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異世界徒然行脚 『Isekai Walking~nothing else to do~』  作者: 雨男
ネクロマンサーとアルカ大森林 4
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アルカ大森林の市場を回る 15


 幸太郎たちは大きな湖のそばに転移した。湖のほとりに沿って、



ずらりと市場と店舗が続いている。



店の数なら商業都市ユタをしのぐかもしれない。





「大きな湖・・・。すごい数の店ですね・・・」





「ここはガンボア湖の北側じゃな。この湖はドライアード様たちの


力の影響で、大型の魔物はおらん。そのため水上交通が盛んで、


モーラルカ小国群の中から様々な商人が一攫千金、


成り上がりを目指して集まるのじゃよ。


にぎやかなのは見ての通りじゃが、気を付けんと


粗悪品を掴まされるぞ?」





「粗悪品ですか。それは都合がいい」





幸太郎は笑った。ドライアードたちは不思議そうな顔をしている。



ギブルスだけは意味が分かったようだ。





「それにしても、大きな湖ですね・・・。東はもうすぐそこに


ホーンズ山脈群、しかも終点が近いようですね。


山がどんどん低くなってきてます。西は森ですが、


南西は草原になって、遠くに城のようなものが見えますね。そして・・・」





幸太郎が一番不思議に見えるもの、それはガンボア湖の対岸。



湖は琵琶湖のようと言うほど大きくはないが、それでも対岸まで



5キロ以上あるだろう。その対岸の先が、いきなりサバンナみたいに



木々がまばらになっており、さらにその先が木々の無い砂漠みたいに



なっているのだ。森から湖、湖からサバンナ、砂漠と



極端な変化を見せている。





「遠くに見えるのは・・・砂漠でしょうか・・・?」





「うむ、左様。このシンリンのエリアの最南端がガンボア湖。


そして、わずか数キロ先に見えておるのが『カラル砂漠』よ。


本当の名前はタウロタタン語で


『ミイ・フルエラ・ダイ・オルト・カラル』・・・。


『誰もが渇いて死ぬ場所』という意味じゃ。まあ、今では


タウロタタン語を扱える者はおらん。皆、死に絶えた。


名前の一部だけが残っておる」





「なんとも不思議な光景ですね・・・。


アルカ大森林からこんな近くに砂漠が・・・」





「さあさあ、木々の無いつまらん場所の話は終わりじゃ。


買い物を済ませて、早う説明を聞きたい! さあさあ、さあさあ」





やはりドライアードたちにとって、木の無い場所は



全て『つまらん』場所のようだ。








幸太郎が森から湖のほとりへ下り、足を進めようとした瞬間、



悲鳴が聞こえた。








傘の下で商品を並べて売っている小さな店から、



男が商品を奪って逃げようとしているようだった。





「やめろ! ちゃんと金を払えよ!」





叫んだのは子供だった。



その店は、まだ幼い男の子と女の子の2人だけで



営んでいるようだ。





バキッ





泥棒の男が男の子の顔を殴った。





「生意気なガキが!」





その子供は鼻が折れたらしい。かなりの出血をしている。



しかし、泣きながらも男にしがみつく。





「それを、・・・返せ!!」





バキッ





泥棒の男はもう一発、男の子の顔を殴った。





「やめて、お兄ちゃんを殴らないで!」





泥棒の男は、今度は妹の顔を蹴った。



妹が吹っ飛ぶ時、歯が何本か折れて飛び散るのが見えた。





幸太郎は迷わず駆け出していた。男の子が2回目に殴られた時には



『マジックボックス』から仮面を出して装着し、



さらに黒フードを取り出していた。





「いかん! 頼む、シンリン!!」ギブルスが叫ぶ。





「わかっておるわ!」





ギルドが無いということは、自由に商売ができるという事。



しかし、同時に全ては自分たちの裁量・・・ある意味



『無法地帯』でもあるのだ。このようなトラブルは、



はっきり言って珍しくないだろう。





しかし、今日はここに異様に沸点の低いサイコパスがいた。幸太郎だ。



幸太郎は仮面を着け、黒いフードの外套を羽織る。



完全に殺すつもりなのだ。





ジュリア、モーリーは一旦ギブルスを連れて、姿を消した。



幸太郎があの姿になった以上、ギブルスは知り合いであることが



バレるわけにはいかない。





シンリンは空間転移で幸太郎の前に出た。



幸太郎は急ブレーキを余儀なくされる。





「どけっ!!」





幸太郎はむき出しの怒りを放った。シンリンも思わずたじろぐ。





「待つのじゃ。ここは私に任せよ。あの泥棒は私が殺す。


黒フード殿は子供たちの手当を頼む。


ここは任せよ、任せるのじゃ・・・」





幸太郎は2秒ほど停止したあと、肩の力を抜いた。





「申し訳ありません。つい、カッとなりました。


私は子供たちを治します。シンリン様は泥棒を捕まえて下さい」





泥棒は幸太郎たちとは反対方向に走っている。



しかし、誰も彼を捕まえようとはしない。



とばっちりを受けたくないのだろう。見ているだけだ。



やはり日常茶飯事なのか。







しかし、今日は違う。シンリンがくいっと指を曲げた。



泥棒はふっと消えると、シンリンの隣に宙に浮いた状態で現れた。





「な、なんだぁ、こりゃあ?!」





泥棒が空中でわめいた。手足をジタバタとさせているが、



何の効果も無い。当然だ、空中でもがいても



周囲には空気しかないのだから。





「くっ! おい、女、てめえの仕業か! 


痛い目にあいたくなかったら、今のうちに降ろせ! 


聞いてんのか? 犯すぞ、てめえ!!」





どうやら泥棒はシンリンを知らないらしい。近くの店舗から



『死んだぞ、あいつ・・・』とつぶやきが漏れる。



幸太郎はもう泥棒自体には興味が無くなったので、仮面のまま



子供たちの所へ向かった。





「仮面のまま失礼するよ。今、治療する。・・・大丈夫かい?」





幸太郎の『陽光の癒し』が兄妹を包む。



兄の鼻も元に戻り、妹の折れた歯も復元できた。





「な、治った・・・? 魔法? お、おじさん、ありがとう・・・」





「なぁに、いいってことさ。おじさんに任せておきなさい。


何を盗まれたんだい?」





「あ! そうだ、あの泥棒、母さんの形見のブローチを!」





幸太郎はシンリンにうなずいた。





「おい、愚かな泥棒よ。その手の中のものを返すのじゃ」





「けっ、誰が!! 欲しければ・・・」





バチッ





いきなり泥棒の男の右手が音を立ててはじけ飛んだ。



右手がバラバラになって降ってくる。



中から宝石のついたブローチがフワフワと飛んで幸太郎の手に収まった。





「ぃギャアアアアアアァァァァ!!!!」





泥棒の叫びが響き渡った。遠巻きにギャラリーができていたが、



もう静まり返っている。



ほとんどの人々は初めて見た。ドライアードの力の一端を。










(C)雨男 2022/05/21 ALL RIGHTS RESERVED







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