アルカ大森林の市場を回る 8
「そっちの小狼族の娘はどんな魔法を使うんじゃ?」
「私は生活魔法しか使えませんから、戦闘中は剣と投げナイフだけです」
「そうか。ならば、2人とも強力な護符を付けてよいようじゃな。
護符は魔力を妨害する護符と、エレメンタルの力を妨害する護符があるが・・・。
お前たちには、あたしのとっておきを出してやろう。ひゃっひゃっひゃ」
バーバ・ヤーガは一度奥に引っ込むと、2つの首飾りを持ってきた。
「これは、あたしの母、バーバ・ババが作った護符を再現したものじゃ。
これは一見、護符と言うより、装飾品にしか見えんじゃろう。
だが、この首飾りには強力な術式が組み込んである。
母のオリジナルじゃ。この首飾りは『魔力を妨害する術』と
『エレメンタルを妨害する術』そして『物理攻撃に対する防護膜の術』が
仕込まれておる。これを身に付ければ、首飾りは持ち主の魔力を
少しずつ貯め込んで、半永久的に術を発動し続けるんじゃよ。
魔力とエレメンタルへの妨害はかなり強力じゃが、物理攻撃への
抵抗はオマケみたいなもんじゃから、過信せんようにな」
ジャンジャックとグレゴリオ、エンリイは口をあんぐり開けて驚いている。
「な・・・なんだって?! 札じゃなくて首飾り?
しかも3つもの効果?! おまけに持ち主から魔力を吸収して、
半永久的に発動? 信じられねえ・・・」
「こいつは驚きだよ・・・。ボクらの常識とは発想からして、
根本的に違うね・・・」
グレゴリオが説明するには、基本的に護符は紙か木のプレートで
出来ているという。紙、または木のプレートに
魔力を込めた特殊な薬品を塗る。それに魔力なり、
エレメントなりの力を妨害する呪文を書き込んでいくのだ。
そして、裏側には魔力をチャージするための呪文を書き込んで
バッテリーの代わりにする。
それを服のポケットや、鎧にポケットを作って入れておく・・・
というのが普通の護符。効果も1枚で1つしかない。
だから通常2枚を持ち歩く。そして、二か月もすれば
ただの紙切れになってしまうため、もう一度魔力をチャージする必要がある。
そう、『魔石』を使うか、魔導士に頼むしかない。
護符自体も破れたり、割れたりするため、最低でも1年に1回は買い替える。
冒険者のサイフに痛い装備だ。
「持ち主の魔力を吸収して貯め込むというのは、
『隷属の首環』と同じ技術を使っておる。3つの効果を同時に発動させるのも、
同じく『隷属の首環』の技術の応用じゃな。
じゃが、3つの強力な術式をこの小さな首飾りに組み込むのは
母のオリジナルよ。これが作れるのは、母とあたしだけじゃわ。
ひゃっひゃっひゃ」
「う~む、これはすごい逸品なんですね。気に入りました。
これを私とモコの分買います。お値段はいかほどですか?」
「1つ金貨20枚じゃ。2つで40枚じゃの。払えるか? 小僧」
幸太郎が『マジックボックス』に手を入れる前に、ギブルスが噛みついた。
「バーバ・ヤーガよ、ちと高くないか? お前さん、
なんかババアになってからすっかりガメつくなったのう。
幸太郎たちは、これからダンジョン破壊で命を懸ける
ことになるのじゃぞ? 少しくらい負けてやらんか」
「ガメつくないわ。これはそれだけの元手と技術を使っておる!
金貨20枚でもこの先充分お釣りがくるはずじゃ!
だいたい、ガメついのはお前じゃろうが、
王国にいた時もガッポリもうけておったのは、どこのドイツじゃ?」
「わしは、あくどいマネはしておらんぞ! 正当な利益を得ておったし、
稼いだ金もバンバン使って経済の役に立っておったわい」
「お前の金の使い道は女ばっかりだったじゃろうが!
あたりかまわず女に手をだしよって、あげく泣かせてばかりであったろう!」
「わしは寂しそうな女性に優しくしておっただけで、
そんな酷いことはしておらんぞ!」
「はあ? 開き直るな、スケコマシめ!
そんなことだからエリザベーテもお前に・・・」
たまらず幸太郎が割って入った。
「そこまで、そこまでにしてください! はいっ、金貨40枚です!
大丈夫です! ダンジョンのものは基本的に、全てもらえることに
なってますんでっ。ね? ね?
ここはいったん、落ち着いてください」
どうも、ギブルスの関係者は、
みんなエネルギッシュな人たちばかりのようだ・・・。
当分、死にそうもない。
ここでジャンジャックとグレゴリオとエンリイが
『自分の分も欲しい』と言い出した。
「ん? お前たちの分もか? じゃがのう・・・。
これは2つしか在庫がないんじゃ。
1つ作るだけでも一か月は必要じゃわ。ダンジョン破壊には間に合わん」
「ふむ。ならば、このモーリーが力を貸してやろうぞ」
「モーリー様が? うう~ん。それならば・・・。
並行して作っても・・・。いや、それでも一週間は必要じゃ」
しかし、ジャンジャック、グレゴリオ、エンリイは
『それでもいい』と言った。ダンジョンから帰ってくるのは、
今から8日後の予定だ。
「わかった。お前たちがダンジョンから帰ってきた時には
完成しておるはずじゃ。ただし、前金じゃぞ?
さすがに金が無ければ材料が3つ分も買えん。材料と、いくつかの
工程はエドモンドの息子たちに頼まねばならん。もっておるか?」
ジャンジャックとグレゴリオは『どん』と出した。
「エンリイの分は俺が出すよ。俺のパーティーメンバーの装備だからな」
「いいの? 幸太郎サン・・・?」
「もちろん。どうせ俺の持ってる金はアブク銭だよ。
働いて得た金じゃない。何かの役に立つならば、
ガンガン使うべきだ。任せてくれ」
幸太郎は合計で金貨60枚をカウンターに積んだ。
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