試運転 5
マッド・ウッドが全て『魔石』に変わると、部屋の入り口と出口が
同時に開いた。さらに、出口付近の壁のブロックの1個が
『ゴゴゴ』と音を立ててせり出す。
「あれ、『宝箱』かな?」
「ああ、幸太郎殿、中身を素早く回収して出口へ行こう。
ロイコークたちは来ないとは思うが、一応な」
「?」
ともかく幸太郎は『宝箱』の中身を回収。銀貨2枚だ。
そして急いで出口へ。
「グレゴリオ殿。なんで急ぐ必要があるんだ?」
「ああ、そういえば言ってなかったな。実はボス部屋には1つ、
性格の悪い罠があるんだ」
「罠はみんな性格悪いだろ・・・」
「いやいや、かなり『えげつない』やつさ。
実はな。さっき入り口と出口が両方開いただろ?
あの時に他の人間が入ってくると・・・扉が閉まるんだ」
「閉まる? もう一度ボスと戦うことになるのか?」
「ああ、マッド・ウッドは出ないが・・・
どちらかのパーティーが全滅するまで、扉は開かなくなるんだ」
「なんだってえ!?」
「嫌らしい罠だろ? あの部屋は誰かが『勝者』になるまでは
開かないんだ。勝者だけが部屋を出れる・・・
というルールになってるんだよ。ボス部屋の扉が開いた時に
入ってきた冒険者は、前にいた冒険者への『挑戦者』という扱い。
さらに、扉を壊そうとすると全て自動で、
あっという間に修復される」
「うわあ・・・『ダンジョン・クイーン』って本当に性格悪いな・・・」
「だから扉が開いたら、なるべく早めに外へ出るのが決まりだよ。
まあ、一度扉が閉まれば1時間は開かなくなる。
もうロイコークたちと出くわす心配は無いと言っていい」
「・・・。もし、1時間後に入り口側と、
出口側の両方に冒険者がいたら、どっちが開くんだ?」
「入り口側が優先される。ダンジョンは入ってくるのは歓迎しても、
出ていくのは、お気に召さないようだ」
「いい性格してるよ、『ダンジョン・クイーン』は・・・」
出口から外へ出ると15メートル四方くらいの部屋があった。
部屋の真ん中に下層へ向かう階段がある。あとは何もない。
しかし、ここだけがダンジョンの『安全地帯』だと
ジャンジャックが説明した。
「ここが通称『安全地帯』だ。下層へ向かう冒険者は、ここでキャンプする。
ここはボス部屋からは当然コピーモンスターは出てこない。
そして、この階段は何故か下層のコピーモンスターは登らないんだぜ?
ちょっと実際に見せてやろう」
そう言うと、ジャンジャックは幸太郎とモコを伴って地下2階へ降りた。
ここはコボルドのコピーモンスターが出現するはずである。
「お。ちょうどいい所に。モコに探してもらう手間が省けたぜ」
ジャンジャックはコボルドへ向かって、剣で壁を叩いて挑発した。
コボルドは幸太郎たちを見ると、すぐに襲い掛かってきた。
素早くみんなで階段を上る。
登り切ったところで『下を見てみな』とジャンジャックが言った。
幸太郎とモコが下を見ると、確かに階段の入り口前で
コボルドが4匹見える。だが、ギャーギャー騒ぐだけで一向に
階段を登ることをしない。
そして、しばらく経つとクルリと向きを変えて歩み去っていった。
「へー・・・。本当に登ってこないんだ・・・」
「なんか奇妙ですね、ご主人様・・・」
「本物の魔物なら階段を駆け上がってくるけどな。
コピーモンスターは『生物』じゃないんだ。
あくまでもダンジョンの生み出したコピーなんだよ」
「なるほど・・・。1階へ上がってこないのは
『諸事情』ってやつか。あははは」
「ま、そういうわけで、このボス部屋を出た後の部屋は
ダンジョンで唯一の『安全地帯』ってわけさ。
つまり各階層に1つずつある。逆に言えば、
それ以外の場所は絶対に安全じゃない」
「わざわざ下層へ挑戦しやすいように、こんな場所まで用意してるとは。
『ダンジョン・クイーン』は頭もいいんだな・・・」
幸太郎は『ダンジョン・クイーン』を捕まえて
調べてみたい衝動に駆られた。幸太郎は好奇心が強い。
ただ『ダンジョン・クイーン』を見た者はいないし、
捕まえるのも不可能だろう。
幸太郎たちは地下2階へ降りた。
いよいよ『パーティー』としての試運転を開始する。
フォーメーションは決まっている。前衛にジャンジャックとグレゴリオ。
真ん中に幸太郎とモコ。しんがりがエンリイ。
ダンジョンには『前後』が無い。コピーモンスターは生物でないので、
突然消えたり、出現したりする。
つまり戦っている最中にも、後方に突然『湧いたり』するのである。
だから『後衛』は真ん中になる。
敵次第でエンリイが『前衛』になるからだ。
モコは幸太郎の護衛として、ジャンジャックとグレゴリオ側、エンリイ側、
どちらにも位置取りできるようにしている。
「よーし、始めるぞ。ここはコボルドが出る。まあ、弱い。
だが、あくまで下層での戦いを想定して
『強敵が出現している』つもりでポジションや動きを確認してくれ。
特に幸太郎は実際にラウンドシールドを構えて、
どんな視界になるか、前後から挟まれた場合を考えて
モコとの連携を図ってほしい」
(C)雨男 2022/06/17 ALL RIGHTS RESERVED




