欲しいもの
キーテは赤子を真ん中にエリーと抱き合った。
お互いに言葉は無く、ただ、涙を流した。
「幸太郎様・・・エリーの子だけでなく、キーテまで・・・。
この御恩は・・・」
「クロブー長老。これはキーテの根性と、エリーさんとロウ、
クロブー長老の呼びかけが生んだ奇跡です。
私は少し背中を押しただけですよ。それと、まだ終わっていません。
後、5人も呼び戻さなくては」
「そうでしたな。しかし、これで次からはもっと早く呼び戻せるでしょう」
幸太郎はクロブー長老に、キーテへ状況の説明を頼んだ。
幸太郎は服に『洗浄』をかけて、少し休憩を取る。
まだ5人残っている。息を整えなくては。
モコとエンリイは口々に幸太郎を褒めた。
だが、バスキー、ジャンジャックとグレゴリオ、ギブルスは
幸太郎の背中を叩いて頷くだけにした。男はこれでも通じる。
チワは走ってきて幸太郎の膝に乗ると、ぎゅうっと抱き着いた。
「さあ、暖かいミルクに砂糖を入れてあります。
幸太郎さん、これを飲んで一息ついて下さいな」
ポメラが気の利いた差し入れをした。さすが、モコの母親である。
毛長牛の牛乳はうまい。味は濃厚だが、のど越しが実にいい。
ホットにして、砂糖まで入っているので緊張が溶ける。
残り5人もうまくいきそうな気がしてきた。
「ジュリア様、お力添え、ありがとうございました。
ジュリア様の機転が無ければ、私は折れてしまっていたかもしれません」
「ふふ、礼には及ばぬ」
そう言って、ジュリアはギブルスの方へ軽く首を傾けて示した。
「ギブルスさんの助言でしたか。ありがとうございます」
幸太郎はそう言って、ドライアードたちとギブルスに頭を下げた。
「お前さんは、変わっとるのう。ひっひ。面白い、面白い」
幸太郎はチラッとキーテたちの方を見た。状況はおおよそ聞いたみたいだ。
ただキーテが、愛用していた弓と山刀が戻ってきたのを
狂喜乱舞して喜び、それをエリーがぶすっとして見ているのには、
思わず笑ってしまった。この辺は異世界も、元の世界でも変わりは無いらしい。
男は男だし、女は女か。結局いいコンビなのだろう。
一息ついて呼吸も整ったところで、残り5人の蘇生を再開する。
と言っても、もうキーテの時のような苦労は無かった。
石化を解除したところで、幸太郎が『死』を押しとどめる。
その間にみんなで呼びかける。
光の玉が体に飛び込むと体は再生を始めて『生き返る』のだ。
キーテがいると呼びかけは楽になった。
調査隊メンバーのことをよくわかっているようで、
彼らの『ツボ』を押さえると、次々に目を覚ましてゆく。
思わず笑ってしまったのはシーザの時。キーテが
『このまま死んだらお前がゾエのこと好きだってバラシて言いふらすぞ!』
と叫んだら、バネ仕掛けのように『びよよん』と跳ね起きた。
結局男ってやつは、どこの世界でも、最後まで男のまんまのようだ。
ダンジョンで行方不明になっていたダークエルフの調査隊は、
ここに復活した。幸太郎は正直なところ全員が生き返るとは考えていなかった。
そんなに都合よくいかない、と思っていたのだ。
だが、ここでも幸太郎の予想は大外れ。幸太郎の頭はぽんぽこぷーである。
キーテとエリー、調査隊のメンバー、クロブー長老は
幸太郎に何度も繰り返しお礼を言っている。
さらに何かお礼の品を渡したいと言い出した。だが、幸太郎はそれを断った。
「お礼はいらないよ、キーテ」
幸太郎は、あえて『タメ口』で話す。例の『荒野の聖者』などと
祭り上げられては困るからだ。
「実はお礼の品は、前払いでもらっているんだ。
そうさ、ダンジョンの攻略情報のことだよ。
あの情報のおかげで今日は随分楽ができたんだ。
もちろん、まだダンジョンには先があるけど、
ダークエルフ調査隊の情報は値千金だった」
「し、しかし、あの情報は地下4階までで、私たちだって
『離脱の杖』をまだ必要ないと考えていた程度の浅い場所だろう?
そんな重要な価値は・・・」
「いいや、価値があるんだよ、キーテ。実は・・・その、
俺はダンジョンに潜るのは初めてだったんだよ。
ジャンジャックとグレゴリオ殿、エンリイはダンジョンの経験があるが、
俺はど素人。地下1階に降りた時は、
思いっきりキョロキョロしてしまったよ。はははは。
だから情報があれば予想ができる。予想ができれば対策と心構えができる。
調査隊の情報は非情に貴重な価値があったんだ」
「そうか・・・ありがとう。そう言ってもらえると、我々も非常にうれしいな」
「しかし、これほどの大恩・・・。そうじゃ! 村に伝わる
大きなダイヤモンドを感謝のしるしとして幸太郎様に進呈いたしましょうぞ!」
クロブー長老が宝石の提案をしてきたとき、
幸太郎の頭に閃いたものがあった。
「クロブー長老、ひとつ、欲しいものがあります」
「欲しいものですか? 何なりとお申し付けくだされ。
嫁の追加が欲しいですかな?
ダークエルフは美女揃い、何人でも・・・」
「違います!! 私はそんなんじゃありません!
私が欲しいのは『情報』ですよ! もう!」
幸太郎は顔を真っ赤にして叫んだ。
ギブルスは小さくため息をついて言った。
「若いのう・・・若い・・・」
(C)雨男 2022/07/25 ALL RIGHTS RESERVED




