地下5階の本当のボス
再び地下5階へやってきた。
「えーと、確か階段を下りて右側の外壁だったよな・・・」
ジャンジャックが飄々とバトルアックスを担いで歩く。
もちろん、ファングベアーは次々に現れるが全く問題にしない。
この2メートル越えの熊に対して、全て一撃で片を付けている。
グレゴリオもファングベアーにパワー負けしない。
結局2人とも昨日と同様、ノーダメージですいすい進んでいく。
(本当にニンゲンかよ、この2人・・・)
幸太郎は素直な感想を持った。
エンリイもゾンビの囮があるだけで、容易くファングベアーを倒してゆく。
熊を倒せる女性・・・。異世界恐るべし。
幸太郎は道順を全然覚えていなかったが、他の4人はおおよそ憶えていた。
おかげで、迷わずにボス部屋までたどり着くことができた。
幸太郎の頭はぽんぽこぷーである。
「さて、昨日はコカトリスだったが・・・。本来のボスはなんだろうな?
それともコカトリスのおかわりが用意してあるのかな?」
「もう一度コカトリスってこたあないだろうぜ?
昨日のコカトリスは幸太郎1人で、しかも無傷で倒してしまったからなぁ。
もう一匹いたとしても出してはこねえさ」
「では、やっぱり本来のコピーモンスターが出てくるか。
普通なら動物みたいな奴なんだよな?」
「順当にいけば、な」
「陣形はどうする?」
「うーん・・・。まあ、一応防御重視で、
また右隅に陣取って扇形に展開しとくか」
「了解。ではそれで行こう。みんな、右隅で扇形、いいね?
では始めるか」
ジャンジャックが両開きのドアを開けた。
グレゴリオ、モコ、幸太郎、エンリイと続いてボス部屋へ入っていく。
だが、ここで予期せぬ事が起こった。
エンリイが中へ入り、ドアから手を離した途端。
突然勢いよくドアが閉まったのだ。そして、ドアが閉まると同時に
天井が崩れてボスが下りてきた。
最初に気づいたのはモコだった。ドアの閉まる音と、
ほぼ同時に天井が崩れ始める音が聞こえたからだ。
「え!?」
モコのその声だけで全員が理解した。一斉に部屋の中央を見る。
天井のブロックが崩れて異形の魔物が現れた。・・・7体も。
「ちっ!」
ジャンジャックが舌打ちすると、その場で急激に方向転換、
ボスへ走り出す。ジャンジャックは先頭にいて、
しかもすでに右隅まで到達していた。急いで戻るが、
もうフォーメーションは組めない。
天井から現れたこの部屋のボス。
それは雄山羊の頭に、人間の上半身、下半身は人間と山羊の
混ざったような姿。・・・『ゴートヘッド』だ。
ゴートヘッドは右手に鉈を持っているが、
幸太郎が面食らったのは、その跳躍力と速さだ。
まるでアフリカのガゼルを思わせる動きをする。そして、数が7体。
幸太郎たちはフォーメーションを組めていない。
グレゴリオが幸太郎とモコの前に素早く移動してきた。
エンリイも幸太郎の左側をカバーするように陣取る。
ジャンジャックはもう間に合わないので、
直接部屋の中央付近のボスを叩きにいった。
「ご主人様! 私の後ろに!」
モコが鋭く指示を出す。幸太郎は即座にモコの後ろ、
壁際へ密着してラウンドシールドを構えた。
それと、ほぼ同時に戦闘が始まった。
エンリイは左側の2体を足止めした。
棍の長さを自在に調節できるエンリイは、
近距離から遠距離の間合いを全て支配できる。
エンリイの鋭い突きがゴートヘッドの膝や腿に当たり、動きを牽制。
一気に倒すことはできなくとも完全に相手の不意打ちを封じた。
グレゴリオは正面のゴートヘッドの後ろ蹴りを
タワーシールドで受け止める。『ゴンッ』という鈍く、大きな音が響いた。
そして同時に金棒で隣のゴートヘッドの頭を叩き潰す。
ジャンジャックは一気に部屋の中央付近まで接近。
自分へ向かってくる2体のうち、即座に1体の首をはねた。
だが、もう1体が大きな跳躍を見せて、
ジャンジャックの右側を大きく回り込むように入り口側の壁際まで移動。
幸太郎の右方向。がら空き。まずい!
モコがそれを察知して幸太郎の右側へスライドした。
ついにジャンジャックも本気を出した。急激に向きを変えて
電光石火の速さでゴートヘッドを追撃する。
渾身の左ストレートがゴートヘッドの顔面に直撃。
ゴートヘッドの顔は壁とパンチに挟まれて『ボキボキ』と音を立てて潰れた。
そこへ太刀の一閃。潰れたゴートヘッドの首が宙へ舞う。
しかし、これ自体が罠だった。
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