試運転 2
横道からウィードマンが現れた。2体。
ウィードマンは、なんとなく藁人形に似てる気がする。
草の魔物だからか。床が石のブロックなので『ガサガサ』と
竹ぼうきみたいな足音がしている。幸太郎はひそかに
『昨日、鬼オオスズメバチを見てて良かった』と思った。
ウィードマンが初めて見る魔物だったら、やはり幸太郎は
フリーズしていただろう。昨日の経験のおかげで、ちょっと余裕がある。
「へ~。聞いた通り、確かに青草と枯草を寄り合わせて
出来てるみたいな魔物だなぁ。
草原とかだったら至近距離まで見分けられないかも・・・」
「だろ? でも石の廊下じゃご覧の通りさ。
見た目も目立つし、足音も大きい。どれ・・・」
ジャンジャックはロングソードを持って、散歩でもするように
ウィードマンに近づいた。
一瞬で終わり。
ウィードマンが伸ばした腕はカマボコみたいにするりと切れて落ちた。
幸太郎が驚く暇もなく、そのままウィードマンの首や体も
するり、するりとバラバラに切れて床に落ち、草の山になった。
そして、草の山は『ボン』という音と、煙をあげて『魔石』だけが残る。
ウズラの卵みたいだ。
「おー。幸太郎は運がいいな。片方は『赤い魔石』だぜ」
「『赤い魔石』と『青い魔石』・・・? どんな違いがあるんだ?」
「マジックアイテムに魔力をチャージするときに、
2時間くらいかかるって言っただろ?
あれは『青い魔石』だけの話さ。それに『赤い魔石』を一個でも加えると、
時間が30分くらいに短縮されるんだ」
「へえ! そりゃあ便利じゃないか」
「ああ。『青い魔石』は相場次第だが、通常は銅貨3~5枚で買い取られる。
だが、『赤い魔石』は銀貨2枚は下らない。
地下6階くらいまで行けば『魔石』はニワトリの卵くらいの大きさが
ドロップする。さらに完全に真っ暗になる地下8階以降は、
稀に『金色の魔石』が出現するようになる。
こいつを使うと、ほんの数秒でチャージが完了するようになるんだぜ?」
「そりゃあスゴイな。つまりドライアード様なみの
急速充填ができるのか。実戦で使用可能なレベルだとすると、
軍事利用とかもできそうだな」
「まあ、嫌な話だが、その通りだ。『金色の魔石』は
戦争で使えるレベルだから、極端に価格が上がる。
最低でも一個あたり金貨10枚はする。だが、とにかく希少だ。
地下8階ってだけでも危険だが、『金色の魔石』狙いなら
地下11階より下層じゃないとなかなかドロップしない。
実際に行ってみればわかるが、E級冒険者や、D級冒険者では
まず生きて帰れない場所だぜ?」
幸太郎はジャンジャックの勧めに従って、『赤い魔石』だけを
『マジックボックス』に入れた。
『青い魔石』はダンジョンアタックすれば、
いずれ持ちきれないほど貯まるという。
(確か、宿屋が銀貨2枚だったな・・・。
なるほど、コピーモンスターを何体か倒せば
確実に宿とメシにありつけるってことか。
『赤い魔石』もドロップすれば地下1階や2階でもそれなりに稼げる。
・・・稼ぎに来る冒険者と、それを狙う悪党が集まるのも、
ダンジョンにしてみれば好都合ってことだな・・・)
「じゃあ、まずは昨日の成果を見せよう。
モコ、幸太郎に見せてやれよ。強くなったところをよ」
「了解です。では・・・右側の通路の突き当りを右・・・に
ウィードマンが4体いるようです。
そちらに行きましょう。ご主人様、見ててください!」
モコは小太刀とスモールシールドを確認した。
ジャングル・ホッパーの鎧も似合っている。
・・・胸がでかい・・・。
ウィードマン4体に、モコが1人で挑んだ。
幸太郎は感嘆の声を上げることになる。
モコは通路の右端、ギリギリを滑る様に低く、超高速で走った。
ウィードマンは3体でほぼ通路一杯になるので、モコを狙えるのは2体だけ。
正面のウィードマンの腕を切り払うと同時に、スモールシールドで
真ん中のウィードマンの攻撃を受け止めた。そして、そこから鋭く
スモールシールドの下をくぐる様に反対側の端へ。
その際に真ん中のウィードマンの脛を両足とも切った。
さらに左端のウィードマンをモコが蹴り飛ばした。軽々と吹っ飛ばす。
モコは鋭いスピンを入れて後方4体目の背後へあっさり回り込む。
あとはもう、一方的だった。
全て袈裟斬りで次々と『魔石』に変えてゆく。
最後に吹っ飛ばしたウィードマンを始末して終了。
「すごい・・・すごいよ、モコ! 圧倒的じゃないか!
お見事! 大したものだ!!」
「えへ、えへへ」
「敵同士を障害物にして、一度に全員を相手にしないようにする戦略もいい!
一気に倒そうというのではなく、腕や脛を切って
弱体化させる手堅さも素晴らしい!
スモールシールドの使い方も惚れ惚れする!
走るスピード、鋭いスピン、背後をとってからの一気の攻めも
見事と言う他ないな! なるほど、こいつは強い!!」
「・・・幸太郎サン・・・。その辺にしとかないと、
モコの尻尾がちぎれてどっかに飛んで行っちゃいそうだよ・・・」
モコは嬉しくてメチャクチャに尻尾を振り回している。かわいい。
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