アルカ大森林の市場を回る 4
「幸太郎さん・・・あんた話がわかる男なんだな・・・。まいったぜ。
だが、これなら心置きなく全力をつぎ込める。
いいぜ、今、俺たちが作れる最高の革の鎧を仕上げてみせよう!
こいつは鉄のプレートアーマーなんか目じゃねえぜ!」
エドガンとヒガンは奥へ行って、何やら布に包まれた物を2つ持ってきた。
それをカウンターに置くと布を解いて広げた。
「これは・・・?」
包みの1つは何か、細長い昆虫の胴体みたいに見える。ただし、超デカい。
もう1つは何か折りたたんだ革らしい。
「このデカいものは『ジャングル・ホッパー』っていう
デケえバッタの胴体部分だ」
ヒガンが『素材一覧』と背表紙に書かれたアルバムみたいな本を
持ってきて広げた。
ジャングル・ホッパーはでっかいショウリョウバッタだ。
しかし、胴体部分から推測すると、全長は3メートルくらいありそうに見える。
「こいつは草食で大人しいが、なにせ、そのジャンプ力と翅で
2キロくらいは楽に飛べる。捕まえるのは非常に苦労するヤツだが、
こいつの素材としての価値は一級品だ。
ちょっと触ってみな? びっくりするぜ?」
幸太郎は恐る恐る触ってみた。
「これは・・・! 硬い・・・のに、弾力がある! しかも、軽い!
こんなに軽いなんて!」
触った感触はまるで弾力のある樹脂の板みたいだった。
押してみても復元力が強いのがわかる。
そして軽い。このでっかい胴体部分がおそらく8キロくらいしかないだろう。
驚く幸太郎にエドガンが言った。
「これを厚めの布地に取り付けると、
簡易的なプレートアーマーみたいになるんだ。
だが、軽さは比べ物にならないぜ? そして強度も鉄のプレートより
はるかに強い! 金属のプレートは打撃に弱いが、
こいつは打撃、斬撃、刺突、なんでもござれよ。
さらに、こいつにもうひとつ・・・、『これ』を下地にする」
カウンターのもうひとつの包みの中の革を広げた。
それは白い牛の革に見えた。一見、何の変哲もない革の材料にみえる。
「ふっふっふ、幸太郎さんよ、特に変わったところは無いって思ったろ?
実はこいつはな。『ジャングル・オオクマバチ』の腸なんだ。
ジャングル・オオクマバチの外殻は薄くて素材にならねえが、
腸はちょっと薬品で処理すると一級品になる。
ジャングル・オオクマバチはずんぐりむっくりで花や樹液、
若葉を食べる大人しい昆虫だが、最大で2メートルくらいになるし、
針があってスピードもある。捕獲はけっこう大変だ。
そして肝心の腸の扱いがとても難しい。薬品の処理も熟練の技術が必要だが、
これを加工するのがまた・・・。
ちょっとそっちを持って引っ張ってみな」
幸太郎が端っこを持って引っ張ると、革は『ぐにゅううううう』と伸びた。
触った感触は硬そうだったのに、力を入れると驚くべき弾力を示した。
「がっはっは。驚いたようなだな? 幸太郎さん!
そうよ、これがこの腸の特性だよ。
こいつは普通のハサミやナイフでは切れない。剣で斬っても、
ちょっと凹むだけで元通りになるんだよ。少し打撃には弱いが、壊れない。
剣や槍はこいつには通らないぜ? しかも、恐ろしく軽い。
まあ、その分、加工には特殊な薬品と工具が必要で扱いが
非常に難しいんだが・・・。
俺たちエドヒガン・ブラザーズなら朝飯前ってモンよ。
もうわかったかい? まず、こいつの革を加工して革の鎧を作る。
そしてその上にジャングル・ホッパーの外殻をプレートとして取り付ける。
厚手の服の上にこいつを装備すれば、プレートアーマー以上の
防御力が期待できるぜ? そっちのニイちゃんたちの
鎧はワイバーンだろ? しかも2層と4層か、大したモンだ。
だが、この複数の虫の素材を使った革の鎧はワイバーンを上回る防御力だ。
しかも重量は圧倒的に軽い!
こいつをつけてりゃあ、ちょっとやそっとじゃ死なないぜ!」
ここでジャンジャックが驚きの声を上げた。
「さすがに、こいつは驚きだぜ・・・。
単一素材でも複層式の鎧を作るのは難しいってのに、
複数の素材を使用して、複層式の鎧を作るなんざ、
聞いたことがねえ・・・。金属ならともかく、それぞれの素材の
弾性や硬さなどはマチマチだから、普通はお互いが邪魔しあうってのに・・・。
はっきり言って神業クラスだ。世の中は広いぜ・・・」
「くっくっく。まさに神業クラスの腕前よの。お前さんたちの親父さんが、
あまりにあちこちの国から『召し抱えたい』という招待がくるのに閉口して
アルカ大森林に引っ越した時は、少々もったいないという気もしていたが・・・。
息子たちがここまで育ったんじゃ、引っ越しは正解だったようじゃのう。
エドモンドもきっと喜んでおるはずじゃ・・・」
「ジイさん・・・親父を知ってるのかい・・・?」
「わしはギブルスじゃ。しがない商人じゃよ。ひっひ。
エドモンドは昔の飲み仲間じゃった。
若いころは酒を飲んでは女の話ばかりしておったがのう。
あいつも立派な父親になったもんじゃて。
もう・・・心残りはあるまい」
エドガンとヒガンは顔を見合わせて笑った。
「なあ、今日は何か気分がいいな?」
「おお、さっきから腕が鳴って仕方ねえ」
「ハンマーもさっきから『始めようぜ』ってうるせえしな」
「幸太郎さんよ。革の鎧2着、確かに引き受けたぜ!
おっと、ついでに革のヘルメットも細工しておこう。オマケだ。
ミノウ、そこの革のヘルメット2つ、仕事場へ運んでくれ」
幸太郎はもう一度、頭を下げた。
「よろしくお願いします」
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