アルカ大森林の市場を回る 9
「小僧、お前は意外と金持ちなんじゃな? さっきとは別の意味で驚いたわ。
お前はギブルスから支援を受けておるのか?」
「ひっひ、バーバ・ヤーガよ、そうではない。あとでちょっと説明してやろう。
心配するな。怪しい出所の金ではないぞ?」
(いえ、ギブルスさん・・・この金はエルロー辺境伯とブロトから
ドロボーしてきたお金なんですけど・・・)
だが、幸太郎は口出しするのはやめておいた。人の世は先立つものは必要だから。
「そうか・・・。では後で話を聞かせてもらおうか。
それにしても、ちょっとこれは大金が一気に入ってきたわい。
ふむ、何かオマケしてやろうかね? そうじゃ、小僧、
ダンジョン破壊について占ってやろうかの。なに、タダでいいぞ。
さすがに今日はかなり儲かっておるから・・・。んんっ??」
バーバ・ヤーガは、いきなり何か思いついたようにギブルスを見た。
ギブルスは『さっ』と目をそらす。
「・・・ギブルスよ・・・。さっきのやり取りは・・・。
ちっ、まったく・・・。あたしはまんまと乗せられたわけじゃな?
相変わらず油断ならん奴じゃわ・・・」
バーバ・ヤーガは、ちょっと笑って『変わらんな』と言った。
「よし、小僧。このカードの束を両手で持て。では目を閉じよ。
次は息を吸ってから、心の中で10数えながら、ゆっくり息を吐くんじゃ。
・・・。それで準備はできたわ」
バーバ・ヤーガは、カードの束を幸太郎から受け取りシャッフルした後、
伏せたままカウンターに並べ始めた。トランプではない。
タロットカードに似てる気がする。しかし、決定的に違うのは・・・
カードが白い光を帯びていることだ。
バーバ・ヤーガは、伏せたカードの上に手をかざして目を閉じた。
そして、目を開けるといくつかのカードの位置を入れ替える。
それを何度も、何度も繰り返していく。
およそ3分もそれを繰り返した後・・・ついに手が止まった。
「出たわ。これ以上カードは変更を求めておらん。
しかし、ずいぶん、時間がかかったものよ。こんなことは初めてじゃ。
何か・・・大きな力が複雑に絡んでおるように感じるが・・・」
バーバ・ヤーガは、カードをめくり始めた。
だが、最初の1枚目をめくった時に眉を寄せて手が止まった。
『・・・』 バーバ・ヤーガは、少し険しい顔をする。
そして、今度は次々と手を止めずにカードをめくり始めた。
バーバ・ヤーガの顔がどんどん険しくなっていく。
いや、次第に苦しそうな顔になってきた。
カードは全てめくり終えた。その表になったカードをみる
バーバ・ヤーガの顔は、恐ろしいくらいに真剣な表情を浮かべている。
そして、ぽつりと言った。
「全滅じゃ・・・」
幸太郎たちは全員キョトンとした。
ややあって、ジャンジャックが困惑しながら口を開く。
「え?・・・全滅って、俺たち・・・が?」
「いや、敵が・・・じゃ、ない、のか?」グレゴリオも困惑している。
「ボクらが全滅? ボクらはかなり強いと思うし、最悪ボクの分身と、
幸太郎サンの死霊術で敵を足止めして逃げる事だってできるんだよ・・・?」
エンリイが困惑しながらも、少し冷静な分析を入れてきた。
「いえ、そもそも致命傷さえ治す、
ご主人様の『陽光の癒し』があるのに、全滅って・・・。
そんなことあり得るのでしょうか・・・?」
モコの言うことは至極もっともな話だ。
「待て待て・・・。それ以前に『離脱』のマジックアイテムがあるのに、
1人も助からないのか? どんな状況なんだ?」
幸太郎も、まったく想像がつかなかった。
『離脱』さえ使えば、最悪でも使用者だけは
帰還できるはずではないのか? しかし占いの結果は『全滅』?
ダンジョンの中で何が起きるというのか。
全員がざわつき、口々に取り留めも無い推測を口にしだした。
だが、モーリーがピシャリと場を押さえる。そして言った。
「落ち着くのじゃ!・・・バーバ・ヤーガよ、話せる範囲で構わぬ、
言え、情報を。占いならまだ『確定』ではあるまい。
打てる手を打つのが、今、我らにできることじゃ」
「さすがはモーリー様よの。バーバ・ヤーガ、お前さんの占いはよく当たる。
かなり信用できると言ってよい。
だからこそ、現状に違う要因を足すことで未来を今とは違う方向に
転がすことも可能なはずじゃ。ひとつひとつ変えてゆこう」
幸太郎は自分が恥ずかしくなった。幸太郎は中身42歳の
『おっさん』なのだ。モコたちとは2周りも年が違う。
モコたちは幸太郎にしてみれば、自分の子供みたいな若者たちなのだ。
自分まで一緒にうろたえていれば、世話は無い。
(我ながら、なんと情けない・・・。ダンジョンに入れば、
自分が最年長なのに・・・。全滅と言われてうろたえるとは、
ギブルスさんやドライアード様たちを見習わなくてはならないな・・・)
じっとカードの配置を見続けていたバーバ・ヤーガが、
顔を上げて、静かに言った。
「正直・・・ダンジョンに潜るのは、賛成できん・・・。
ここまでカードの配置が悪いと、ちょっとやそっとで覆るとは思えんのじゃ」
(C)雨男 2022/05/13 ALL RIGHTS RESERVED




