「飲み過ぎよ・・・」
エンリイはふにゃふにゃ言いながら、
カニみたいなポーズで踊っている。
「大丈夫か? エンリイ? ちょっと飲み過ぎじゃあ・・・」
「えへへへへ。大丈夫だよぉぉ~~~~ん、
幸太郎サンも飲もうよぉぉぉ~~~」
「エンリイ、やっぱり飲み過ぎよ。少し休んだ方がいいわ」
「らいじょおぶううぅぅ。ヘーキ、ヘーキ、
へーきへーきへーきへーきへーき」
エンリイは踊りながらカクテルを飲み干す。
「あれれ・・・? なくなっちゃったぁ・・・。
幸太郎サーーーーン、お代わりいいいいぃぃぃぃ・・・」
エンリイは幸太郎へ両腕を伸ばして抱き着こうとした。
しかもどさくさ紛れに唇を突き出して、幸太郎にキスしようとしている。
「いっ?!」
幸太郎が驚く。しかし、エンリイの横へ影のように
音もなく現れた者がいた。その影はエンリイの首筋へ手刀一閃。
モコだ。
全身から『カース・ファントム』真っ青の
黒い炎を噴き上げている。
「飲み過ぎよ・・・エンリイ・・・」
モコの目が猛獣のように光る。
エンリイはそのままゆっくり崩れ落ちてきた。
幸太郎とモコで抱きとめる。恐ろしい速さの手刀・・・
本気で打てば幸太郎の首などわけなくへし折るだろう。
「と、とりあえず、このまま寝かせておこう。モコ、そっち頼むね」
「了解です。・・・え? ここで寝かせるのではないのですか?」
「ああ、こっちのボス部屋側の角に男の寝場所。
対角線側の角を女子用の寝場所としよう。
実は秘密兵器を買ってあるんだ。『マジックボックス』から出すから、
エンリイをそこに・・・」
「嫌です!!」
「え?」
「ご主人様の横・・・い、いえ、そんな離れていては・・・
そ、そう、怖いです!
今日はあんな怖いゴーストを相手にしたから、
夜中に目が覚めるかもしれません。
その時に、ご主人様たちと離れていたら、怖いです。こ、怖いです!!」
「そ、そんなに離れてはいないと思うけど・・・」
ここでジャンジャックとグレゴリオがモコに味方した。
「幸太郎、モコの言うことはもっともだ。あんまり離れると
不安に感じるのは無理ないことだぜ?」
「幸太郎殿、ここはダンジョンだ。一応『安全地帯』にいるが、
万一に備えてあまり離れるのは危険かもしれない。
特に、このダンジョンは前例のないことが沢山起きているからな。
まとまっていた方がいいだろう」
「うーん。そうか。そうかもな。ではボス部屋の反対側に
全員の寝場所を作ることにしようか。
よし、モコ、とりあえずエンリイをあっちへ運ぼう」
幸太郎がモコに話している時に、ジャンジャックとグレゴリオは
『ニカッ』と笑って、モコへ親指を立てウインクした。
知らぬは幸太郎ばかりなり。
「よし、モコ、ちょっとエンリイを頼む。ふふふ、ビックリするぞ?」
幸太郎は『マジックボックス』から次々にベッドを取り出して並べた。
普通のベッドが4つに、グレゴリオ用のキングサイズベッドが1つ。
それを等間隔で一列に壁際へ設置。
さらに幸太郎は真っ白なシーツに
『マフマフラビットの毛布』をのせていく。
「枕は何種類か買ってあるから、好きなのを選んでくれ」
幸太郎は真ん中のベッドに枕をたくさん出した。
「では、エンリイはここ・・・。私はここに寝ます。
ご主人様は念のため、この真ん中のベッドに。
ここなら『万が一の時』でも隣のジャンジャックさんと
私でお守りできます。安心です」
「そうか。ではそうしよう。・・・頼りっきりですまないな。
モコ。ありがとう」
「いえ、当然のことです!」
モコも顔が赤い。だが、これはお酒のせいばかりではないだろう。
幸太郎は各ベッドのそばに、時計塔でベンチを作った。全員の分を。
ここに装備を置けば、絶対にダンジョンに没収されることは
ないだろう。さらに幸太郎は二段重ねの時計塔とシーツで
女子のベッドの外側を囲うカーテンを作った。
一応女性のプライバシーに気を使ったのだ。
「モコ、すまないがエンリイの装備を外してやってくれないか?
そこのベンチに置いとけば無くならないはずだ。
そのまま寝たらあちこち体を痛めるかもしれない」
「わかりました、ご主人様。あ。ついでに『洗浄』もかけておきます。
これでぐっすり眠れるでしょう」
「さすがだな。俺の装備もあとで頼む。俺は『装着』が使えないから」
「はい。お任せください。ではまずエンリイを」
幸太郎はジャンジャックとたちの所へ戻ると、食事の後片付けを始めた。
しかし簡単だ。なにせこの世界には『洗浄』という魔法がある。
めっちゃ便利だ。
食器もテーブルも次々に『洗浄』をかけて『マジックボックス』へ
放り込むだけ。なんとかこの魔法だけでも
日本へ持ち込めないものだろうか。幸太郎はしみじみそう思った。
(C)雨男 2022/09/23 ALL RIGHTS RESERVED




