罠の部屋
幸太郎はドアの前に立って、ゴーストの召喚場所を部屋の中に設定する。
もちろん、そんなに自分から遠くへは設定できない。
(中にどれだけ偽ゴーストが待ってるか・・・。
うーん、ええい! 20体召喚だ!)
幸太郎は部屋の中に次々にゴーストを召喚する。多めの方がいい。
ゴーストはゾンビやスケルトンと違って、あまり自律行動できない。
難しい命令はこなせないのだ。
そこで幸太郎は『偽ゴーストを倒せ!』という命令を与えて、
あとは数で押すことにした。
すぐに中で戦いが始まった。音がしないのだから、
中にいるのは偽ゴーストで間違いない。
ゴースト同士の戦いだから、戦闘の音はしないが、
偽ゴーストが『魔石』になる時の『ボン』という音だけは聞こえてくる。
「モコ、どうだ?」
「はい。次々に『魔石』になる音が聞こえます。
現在9回聞こえました。今、10回目が。順調のようです、ご主人様」
「そうか。ではそろそろ部屋の中にゾンビを入れるか」
幸太郎は部屋の中にゾンビを召喚した。
別に偽ゴーストと戦わせるためではない。
『偽ゴーストがいなくなったら、ドアをノックしろ』という命令を与えて、
様子を探らせるためだ。
「・・・音がしなくなりました・・・。あ、ゾンビが歩く音が聞こえます。
こっちへ向かっています。どうやら戦闘は終わって、
偽ゴーストは全滅したのではないかと・・・」
「そうか。さすがモコ。モコの耳は本当に頼りになるよ」
「えへへ・・・。ありがとうございます、ご主人様・・・ああっ!」
モコが突然、大きな声を出した。幸太郎はビックリする。
「ど、どうした?」
「落とし穴です! 今、ゾンビが落ちました!
このドアの真ん前に落とし穴があります!」
「なんだって?! このドアを開けたら落とし穴があるのか?」
「はい。聞こえます。大きな穴が空きました。・・・どうしますか?」
「うーむ。偽ゴーストが全滅したのは間違いないだろう。
俺はゾンビに、全滅したらドアをノックしろと命令したんだ。
ゾンビがドアに向かって歩いてきたのならば、俺のゴーストが
勝ったってこと。だが、念のため、ドアを囲むように
『陽光』を配置してからドアを開けよう。
ジャンジャック、グレゴリオ殿、エンリイ、一応備えてくれ」
「了解だ。俺が開けるぜ、幸太郎」
幸太郎は、ドアを囲むように『陽光』を4つ配置した。
これで、もし偽ゴーストが残っていたとしても、動きが鈍るだろう。
ジャンジャックがドアノブを掴むと、一気に開けた。
みんな身構えるが、中には幸太郎のゴーストが4体、
そして『魔石』が18個転がっているだけだった。かなりの数だ。
乱戦になって魔法を撃たれたら、無傷では済まなかっただろう。
「偽ゴーストは全滅してるみてえだな・・・。そして、『コレ』か」
ジャンジャックは足元の落とし穴を見た。
穴の底には、落下したゾンビがどうしようもできなくて立っていた。
幸太郎は『ご苦労様、ありがとう』と言ってゾンビを解除した。
落とし穴の大きさは2メートル四方くらいの小型。
でも、スイッチを踏めば、まあ間違いなく落ちる。
そして、部屋の一番奥の壁に両開きのドアが見えた。
「ジャンジャックの予想は大当たりだな。
『モンスター部屋』の強化版みたいな罠と、部屋の奥に、
ボス部屋の扉がある」
「ダンジョンの『普通の扉』は大体こんなもんさ。
部屋の中は空っぽでした、なんてことは
今まで一度も無かったからな」
「では・・・行くか。落とし穴を飛び越えるしか、
ボス部屋へ行く方法は無さそうだ」
グレゴリオが落とし穴を見ながら言った。しかし、それをモコが止めた。
「待って下さい・・・。この部屋は・・・、
落とし穴だらけです・・・。音があちこちから
聞こえるので正確な穴の位置が分かりにくいです。
まず、私が中へ入って、落とし穴の正確な位置を把握します・・・」
「そうなのか。でも大丈夫だよ、モコ。
そんな危険なことはさせられない。ここも俺に任せてもらおうか。
真っすぐボス部屋へ行けるよ。ただ、時間がちょっとかかるから
みんなもう一度待っててくれ」
(C)雨男 2022/09/05 ALL RIGHTS RESERVED




