モコたちと合流
モコたちと合流する前に、モーリーがエドガンとヒガンの様子を
見に行ってくれた。武器や防具は完成しているだろうか?
ところが、ものの20秒もしないうちにモーリーは帰ってきて言った。
「防具は完成したが、武器は作り直しを繰り返しておるそうじゃ。
なんか面白くて仕方ないらしい。
明日の朝、ダンジョンへ行く前に取りに来て欲しいと言っておった」
どうやら、新しい技法は気に入ったようだ。
小太刀と十字手裏剣は期待できそうである。
幸太郎たちはダークエルフの村のパン屋に戻ってきた。
ここが待ち合わせの場所になっている。幸太郎は完成したパンを
次々に『マジックボックス』に放り込んだ。
焼きあがったばかりのパンは、まだ熱々だ。最初のころ作ったパンは
もう冷えているが、どちらもとても食欲をそそる良い香りがする。たまらん。
「聖者・・・幸太郎様、そんなに大量のパンが
『マジックボックス』に入るのですか?」
「ええ、ドライアード様たちのお力です」
この嘘はアルカ大森林では万能だ。誰一人として疑問に思わない。
パン屋では果物で作ったジャムも売っていた。もちろんガッツリ購入する。
アルカ大森林では砂糖を作っているし、ホーンズ山脈に
岩塩の採掘場があるので、食に関しては意外なほど豊かに感じる。
ダークエルフは男も女も美形揃いなので、幸太郎の地球から
来た人々なら、誰もが気に入るだろう。異世界恐るべし。
ただし、熊や狼、さっきの鬼オオスズメバチなど、
人間を食う生物もいるので油断するとあっさり死ぬのは、いずこも同じ。
幸太郎がパンとジャムをしまっていると、ジュリアが西の方を見た。
「どうやら戻ってきたようじゃ」
ジュリアが消えると、次の瞬間にはジャンジャックたち全員を連れて現れた。
ほんとに凄い。
「おかえり、みんな。モコ、ダンジョンはどうだった?」
「はい、1階と2階へ行ってきました。私も優先的に戦わせてもらって、
だいぶ慣れたと思います。ご主人様をきっとお守りいたします!」
「ありがとう、モコ」
「幸太郎、モコの耳は頼りになるぜ。罠ははっきり聞こえるし、
敵の位置も捕捉できる。それからモコは予想以上に強いぜ?
最初の頃こそ、1対1じゃないとうまく戦えない感じだったがな。
慣れてきたら完全に化けた。もう今なら1対4でも軽々と圧倒するほどだ」
「ああ、ショートソード、スモールシールド、そして蹴りの
コンビネーションが強い。幸太郎殿も明日見たら驚くこと請け合いだな」
「実際、ボクも驚きだったよ。今のモコは、おそらく戦力的には
C級くらいの力量があると思う。
戦闘だけみるならE級やD級じゃ相手にならないはずだよ」
「で、でも実際には、まだウィードマンやコボルド相手ですから、
強くなったと言うには早計だと思います。まだまだ精進します!」
「うんうん、でも無理はしないようにな」
幸太郎はモコの頭をなでた。モコの尻尾が『もさこら、もさこら』と、
うれしそうに左右に揺れる。
全員がニマニマと幸太郎を見た。
(はっ・・・。しまった!
また俺の左手が勝手に・・・)んなわけないちゅーに
幸太郎たちは小狼族の村に帰ってきた。
バスキー、ポメラ、フレットとテレジアが出迎えてくれた。
タマンとアカジンがポメラと一緒に夕食の準備をしてくれている。
夕食は・・・『ハンバーグ』!!
バスキーが買ってきた毛長牛の肉を、ひき肉・・・ではなく、
チタタプして作ってある。塩や乾燥させて粉にした薬草を混ぜて練り込み、
焼いたもの。それに小狼族のソースがかけてあった。
小狼族のソースは、野菜や果物、薬草、香辛料、塩などを
オイルに漬けこんで作った、どちらかというとドレッシング。
だが、これは魔性のソースだった。
(うまいっ! このソース・・・牛肉のハンバーグに合う!
しかも、これ・・・ヤバイ!!
昨日の野菜炒めは『ダイエットに最適』だったが・・・こいつは
『ダイエットの天敵』だっ!! こってりしてるハズなのに・・・
薬草のせいか、食べると胸やお腹がスッキリする!!
なんか清々しい! いくらでも食える気がする!)
幸太郎だけではなかった。ジャンジャックとグレゴリオ、エンリイも、
再びバカスカ食っている。
ハンバーグにかぶりつき、スープをぐびぐび。パンにもがぶり。
ふかしたジャガイモもポイポイと口に放り込む。恐ろしい・・・。
ふと、幸太郎はギブルスとドライアードを見た。
(そういえば・・・夕方にあれほどお酒を飲んだけど・・・。
全く平然としてるな・・・。食欲も普通みたいだし・・・。
この世界はスゴイ人(?)ばかりだな・・・)
幸太郎は、食事はそこそこにして、みんなのために
紅茶と緑茶を用意する。もちろん、
ドライアードたちのために『飲料水』もずん胴鍋で出す。
満腹になった人は、幸太郎の用意したお茶で一息つく。
ドライアードたちはもちろん、ゴンゴンと水を飲み干した。
ずん胴鍋3杯で『げひひひ』と下品な笑い声を出す。美人が台無し。
幸太郎の席の両側にモコとエンリイがいるが、
ここでとんでもない話が始まった。
「エンリイ・・・ほんとによく食べるわね・・・。全然太ってないのに・・・」
「ん? ボクはねー。食べると全部身長に
いっちゃうみたいなんだ」顔がハムスター
「いいなぁ・・・。私なんて下手に食べると、
すぐ胸が大きくなっちゃって、邪魔・・・」
「ボクはそっちこそうらやましいよ。ボクも胸を大きくしたくて
『牛乳がいい』って聞いてから一生懸命飲んでたけど、
身長しか伸びなくてさ。おかげでいまや190センチに突入だよ・・・。
胸はさっぱり大きくならなかったのにさ・・・とほほ・・・」
「私は胸じゃなくて身長が欲しいわ・・・。
大きい胸なんて走る時に邪魔なんだもん。
もう少し身長があればなぁって思う。だってご主人様と並ぶと、
まるで親子みたいで・・・」
「ボクも身長は減らしたいところだよ・・・。
あと20センチ低ければ、幸太郎サンとつり合いがいいのに。
それに女性らしい魅力っていう点ではマイナスにしか・・・」
幸太郎をはさんで、女同士の会話が飛び交う。
免疫の無い幸太郎は、黙ったまま、だんだん顔が真っ赤になってきた。
額から汗が噴き出す。
「お、俺は、2人とも、そのままで、充分、女らしくて、
か、かわいいと、お、思うよ」
幸太郎はモコとエンリイの頭を撫でると、
逃げるようにお茶の追加と、『飲料水』を作りに席を立った。
ギブルスはそれをチラッとみて、小さく溜息をつく。
「若いのう・・・。幸太郎は、まだまだの『まだ』、じゃな」
まだ全力で食べているジャンジャックとグレゴリオ、
エンリイはそのままに、とりあえず今日二手に分かれた後のことを
報告しあった。と、言ってもダンジョン組はひたすら
コピーモンスターを狩って、戦っていただけなので、特に出来事はない。
幸太郎が異世界人であるという話の部分は抜いて、その他の話をした。
もちろん、『全滅』の話はバスキーとポメラには言えない。
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