シェイクダウン 13
幸太郎は『パーティー登録』という項目を思い出していた。
経験値がパーティーメンバーに等しく加算されると書いてあった項目のことだ。
幸太郎はモコのステータスを見てみた。予想通りだった。
やはりモコのMPも大幅な上昇をしている。初めて会った時の
モコのMPは10。しかし、今は40にまで上昇していた。
レベルは33。HP39。MP40。
モコのジョブ『村の娘』のレベル33ってなんだ? という
ツッコミたいところはあるにしろ、魔力量が極端な上昇をしている。
HPを上回るほどに。
幸太郎はこの『パーティーメンバー』の意味が理解できた。
(これは・・・モコの経験値が俺に加算されるシステムじゃない。
俺の経験値がメンバーにも加算されるって意味だ。
つまり一方通行だな。しかし、これはメンバーにはとんでもない
反則級のメリットがある・・・。俺は死ぬ寸前まで魔法を使ったことで、
一気に魔力量が上昇したが、モコは全く無自覚に、
何の代償もなくMPが増加している。完全に努力なしで強くなってる・・・。
こいつはまさにチート能力だろ・・・。まあ、経験値が仮に100として、
俺とモコの両方に100ずつ加算されているのか、それとも半々、
つまり50ずつ加算されているのかはわからんが、
パーティー全体としての底上げにはありがたい。この際、勝手だけど
ジャンジャックとグレゴリオ、エンリイも登録しておこう・・・)
幸太郎はゲームも好きだ。レベル上げの効率なんかも
結構気にするほうではある。だが、現実の殺し合いにそんな効率は
無意味だ。さっきの『パーティー登録』を使うと、
自分の経験値が減る可能性がある。自分の成長が遅れるという意味だ。
だが、メンバーはゲームと違って消耗品ではない。
死ねば二度と戻って来ない。
ならば信頼できるメンバーは自分の成長効率より重い意味を持つ。
次のメンバーが自分を裏切らないという保証はどこにも無いからだ。
ステータスを細かくチェックすれば、各メンバーへの
経験値の入り方はわかるだろう。だが、それは果てしなく無意味だ。
自分一人だけが強くなる方法より、パーティー全員が強くなるほうが
有利に決まっている。現実では『次』は無いのだから。
幸太郎は不思議そうな顔をするジャンジャックたちに、
すまんと謝ってから話を戻した。
「そうだな、ゴーストだけでなら50体は呼べる。ゾンビだけなら20体。
スケルトンだけなら11体ってとこだ」
幸太郎は少し余力を持たせて答えた。
「スケルトン11体って・・・。おいおい、1人でパーティーが組めるぜ?」
「いや、召喚する組み合わせでは、小さな傭兵団なみの戦力があるな・・・」
「それより、幸太郎サン・・・。なんか数がすごく具体的なんだけど、
どうしてそんなに細かく言えるの? 普通の魔導士は
『1日〇回』みたいな言い方をするよね?」
「ああ、ちょうどいい。俺のスキル『鑑定』を説明しよう」
「鑑定・・・『鑑定』?!・・・もしかして、幸太郎サンは
冒険者ギルドにある『鑑定の水晶』と同じ事ができるの?」
「実は、俺はそっちの水晶は見たことないんだ。
だから同じかどうかは知らない。でも、多分エンリイが想像してる事と
同じことができるよ。これを使うと、
対象の生命力(HP)、魔力量(MP)、種族、ジョブが見えるんだ。
ジョブは『冒険者』とか生業を表しているのではなく、
ファイターとかタンクとか、主に戦闘に関連するものを優先的に
表示しているみたいだね。本来これはアステラ様が旅する俺に、
見知らぬ土地でも困らないように与えてくれたもの。植物に使えば、
食用可能かどうかわかるのさ。かなり便利だよ」
幸太郎は、あえて名前やレベルに関する部分は言わなかった。
これはジャンジャックたちへの配慮だ。名前を見れば、
ジャックとグレゴリオが貴族出身なのはわかる。
問題はそれをこの2人が知られたくないと思っているらしいことだ。
そしてステータスウインドウのことは伏せておいて、
『鑑定』にまとめておくことにした。
「ほほう・・・幸太郎殿の『鑑定』はギルドにある
『鑑定の水晶』の簡易版みたいなものだな・・・。
あっちはスキルや魔法まで表示されるが、幸太郎殿のは表示されないのか。
しかし、実戦での価値は恐ろしいものがあるな・・・」
「ボクが魔猿族だって看破したのは、そのスキルを使ったからなんだね。
すごいや。そのスキルがあれば、実戦では敵の種族も間違えないし、
攻撃がどれくらい有効なのかも、その場でわかるってことだよね?
冒険者なら全員欲しがるスキルだよ!」
「おお、そうだな! スラッグ系なんて見た目が全部一緒だもんな。
攻撃してくるまで種類はわかんねえけど、『鑑定』があれば
戦う前に正体がわかるってことか」
「そう。実はこれでジュリア様を『鑑定』したら、生命力、魔力量が
『アルカ大森林限定』で無限と表示されたんだよ。
ドライアード様たちのジョブは『樹海の主』・・・。森の中では無敵だね」
「それで幸太郎殿は、我らが森から無限の魔力を供給されていることを
知ったわけか。まったく珍しい能力を持っておるのう・・・」
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