地下5階へ 12
幸太郎はスケルトン4体にコカトリスの足元を剣で突くように命じる。
『時計塔』の林の隙間からスケルトンは剣で足を狙って突きを繰り返した。
そして、急に攻撃を止める。コカトリスの動きも止まった。
その瞬間を狙って、幸太郎はスピアをコカトリスのアゴ・・・
クチバシの下あたりに突き刺した。グリっとねじって
スピアを引き抜く。コカトリスはクチバシの付け根あたりから
ものすごい出血が始まった。
いや、もう血が『噴き出した』と言ったほうがいい。
ここで幸太郎はスピアに『洗浄』をかけると、踵を返し、
モコたちのほうへ歩き出した。
スピアはもう『マジックボックス』に収納してしまう。
スケルトンは再び足への攻撃を再開。
コカトリスは暴れれば、暴れるほど血が噴き出す。
「お待たせ。まずは全員に『陽光の癒し』・・・っと。はい、OK。
コカトリスはもうすぐ失血死するから心配いらないよ。
いや、その前に脳に血が行かなくなって失神かな。みんな一応まだ口に
タオルを当てていてくれ。俺はキーテたちの体を回収する」
「幸太郎、あのコカトリスは・・・まさか?」
「そうだよ。あのコカトリスは『コピーモンスター』じゃないんだ。
生物だよ。まったく、誰の差し金か知らないが・・・
『誰か』がこのダンジョンに干渉しているらしい」
「ダンジョンに干渉だって・・・? そんなことができる奴がいるのか?」
「現時点では正体は不明だな。それこそ、こっちが聞きたいよ。
ダンジョンに干渉できる奴は文献とかに記述はないか?」
「いや、全く聞いたことがねえ・・・」
「幸太郎殿、俺も未だかつてダンジョンのボスに
『生物』が配置されてる事例は聞いたことが無い。
コピーモンスター以外がダンジョン下層に出現するなんて前代未聞だ。
そもそもダンジョン内部は食い物どころか水さえ無い。
地下1階なら外で水を飲めるが、ダンジョンは雨水などを
全て吸収してしまうから、内部で生息できる生物は皆無だ。
あり得ない・・・はず、なのだが」
「現実にそこにいるわけだな。普通に考えれば、
誰かが連れてきて、最低でも水くらいは与えていたわけか。
食べ物は侵入してきた冒険者たちか・・・。このコカトリスは
石化した生物を保存食にできるそうだ。石化を解除して食べるらしい」
「じゃあ、幸太郎、このキーテたちはコカトリスが食うために
石化して置いてあるってことか?」
「みたいだな。ダンジョンの内部にあるものは時間が経つと
ダンジョンが吸収、または没収してしまうようだが、
石化したキーテたちは『コカトリスのエサ』ってことで
そのまま放置されているのだろう。
皮肉にも、そのせいで石化したキーテたちはダンジョンに
吸収されずに『ここにいる』ってわけさ」
「幸太郎・・・まさかキーテたちを?」
「試してみる。石化の解除と同時に体の損傷の修復・・・。
生き返る見込みは、まったくの未知数だが・・・。
おそらくキーテたちは、イチかバチか、賭けたのだろう。
キーテたちは見ての通り、全て部屋の隅っこで石化している。
これは偶然じゃない。おそらくだが、仲間が石化して、
自分自身も毒に侵され・・・毒で絶命する前に、
残った全員で『石化』を選んだんだ。
次にやってくる者に望みを託したのだろう」
「しかし、コカトリスを倒し、その上でキーテたちの意図を読んで、
石化を解除してくれる奴が来ることを期待したってのか?
いくらなんでも都合良すぎないか?」
「それでいいのさ、ジャンジャック。仲間が石化し、
おそらく解毒のポーションも尽きたのだろう。
弓矢もコカトリスの翼で威力が削がれて、
致命傷を与える事が難しいと考えた。その上で、
『もし、生き残る可能性があるとすれば』という最後の選択・・・
と思えば、理解できる。
無茶ではあるかもしれないが、決して思考を放棄した
『絶望の産物』ではないさ。ところで・・・。
質問なんだが、石化した人間って石化を解いたら生き返るのか?
そういう事例ってあるのかな?」
「ある・・・が、正直、それは『まだ、よくわかってない』ことだな。
石化を解いたら生き返った例は確かにある。
だが、石化を解いても生き返らなかった例の方が多いと思うぜ?
さっきのモコとエンリイのように、完全に石化する前なら
100%安全に解除できるな。だが、完全に石像になっちまったら、
もう後は神のみぞ知る・・・って感じだ」
「うーむ・・・。つまり、石化した時に死亡するのか、
石化してしばらくしたら死亡するのか、全然解明されてないのか・・・」
(なんかキーテたちが生き返る可能性は、
ほとんど無いような気がしてきたな・・・。たぶん、
このキーテたちは魂がすでに抜けているんじゃないだろうか・・・?
『交信』を使ってみるか?
いや、それは良くないな。彼らが最後の望みを託した選択なんだ。
こちらも全力を尽くすのが礼儀だろう。
生き返らなかったとしても、せめて想いは汲んでやらねば・・・)
幸太郎はちょっと溜息をついた。
(こういう時・・・。現代の日本の知識は何の役にも立たないな・・・。
異世界だから当然といえば当然かもしれないが、
何でも知ってる気になってる現代の地球人の愚かしさが身に染みるな・・・。
別の銀河、別の宇宙、別の世界、数えきれない神々、そして、それらを
ぶっちぎりで超越する『天の三柱の大神』・・・。
俺たちの知識など、『1』にすら満たないんだろう・・・)
「幸太郎殿、コカトリスは完全に動かなくなったようだ。
もうタオルはいいのではないか?」
「おっと、そうだ、いかんいかん。
死んでるなら『マジックボックス』にコカトリスが収納できるはずだ。
物思いにふけっている場合ではないな。あ、出口が開いたな。
コカトリスは死んだってことか。
急いでキーテたちとコカトリスを回収しよう」
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