コカトリスの羽毛
幸太郎は『マジックボックス』からコカトリスを取り出した。
キーテたちの頭や内臓を食ってない事がわかってからは
『ただの生ゴミ』だったが、武器屋には、もしかしたら利用方法が
あるかもしれない。
「ほ~う、コカトリスか。生物がダンジョンのボス部屋にいたってのは、
イマイチ信じられんが・・・。
こうして実物があるとこを見ると・・・。本当なんだな・・・」
エドガンもヒガンもしげしげとコカトリスの死体を見ている。
「コカトリスは毒煙のブレスを吐くから、食料にはならねえ。
本体も武器の素材としては基本的には使い道はねえな。
・・・が、こいつの『羽毛』と『翼の被膜』だけは別だ。
羽毛は強い魔力を帯びているから盾や防具の裏に仕込んでおくと、
護符に似た効果を発揮するんだ。
あとは、見ての通りキラキラととても美しい。
貴族などは装飾品として高値で買うぜ?
被膜の方は、その調査隊とやらの弓矢であちこち穴が空いているから、
素材としては3級品だ。
だが、それでもコカトリスの被膜は強い弾力を持ってるから、
こいつを使った防具は高値で売れるだろうな」
「では、親方、これは差し上げますんで、何かに使って下さい」
「おいおい、いいのか、幸太郎さんよ。
コカトリスの羽毛は上半身にしかなくて希少だ。
ヨッカイドウあたりで売れば、貴族どもが蟻のように寄ってくるだろうぜ?」
ここでジャンジャックとグレゴリオが幸太郎に1つ助言をした。
「幸太郎、羽毛は少しもらっておけよ。売れって言うんじゃねえんだ。
『トロフィー』だよ。
コカトリスを倒したことがあるって証明に使えるんだ。
もちろん、信じない奴もいるだろうが、
ギルドとかでは下手な証言より説得力がある。
何かの役に立つかもしれねえぞ?」
「冒険者として活動するときは、自分の力を
証明する必要がある場面もあるかもしれない。
もし、そんな場面に幸太郎殿が遭遇したら、
コカトリスの羽毛はきっと役に立つだろう」
「う~ん、そうなのか? ・・・。ではちょっとだけ、
もらっておこうかな?」
「元々、お前1人で倒したんだろーが。遠慮すんなよ。あははは」
「よっしゃ。じゃあ、ちょいと待っててくれ。今、むしるからよ」
エドガン、ヒガン、ミノウの3人で、コカトリスを
あっという間にクリスマスチキンにしてしまう。
滅茶苦茶にむしっているようだが、羽毛は全く傷ついていない。
見事な手際。幸太郎は羽毛を20本だけもらって
『マジックボックス』へ収納。後は全部寄付した。
エドガンとヒガンはコカトリスの翼をノコギリで切断して
机に乗せると『あとはゴミだな。さてどうするか』と言った。
「任せるがよい」
モーリーが手をかざすと、コカトリスの死体が宙に浮く。
そして、外の大木が根っこと土ごと、ごっそり地面から空中に浮くと、
その穴の中へコカトリスを放り込んで大木で蓋をした。
ボキボキと言う音が地面の下から聞こえた。
・・・ぺしゃんこになったのだろう・・・。
「これでよい。そのうち毒も分解されて土にかえる。
なかなか分解されぬようなら、私が強制的に分解してやろう」
ドライアードの力は滅茶苦茶だ。まさに森の中では無敵。
幸太郎たちは親方たちに『また明日来る』と告げて、
北部のダークエルフの村へ戻った。
パン屋に追加の注文をして、明日の朝に来るむねを伝えると、
今度は小狼族の村へ飛ぶ。
「さて、今度は地下6階のゴーストの対策だな・・・。
幸太郎、心当たりってなんだ?」
「まあ、まずは夕食にしようか。一息入れてからにしよう。
ポメラさんとギブルスさんたちが準備をしてくれているみたいだ。
ちょうど日も沈んできた」
夕食を食べ終わると、なんか落ち着いた雰囲気になった。
幸太郎の出した『陽光』のおかげで周囲はとても明るい。
幸太郎はガンボア湖の市場で買った『緑茶』と『紅茶』を両方用意した。
もちろん、ドライアードたちにはずん胴鍋に水をなみなみと作る。
(うまい・・・。緑茶マイラブ・・・。
昔、名古屋近辺で鉄道から見た言葉を思い出す・・・)
工場の壁? に書かれたスローガン。そこにはこのように書かれていた。
『喉が渇けば水を飲み、心が渇けばお茶を喫む』
(真理だ・・・。宇宙の真理がここにある・・・。
まさに神の至言と言っていい・・・)
幸太郎は緑茶が大好きだ。
もし、ここに100万円と緑茶があったとして
『どちらか好きな方を持って行っていい』と言われたら、
幸太郎は迷わず100万円を掴んでお茶屋に行くだろう。
「ふぅ~。異世界の緑茶・・・。
『ああ、ささやかな幸い』ここにあり・・・」
(C)雨男 2022/07/30 ALL RIGHTS RESERVED




