試運転 4
「ここがボス部屋か・・・」
幸太郎たちの前には重そうな両開きの鉄の扉がある。
「ジャンジャック、ボス部屋ってのは全てこの『両開きの扉』なのか?」
「ああ、最下層の『赤い扉』以外は全部これだぜ?」
「ふーん。じゃあ、途中に他の形態の扉があっても見分けはつくってことか」
「まあ、そんな扉は滅多に無いけどな。俺もゴリオも、
そんな扉は数えるほどしか見たことねーよ」
ジャンジャックが『マジックボックス』からバトルアックスを取り出した。
全長は1メートルくらい。アックスブレードは両刃のタイプだ。
「たしか1階のボスは『マッド・ウッド』だったっけ?
ロングソードだとキツイ相手か?」
「剣で相手するのは、ちょっちキツイだろうな。それほど硬くはないが、
普通に剣で斬ろうとすると時間かかる相手だ。
バスキーさんやカルタスさんほどの剣圧があれば、
さっくり切れるだろうけどな。俺のロングソードは量産品だから、
剣が痛むだろう。斧があれば数秒で終わるさ」
だが、そう言った後、ジャンジャックは少し斧を見つめて眉を寄せた。
「どうした?」幸太郎が心配そうに聞く。
「・・・。いや・・・。考えてみれば・・・
ちょっと変だな・・・と、思ってな・・・」
「変? 何が?」
「うーん・・・。大したことじゃねえんだが・・・。
いや、例の全滅の件もあるし、
みんなにも聞いてもらっておいたほうがいいかな?」
ジャンジャックが小さな疑問を説明しだした。
「マッド・ウッドって魔物は大して強くはない。
斧があればガンガン削れる相手だ。
斧が一番いいが、ゴリオのハンマーのような打撃武器も
それなりに有効だ。しかし・・・。ロングソード、
ショートソードだと・・・かなり苦戦するだろう。
木の魔物だから少々剣を撃ち込んでも痛がらずに反撃してくる。
あちこちバラバラに剣で斬っても致命傷にはならねえ。
確実に『折る』か『割る』かしねえと、いつまでも動き続けるし、
叫び続ける。だから・・・マッド・ウッドにはレイピアやエストック、
そして・・・『弓』はほとんど効かないと言っていい・・・」
「弓・・・? あ、ダークエルフか・・・」
「そういうことだ、幸太郎。エルフもダークエルフも
得意な武器と言えば、まず弓、だ。
レイピアのような刺突武器も好む。
しかし、マッド・ウッドは両方とも効果が薄い・・・。
これは偶然だろうか・・・? 普通、地下1階のボスは弱いもんだ。
より地下深くに獲物を引き込むためにな。絶対ってわけじゃねえが、
通常ボスモンスターは、その階の魔物の上位版みたいな奴が出てくる。
ウィードマンならアイヴィーボールって蔦の魔物とかって感じでな。
マッド・ウッドも弱いことには変わりないんだが・・・」
「まるで、ダークエルフを狙い撃ちしてるような・・・か?」
「そうだ。そう・・・なんか、『深層へ来るのを拒んでいる』かのような・・・。
わずかだが、わずかなんだが『違和感』がある・・・。微妙なズレを感じるんだ」
「心配し過ぎじゃないのか? ジャンジャック?」
グレゴリオが苦笑して言った。
「ううん、まあ、そう言われると弱いんだがな。
実際、キーテは70センチくらいの肉厚の山刀を愛用していたせいで、
マッド・ウッドは大した苦労もせずに倒しているらしい。
まあ、武器の準備さえ怠らなければ困らん相手だから・・・
やっぱ気のせいかもな」
「いや、俺はジャンジャックの感じた違和感は大事だと思う。
何かのパズルのピースかもしれん。もちろん、今のところ、
これ以上の答えは出ないから各自心に留めておこう」
幸太郎はモコに『ちらっ』と目配せした。モコも目で返事をした。
『何か得体のしれない敵がダンジョンの奥にいる。
そして、そいつは何かの意図がある。
しかもダンジョンの構成にすら影響を与える存在』
幸太郎とモコは確信した。
「じゃ、開けるぞー」
ジャンジャックが陽気な声で両開きのドアを勢いよく開けた。
そこは50メートル四方くらいの大きな、そして何もない空間だった。
そう、ボスもいない。
『・・・?』 幸太郎が怪訝な顔で見回していると、
後ろで扉が勝手に閉まった。
「来るぜ」
ジャンジャックが明るく言った。
そのとたん、どんな仕掛けなのか天井のブロックが崩れて
マッド・ウッドが3体降りてきた。入り口の正面、部屋の中央付近だ。
しかも、マッド・ウッドが降りてきたあと、天井が自動でふさがっていく。
インチキだ。
「じゃ、耳を塞いでてくれよな」
ジャンジャックがバトルアックスを右手に持って走る。速い。
マッド・ウッドは『キョワアアアアアッ』という叫びをあげた。
うるさい。3体もいると音の反響もあり、すごい音量。
が、すぐに静かになった。ジャンジャックがバトルアックスで
全て薪のように真っ二つにしたせいだ。
1体に1撃。本当に6秒程度で殲滅完了・・・。
(強いわ・・・。別にロングソードでも
秒殺だったんじゃないの、コレ・・・)
幸太郎はちょっとあきれた。
(C)雨男 2022/06/16 ALL RIGHTS RESERVED




