冒険者ランクの話 2
ジャンジャックは笑ったが、幸太郎には意味が分かった。
一応、大っぴらに話すわけにはいかないってだけで、
ジャンジャックも『幸太郎ならわかるだろ』ってつもりで
話している。つまり次のような意味だ。
『損得だけで動く奴は、いざという時に当てにならないかもしれない。
時には金銭抜きでも動いてくれるような奴じゃないと、
最悪の事態の時には依頼人の命も、ギルドの信用も守れない。
とてもC級を名乗らせるわけにはいかないのだ』
(・・・C級、B級、A級はギルドにとって、
いざという時の切り札ってわけか。
確かに、カネカネ言う奴は、金で釣られて寝返る可能性も高い・・・。
目撃者を全員殺せば、この世界では誰にもバレない。
スマホも監視カメラも無いから・・・。
そして、金にうるさい奴は不利になったらすぐに逃げだすだろう。
ユタの冒険者ギルドで、傭兵掲示板を見た時
・・・ほとんどがD級以下だった。
C級は数えるほどしかいなかった・・・。
エンリイの言ってた意味が少しわかったな。
D級とC級では実力以上の大きな差があるってことらしい。
信用が全然違うんだ。)
「その『新人』って難しいのか? すぐに卒業できるのか?」
「大して難しくねえ。簡単ですぐ終わる。
新人の期間は、だいたい2か月って決まってる。
とゆーか、その2か月さえこなせないようなら、冒険者になっても無駄だ。
・・・すぐに死ぬ。
任務を達成して死んでくれればいいが、
任務に失敗して死なれると困るんでな。
そんな奴には、ギルドはE級のギルドカードを絶対に発行しない。
一見、酷なようだが、実際このシステムができてから
新しい冒険者が死亡する事例は激減したんだぜ?
新人期間中の実績をギルドはよーく見てる。
何が得意か? 戦闘力はどのくらいか? 地味な作業に耐えられるか?
どのくらい金に執着してるか? E級になってからも、
この新人の期間のデータはついてまわる。
だから場合によっては掲示板の依頼を受けようとしても、
受付カウンターで拒否される場合もあるんだ。
ポンポン死なれたら困るからな。新人の期間に
どんな任務が来るかは決まっていない。当然、時と場合によるさ。
というか、難しい任務は絶対に来ない。
まあ、幸太郎ならB級まで充分行ける実力があるから心配すんな」
「それに、幸太郎殿は『変人』だしな。B級の資格アリ、だ」
みんな笑った。
「お前たちだってB級だから『変人』なんだろーが。
・・・まったく、もう・・・。
まあ、するとE級ってのが事実上、一番下で、スタートラインなんだな?
D級はどうなんだ? 当然試験はないんだろう?」
「ああ、やっぱり昇級試験みたいなモンはないぜ?
というか、D級は一般的に主戦力って扱いになるから、
実績のない奴なんか恐ろしくて昇格させられん。
E級とD級の差はかなり大きいんだ。さっきのゴブリンの時にも
少し出たが、はっきり言えばE級は『難易度の高い任務の時に、
足手まといになる可能性がある』って意味だ。
冒険者としてはD級で一人前、E級はまだまだ
経験と修行が足りないってこった」
「そうか・・・。ふーん、つまり元々はD級までしか無くて、
難しい任務に参加させることができない未熟な奴らを保護するために、
新しくE級ってランクを創設したってことなんだろうな。
そして、さらに試験の代わりに新人ってランクを作った。
そんな経緯が昔あったんだろう?」
「なんだ幸太郎・・・冒険者ギルドの歴史知ってるのか・・・?
知らん? ホントかよ・・・。確かに、その通りだぜ。
黎明期はA級、B級、C級の3つしか無かった。
ある大きな事件があって、その後ランクの付け方に
大きな改革が加えられたんだ。
まあ、その辺の話はちょっと長いから明日またしてやるよ。
でも、D級と新人のランクができた経緯は、今、幸太郎が
言った通りさ。新人ってランクが出来るまでは、
各ギルドでバラバラだったんだ。試験を課すところ、試験は無いが
『見習い』や『荷物持ち』という下積みをさせる所・・・」
「そういえばエンリイは『下積み』を3年やってたって言ってたな」
「まだ、見習いや荷物持ちをさせるギルドもあるさ。
本当はそれが一番いいんだけどな。
どうしても食い詰め者なんかは、すぐに稼ぎたがるから
『カードよこせ』ってうるせえんだ」
「そして、すぐ死ぬ。依頼人も困る。ギルドも困る。
それで妥協点として生み出されたのが新人ってランクか・・・。
ギルドにも歴史ありってことだな」
「商人ギルドがいつ頃発生したのかは古すぎて
よくわかってねえけど、冒険者ギルドができたのは、
およそ700年前だ。色々あるさ」
「おおっ・・・冒険者ギルドって、
意外と長い歴史持ってるんだな・・・」
「最初の黎明期は貴族のお抱えで、冒険者ギルドって名前は無かった。
その後も出来たり消えたりを繰り返し・・・
まあ、実際には名前と役割が大体同じってだけで、
一貫性は全然ないんだけどな」
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