ん~んん”~
「松明を嫌がるのも、当たりだな。全く大したもんだぜ、幸太郎!
・・・でもよ、こいつら動きがあんまり早くないぜ?
ちょっと松明で殴ってみよう。どうなるかな?」
ジャンジャックは一気に偽ゴーストとの間合いを詰めた。
偽ゴーストは後退するのが間に合わず、松明の攻撃を受けた。
幸太郎はすかさず鑑定してみる。
「むむ、やっぱり手ごたえはねえ、な・・・」
「いや、ジャンジャック、効果ありだ!
今、『鑑定』を使ったらHPが3体とも『1』減った!
そのまま攻撃してみてくれ!」
「ほほう?」
ジャンジャックはニヤッと笑うと、松明でそのまま殴った。効果あり。
3撃目で、偽ゴーストは『魔石』になって転がった。
「おお、こいつはいいぜ! 剣より圧倒的に楽だし、
偽ゴーストは松明を恐れて、ほぼ反撃をしてこねえ。
対処方法がわかれば楽勝だな」
「ふむ、ゴーストにはゴースト。そして松明も効果あり、か。
どうやら地下6階もスムーズに探索できそうだな。
良かった良かった。はははは」
グレゴリオが笑った時、モコの鋭い声が飛んだ。
「魔法です!」
右側の通路の奥に、偽ゴーストが2体見えた。
そして、空中に何か丸いものが描かれると、
そこから火の玉が一直線に飛んできた。速い!
だが、モコがスモールシールドで『火球』を弾き飛ばす。
スモールシールドに貼られた木が少し焦げる。
「よし、一旦、上に戻れ!」
ジャンジャックが指示を出し、全員が階段を駆け上がった。
上に戻ると、幸太郎はモコのスモールシールドに『飲料水』をかけた。
「大丈夫か? モコ」
「はい、全然熱くないです。ちょっと焦げましたが、
木の断熱性って侮れないですね。
このスモールシールド、すごいです」
幸太郎は攻撃魔法を見るのは、エルロー辺境伯の雇われ魔導士が放った
『大火球』以来だ。
あの時はカルタスが難なく弾き飛ばしたせいで、
ちっとも怖くなかった。しかし、今回は初めて自分へ向けて
魔法が飛んできたのだ。幸太郎は正直なところ、ちょっとビビった。
「偽ゴーストには魔法が使える奴もいるんだな・・・。
それにしても、よく気が付いたな? モコ。
俺はさっぱりわからなかったよ」
「偽ゴースト自体は何の音もしないのですが、
さっきは『呪文の詠唱』のようなものが聞こえましたから。
でも、ご主人様、詠唱っていうか・・・なんか
『ん~~ん”~んん”~』
って感じの、なんか気持ち悪い・・・。
まるで口を閉じて、鼻をつまんだままで
変な歌を歌っているように聞こえました・・・」
「歌ぁ?・・・。うーむ、なんか気持ち悪いな・・・。
そうだ、ジャンジャック、さっきのあれは『火球』だよな?
ジャンジャックも使えるって言ってたけど、そんな『ん-んー』
言ってるだけで魔法って使えるのか?」
「使えるぜ? まあ、偽ゴーストがどんな魔法式の
呪文唱えてるかは知らねえけどな」
「使えるんだ???」
「ああ、呪文の詠唱ってのは、同じ『火球』でも無数のパターンがある。
わかりやすく言えば、種族によって使う言語が違うだろ?
でも同じ『火球』は使える。俺に『火球』を教えてくれた先生によると、
呪文の詠唱ってのは、キャンバスに絵を描くことに
似ているって言ってたぜ」
ジャンジャックの説明によれば、魔法は『呪文の詠唱』によって
絵を描くようなものだという。
例えばヒマワリの絵を描くとして、『先に輪郭を描く』か、
『先に色を塗った後、影を描くか』のように、
描き方は個人の好みで無数に方法があるらしい。
当然、筆も個人の好み。絵具も個人の好み。色合いも個人の好み。
パステルカラーでもいいし、水墨画もアリ。
しかし、出来上がった『絵』はどれもヒマワリ。
ただし、威力にはバラつきがある。
結局は『呪文の詠唱』で魔法の形を作り出し、
そこへ自分の魔力を込める。それだけだという。
魔法を構築する呪文の中身は『魔法式』とか『魔法術式』、
または単に『術式』と呼ばれて呼称は統一されていないらしい。
そして、ほとんどの魔導士が『我の方式が最適である』と主張して
統一される気配は全然ないそうだ。
「・・・というわけだから、『ん-んー』言ってるのも、
奴ら流の何か魔法式があるってことなんだろうさ。
『マジック・アカデミー』の奴らが研究にくるかもな。
なにせ初めての事例だしよ。もし、このダンジョンの事が知られたら
保護活動を始めるかもしれねえぜ? あははは」
マジック・アカデミーの人々はいわゆる
『スクインツ』という人々らしい・・・。
(C)雨男 2022/08/30 ALL RIGHTS RESERVED




