ネクロマンサーがいて良かった 2
「幸太郎、松明は何本買ったんだ? 足りるのか?」
「大丈夫。家具屋で大量に作っていたから50本買った」
「ごじゅっ・・・?! いや、もう驚かされてばっかで、
だんだん慣れてきたぜ。まったく規格外なことばっかだな、お前は・・・。
ま、いい。では松明の消耗や破損は気に掛けなくていいな。
気持ち悪い相手だから、でてきたヤツはきっちりと倒して進もうぜ」
「焦りは禁物だが、なるべく急ごう。精神衛生上、
この地下8階は迷路にいるだけでダメージをくらう」SAN値が削れる
幸太郎はショートスピアをモコとエンリイに渡す。
そして、まずは全員で階段を下りた。
カートに殺虫剤を載せ、スケルトンを呼びだし、松明を用意。
準備オーケー。
地下8階は真っ暗だが、松明が合計7本もあると、そこそこ明るい。
しかし、幸太郎は『陽光』を油断なく配置してゆく。
松明は、今回『武器』だからだ。
「前方、3体! 来ます!」
モコが警告を出す。
スケルトンが通路の左右の壁際に、松明を掲げて立つ。
接近してきたアイアン・ローチは触覚が松明の炎に触れると、
ビクッと震えて止まった。本来のアイアン・ローチなら
触覚が炎に触れる前に引き返していただろう。
しかし、コピーモンスターは『逃げる』という行動が
インプットされていない。出会ったら、人間が死ぬか、
コピーモンスターが全滅するかの、どちらかしか無いのだ。
行動パターンは機械に近い。
動きの止まったアイアン・ローチへジャンジャックが殺虫剤を発射!
『ウエポンマスター』を持つジャンジャックは動かない的なら、
百発百中である。見事、殺虫剤は3匹のアイアン・ローチの
横っ腹に命中。石鹸水が効いてるのか、各種ハーブなどの成分が
効いてるのかは、わからない。
ともかく、アイアン・ローチ3匹は天井からボタボタと落ちてきた。
やはり殺虫剤強し。全員がその光景に安堵した。
・・・ほんの『一瞬』だけ・・・。
天井から落ちてきたアイアン・ローチは腹を上に向けて、
合計18本の長い毛の生えた足を無茶苦茶にわさわさと動かして
宙を掻きむしり、その場でグルグルと回ってもがいた。
『ぎゃああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
全員が絶叫した。キモい! キモすぎる!!
1メートルオーバーのGキブリの足が長い、大きい、動きがキモい!
アニメだったらモザイク間違いなしだ!
幸太郎はスケルトン2体に『松明で首を攻撃しろ』と命令。
スケルトンは松明をGキブリの頭と胴体の連結部分に押し当てて、焼いた。
これは効果あった。
アイアン・ローチの足が動かなくなったと思ったら、
すぐ『魔石』になったのだ。
本物のGキブリなら即死はしないかもしれないが、
コピーモンスターだから首が焼かれてちょん切れた状態になることも
『死亡判定』になるらしい。幸太郎の予測は当たった。
「こ、こいつは、思った以上にキツイ相手だぜ・・・。
まさか、俺たちが、虫相手にここまで苦戦を強いられるとは、
お、思ってもみなかった・・・」
「ま、まったく同感だジャンジャック・・・。
俺たちが、B級に上がってから、こ、これほど、冷や汗を、
かかされるのは、初めて、じゃないか・・・?」
「お、俺も、甘かった。そ・・・想像以上、だ。
・・・モコ、エンリイ、心配するな。
俺も本気でいく・・・。ここからは全力だ」
モコとエンリイは目に涙を浮かべて震えていた。無理もない。
幸太郎は残ったMPのうち約半分を使って、ゴーストを15体召喚した。
『陽光』は特殊効果により5分で全MPの1割が回復する。
つまり現在の最大MPは119ポイントだから、5分で11.9回復する。
ゴーストは約20分維持できるから、消えるころには11.9の4倍
・・・47.6ポイント回復できる計算だ。
全力とは言うが、MPの枯渇だけはさせないように留意する。
予期せぬことが起きた場合、対応できなくなってしまうから。
マジックポーションはあるが、それこそ数に限りがある。
計算の範囲で補えるなら、それに越したことは無い。
なにより、まだボス戦が残っているのだ。
ゴーストの召喚に必要なポイントは2ポイント。
15体召喚なら30ポイントのMPを消費する。
アステラとムラサキの作成した『死霊術』に狂いは無い。
絶対にこれで召喚できるし、余計な消費も無いし、失敗も無い。
もう、他の魔導士に申し訳ないくらいに完璧、かつ正確な発動ができる。
この新たに召喚した15体のゴースト。これでアイアン・ローチの足を掴む。
もう、触覚なんて言わない。力づくで止めて殺虫剤で攻撃、
ひっくり返ったら、スケルトンの松明で即座にとどめを刺す。
後方は殺虫剤は無いが、ゴーストで引きずり落して、
スケルトンで即座に焼く。ゴーストのうち、最初の2体と合わせて
10体も回せば充分だろう。スケルトンも4体いるのだから。
新たに召喚したゴーストと、スケルトンたちに新たな作戦の伝達を行う。
スケルトンたちがコクコクとうなずく。
「スケルトン、ゴーストたち、頼んだぞ!
このフロアの敵は生身の人間が相手にするには
恐ろしすぎる! 君たちの力に期待する!」
こうして、幸太郎たちのパーティーに加えて、
スケルトン6体、ゴースト17体という『大軍団』で行進することになった。
しかし、こうでもしなくては、この地下8階の
突破は不可能ではなかろうか。
山育ちではあるが、女性のモコやエンリイが悲鳴を
あげるのは仕方ないにしても、本来は昆虫が好きな幸太郎でさえ耐えられず、
それどころかB級冒険者ですら絶叫するのだ・・・。
「本当に、本当にネクロマンサーがいて良かったぜ・・・」
ジャンジャックがグレゴリオに向かって、しみじみと言った。
「ああ・・・。『魔法の矢』なら当たるだろうが、
何発当てたら倒せるかわからないし、
『火球』や『風刃』だと避けられる可能性は高い。
いや、おそらくまるで当たらないだろう。だが乱発すれば、
すぐに魔力が枯渇する。いちいちマジックポーションで
回復してたらキリがない。
そして、『ゴースト』はこのアイアン・ローチの一番苦手な魔法だろう。
スケルトンの『援軍』も実にありがたい。直接相手にしなくて済む。
ここの攻略に最適なのは、たぶんネクロマンサーだな・・・いや、
ネクロマンサー無しでこの地下8階を攻略するのは
・・・想像したくない・・・
高速で動き回るこいつらと接近戦なんてな・・・」
(C)雨男 2022/10/15 ALL RIGHTS RESERVED




