お前の兄だ 2
「もちろん兄弟なんかじゃねぇよ。あいつらが勝手に言ってるだけさ。
とにかく関わらないほうがいい。俺たちも迷惑してるんだ。
まさか、ここまで来るとは思わなかったぜ」
ジャンジャックとグレゴリオは、初めて会った時からのいきさつを説明した。
ジャンジャックとグレゴリオがロイコークたちと初めて会ったのは、
ジャンバ王国の南端、ジーベックの町から南にいったところだった。
ジャンジャックとグレゴリオは船でモーラルカ小国群を避けて北上。
ジーベックの冒険者ギルドでしばらく活動することにした。
すでにB級冒険者だった2人は重宝され、指名も多数。
が、2人は『初めての土地だ。慎重にやりたい』と指名は断り、
短く済みそうな依頼を選ぶようにしていた。
ある日、ジーベックの南東、モーラルカ小国群との国境付近に
ゴブリンが目撃されたという情報が入る。
この世界は海側の方に町は偏り、アルカ大森林、ジュッカ大森林という
例外はあるものの、山の方へ近づくほど人の住んでない地域が
広がっている。現在ジャンバ王国の南にはモント王国が隣接しているが、
いつ他の国に代わってもおかしくない。
要は『あてにはできない』わけだ。
ジーベックの商人ギルドから調査の依頼が入ってきた。
国境沿いに東に向かってゴブリンの調査をしてほしい、というものだ。
調査とはいうものの、モント王国は治安が悪く、
盗賊なども跋扈している。その上、トロールなどの魔物、熊などの
大型の獣も出現する可能性もあるのだ。
一応、冒険者ギルドは参加条件をつけた。
『D級冒険者なら6人以上。C級冒険者なら3人以上』
これをジャンジャックとグレゴリオが引き受ける。
B級がやるというなら文句をつける者はいない。
ジャンジャックとグレゴリオが準備を整えて海岸からスタート。
ここから3泊めで折り返して戻ってくるという予定を
ギルドに説明しておく。
そして1日目、夕方が近くなってきたころ・・・
ロイコークたちがレッドボア2匹に襲われているところに出くわした。
ロイコークたちの動きも悪くは無かったが、いかんせん力不足。
ジストの弓が何本か刺さったり、アニサの魔法が1発当たったくらいでは、
レッドボアは倒れない。硬い体毛と、厚い皮下脂肪を突破しないと
致命傷にはならないのだ。
だが、レッドボアなどジャンジャックとグレゴリオの敵ではない。
2人はロイコークたちを助けると、そのままキャンプを張ることにした。
彼らはジャンジャックとグレゴリオに感謝しきりで、
ずっと『助かったよ』を繰り返している。
そして、その日は終わった。
翌日。ロイコークたちに『危ないから帰れ』と言うと、
『俺たちも調査に付き合う』と言い出した。
もちろん足手まといにしかならないので断った。
ロイコークたちは一旦諦めたように見えたが・・・
なんと、離れてついてきたのだ。
そして、手に負えない敵に遭遇するたびに、
ジャンジャックとグレゴリオは彼らを助けるはめになった。
いい迷惑である。しかし、見捨てるのも後味が悪い。
予定の距離を進めなくてジャンジャックとグレゴリオは困った。
が、その日の夕方、池の水を飲んでいるゴブリンを発見。
ジャンジャックが追跡して、ねぐらにしている洞窟をつきとめた。
3日目。日の出と共にジャンジャックとグレゴリオが洞窟を襲撃。
ホブゴブリン、ゴブリンウォリアー、ゴブリンメイジを討ち取り
群れを壊滅させた。どこで誘拐されたのか、女性も3人救出。
予定の距離を調査できなかったが、代わりにゴブリンの群れを壊滅させたのだ。
これで商人ギルドも文句は出ないだろう。
ロイコークたちは本当にいい迷惑だった。
そのロイコークたちはちゃっかり洞窟の前で、
逃げてきたゴブリンを殺しながら勝どきを上げている。
いい気なものである。
「・・・と、ここまでなら、迷惑ではあるが、あいつらを
忌避する理由にはならねえ。問題はこっから先なんだよ・・・」
「先・・・? これ以上何があるって言うんだ?
いや、確かにここまでなら『兄貴分』って話が見えてこないな」
幸太郎はジャンジャックとグレゴリオに話の続きを促した。
ジーベックの冒険者ギルドに戻ってきたジャンジャックとグレゴリオは、
ゴブリンの群れを『ついでに』壊滅させたことを報告。
女性3人は、そのままギルドに保護してもらった。
そして報酬を受け取った後は、宿屋に泊って一日休養にあてた。
次の日、ギルドに顔を出したジャンジャックとグレゴリオは、
受付の職員の男からとんでもない話を聞かされる。
「はぁ?! ロイコークたちをメンバーに加えていたことを、
ちゃんと報告しろだと???」
「そうです。そういう事は、ちゃんと報告してもらわないと困ります。
報酬も一部は返してもらいますからね。いいですか?
いくらB級だからといって、なんでも許されるわけではないのですよ?
今回の依頼にどれだけの戦力が必要だったのかは、
ちゃんと記録として残しておくために・・・」
ここでジャンジャックが『ふざけるな!!』と怒鳴った。
職員の男はひっくり返って立てなくなり、その場で失禁。
奥歯がガチガチと鳴って、言葉も出ない。
ギルドの中にいた全員の注目が集まった。しかし、相手はB級冒険者。
下手に首を突っ込めば命が無い。
D級、E級の冒険者が束になったところで、到底かなう相手ではないのだ。
溜息をついたグレゴリオがジャンジャックをなだめて、
職員たちに詳しい話を聞くことにした。
2階の支部長も降りてきて、応接室を用意してお茶を運ぶよう指示。
そして一昨日、ジャンジャックとグレゴリオがギルドから
宿屋へ向かったあと、何があったのかを職員たちが教えてくれた。
(C)雨男 2022/06/07 ALL RIGHTS RESERVED




