。
そうだろう、そうだろう。
巨大Gキブリが蠢く、まさに人外魔境だったのだ。
苦手な人は、間違いなく『回れ右』しただろう。
心理的には文句なしに、地下1階からここまでで最難関だった。
仮に『カース・ファントム』や『ティタノボア・グレーター』が
出現しなかったとしても、普通のパーティーなら、
恐らく99%は進めなくなっていたはずだ。
『ネクロマンサー』『ウエポンマスターと殺虫剤のコンボ』の
両方がなければ、地獄の最底辺のほうが若干『まし』だと感じるような
戦いを強いられていたに違いない。
幸太郎はステータスウインドウで、MPの回復具合を確認する。
何度かゴーストを召喚しなおしたが、『陽光』のMP回復効果の範囲からは
一度も出なかったようで、しっかりMPの確保はできている。
「ジャンジャック、いつでもいけるぞ。魔力の回復はできている」
「よし。ゴリオ、モコ、エンリイ・・・いけるか?」
全員がうなずいた。
「ジャンジャック、ここのボスはなんだと思う?」
「普通に考えれば、何か大型の昆虫が出るはずだな。
キラーマンティスとか、大サソリとか、ヘヴィ・センティピードあたりの
『まともな』奴を期待したいところだぜ」
「キラーマンティスか。ギブルスさんの屋敷で見た、あれだな。
うーむ。モコ、エンリイ、一応ショートスピアはやめて、
通常の装備に切り替えておこうか。手ごわい相手だったら
慌てることになるかもしれない」
「了解です、ご主人様」
「そうだね、やっぱりボクは棍が一番しっくりくる」
(カマキリはGキブリの近縁種だって聞いたことがある・・・。
ここのフロアモンスターがGキブリなんだから、
地下8階のボスはキラーマンティスって可能性は高いよな・・・。
目に見えない速さの鎌の攻撃なら、油断できない。
また殺虫剤の出番になるかな? 切り替えていこう・・・。
何しろ、この地下8階はジャンジャック以外、
誰も攻撃も防御もしないでゴーストとスケルトンに
任せっきりだったわけだからな・・・。油断大敵、油断大敵)
だが、この時、すでに幸太郎は『油断』していた。
(C)雨男 2022/10/17 ALL RIGHTS RESERVED




